星を盗む世も末
御堂幸
常葉映
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
常葉映
御堂幸
御堂幸
御堂幸
見えるかも
常葉映
常葉映
狂いそうになるな。
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
常葉映
ブラックホール?
御堂幸
いや、そうだ
常葉映
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
御堂幸
常葉映
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
御堂幸
提供しているんだよ
御堂幸
御堂幸
御堂幸
計りしれないくらい
御堂幸
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
看護師
看護師
看護師
看護師
言ってるでしょ?
看護師
看護師
今日で何回目なの
御堂幸
常葉映
常葉映
常葉映
連れ出してくれたんだ
常葉映
常葉映
信じて。
御堂幸
御堂幸
攫いに来ました
看護師
看護師
困っちゃうわ
看護師
まで寝てましょうね。
常葉映
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
思わず手を掴んだら
しなやかな指を絡めて 大丈夫だよと応えてくれる
ああなんてことだろう。 整った優しさに甘えてしまう、
弱い私は決めかねているのに
目を逸らした事実の数を 心のなかで反芻するたび
怖くて悲しくて苦しくて痛くて
、
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
御堂幸
──なんて儚くて美しいんだろう。
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
常葉映
御堂幸
常葉映
産まれたこと。
常葉映
御堂幸
常葉映
報われるんだよ
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
御堂幸
私の言葉を露ほども聞かまいとするかのように、羽や光や花が描かれた表紙を執拗になぞっている。
貝殻みたいな形の爪の、凸凹として滑らかじゃないこと。
血の気の感じられない唇から逃げるように滲んだ血。
頼りない骨が主張する折れそうな首。
一面を油性の黒で塗り潰された、同級生たちからの寄せ書きを背に隠し、
やたら厚い本をシーツ越しの太腿に置いて何かを口ずさんでいた。
常葉映
なりにいくの。
常葉映
喋るのが止まないのは、
これらの絶望が自分以外には見えていないと思っているからで
傘を忘れた雨の日に似た思いを持て余しながら、私は静かに抗おうとする。
常葉映という存在の消費期限は なくなってしまった。
余命を過ぎた人間のよすがは何?
体だけは健常な私には何と分からなくて、歯がゆいなあと思った。
生と死を跨いだ末には、煙のごとく消えそうな危うさを感じていた。
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
常葉映
気体を器官内で出し入れすることが、あたかも正しいみたいだった。
仄かに伝わる肩の微熱が、私を留める命綱だという気がしてならなかった。
常葉映
常葉映
常葉映
御堂幸
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
常葉映
御堂幸
御堂幸
お互いの声を通さない日は敵が来ない
カーテンを開ける者はいない
つまり、世界には二人なのだ。
こういう憂鬱ならば永遠であってほしいと、一人でこいねがう。
おそらくどうしようもなく、 私が悪魔なのだった。
常葉映
常葉映
この302号室
常葉映
二階から三階の特別室に移動したということを、歌うように教えてもらった。
いつものように清潔な白い布を着て、温かで眠い空気にくるまれていた。
皺の無い私のスカートを撫で、リボンを引っ張り、目を細めた。
私はおもむろに、花束を差し出す。
御堂幸
買って来たよ
御堂幸
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
ふふ。弾んだ声を漏らして 受け取ってくれる。
控えめで強かな春が、 窓辺の夏に挿された。
近くに寄ると、しゅわしゅわ、ぱちぱち、と爽やかな音が弾けている。
セルリアンブルーの瓶に垂れた結露が煌めき、ちっちゃな泡が踊りながら偽の茎に纏わりついていた。
常葉映
甘さで傷つかないから。
常葉映
常葉映
それらは言い訳じみていたけれど、
二種の季節を欲ばりに詰め込んだ芸術を見る顔が、うっとりとろけている。
瞬きもせずに眺めていた
たっぷりと時間をかけて、 服の裾が震えた。
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
恋文だと渡された遺書の、 丸っこい字が浮かぶ。
これは天啓だった。 紛れもなく降ってきた。
果てから下ろされた救いを私は確かに掴み、固く結わえて巻きつける。
雲のないむこうを想い、笑った。
まっすぐ捉えた光が揺れ惑う、 静かに暴れて流れていく。
辺りには氷の粒子が散りばめられている、そんな錯覚に陥る。
静謐とした空気が、二人をまるごと呑んでしまいそうに思えて
まさかあなたはこんな夜を耐えてきたのかと愕然とした。
せめて凍りかけた指が溶けますように。と祈りながら手を握り返す。
二酸化炭素が靄と化し、 絡まりながら昇っていく。
常葉映
常葉映
泣いてくれる?
