最終話 たった一人で戦い続けた緑
青色が落ちていく――
きんときを埋めた木から離れると 酷い喪失感に襲われた
シャークんはその度に きんときを埋めた木まで戻った
とても不安で この場所を離れたくない
木の周りを ずっとうろうろとさ迷い続ける
シャークんがその場所を 離れることができたのは
きんときを埋めて 一ヶ月が経った頃だった
ふらふらとさ迷い歩いて
シャークんはずっと 不安の中で生きてきた
漠然とした心の空虚が シャークんを責める
きんときを失った喪失感は 耐え難いものだった
心が痛くて 彼からずっと離れられなかった
ようやく慣れたと思って その場を離れることができたのに
シャークんはまだずっと 不安に襲われている
その不安をかき消すかのように
シャークんは辿り着いた町で 人間を襲った
他に夢中になれる何かが欲しかった
この不安をかき消してくれるなら なんでもよかった
水色が落ちていく――
はっと気付いたシャークんは泣いていた
失われた色に 何もできない自分に
酷く心が落ち込んでいく
その不安は意味もなく怒りを生み
シャークんは更に人間に固執した
だいすきな彼らの傍にいれば その喪失感と不安を忘れられる気がした
人がいない夜は怯えて眠った
こわい、こわいと震えて縮こまる
自分がいなくなってしまう
シャークんはただ一つ 自分に残された何かに縋り付いていた
それがなくなってしまったら シャークんは消えてしまう
消えたくない
どうかまだここにいさせてほしい
お願いだから もうこれ以上誰もいなくならないで――
楽しいことだけを考えていたい
不安に襲われる