常葉映
常葉映
常葉映
呻くような囁きに脳を殴られた。
そんなのは呪詛にすぎないんだから
清い台詞の薄っぺらさを 覚えているから
私は酷く怯えていて、弱く絡まる熱しか支えにできずにいる。
御堂幸
常葉映
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
常葉映
はじめて映が叫んだ。 慣れていないせいか掠れていた。
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
……わたし、
常葉映
幸せに死ねる。
常葉映
常葉映
常葉映
私が守ってきた柔い膜が裂かれて、砂糖菓子みたいに素敵なものが滑り込んでくる。
言葉のせいで何もかも変わるかもしれないと恐れていたのを知りながら、
そう。あなたは、
いともたやすく告白なんかをしてしまえるひとだったのだ。
最も私を象ってきた恐ろしさの理由が
いま、剥がれ落ちる。
御堂幸
御堂幸
御堂幸
御堂幸
世界は一変した。
舌に載せた魔法は甘く痺れて、
紛れもなく恋だった。
常葉映
御堂幸
二人で向き合って床に座り込む。
額をつけると鼻が当たる。 なんだかおかしかった。
啄むように唇を合わせて、 奥に進もうとする。
窒息してしまうかもしれないと怖くなるほどの快さを受ける。
途方もない感情に、胸を押さえて荒い息を吐いた。
ありったけふざけてから、
入口に辿り着く。
錆びた匂いのする扉を押す。
暗がりで私たちはキスをした。綿飴みたいに、やわくてあまかった。
撫でる裸からする消毒液の匂いを奪おうと、あちこちを舐めて噛む。
くすぐったいよとはにかむのもかまわずに、私は全身に口づけした。
寒いねえと交わしながら、 相手の髪に触れ合った。
御堂幸
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
御堂幸
私は、決して忘れないと誓った。
ようやく二人は柵を乗り越える。 手を繋ぎ、並んで立つ。
御堂幸
御堂幸
いないんだって。
常葉映
御堂幸
常葉映
常葉映
創世記を読まないで。 祈りを捧げないで。 空に思いを馳せないで。
此処にいる間は一生、 私だけを想っていてほしい。
「きみの思惑と我儘を許してあげる」、そういう顔をしてくれた。
常葉映
常葉映
御堂幸
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
御堂幸
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
のろいが呪文に成り代わる。
これは、何より最も素敵なおまじない。きっとそうだ。
常葉映
御堂幸
常葉映
あなたの瞳は星を飼っている。
月の光に共鳴している。
儚く溢れる輝きが、涙に映る白が、何にも替え難く眩い。
脈絡なしに、宝石姫という童話を思い出した。
こんなにも綺麗な女の子の一等星が、奪われようとしている。
そんなのあまりに残虐で、悲劇ばかりの世は末なんだ。
御堂幸
御堂幸
するんだよ、
御堂幸
常葉映
御堂幸
御堂幸
御堂幸
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
御堂幸
常葉映
御堂幸
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
常葉映
御堂幸
御堂幸
夜はまだ明けないで、待って。
はゆる、と心で問いかけた。
映の眼に映る私も、幸福だろうか。
幸せのかさが洪水をおこし、皮膚は焼けそうなほど痛い。
余りある愛おしさを身に湛えて、横を向いたとき
私は天使を見た。
宙に舞う灰を被ったような羽根を、
飛沫をあげる水面みたいな眸子を、
幻ではなく見たのだ。
常葉映
御堂幸
御堂幸
御堂幸
貴女が幸福でありますように。
せーの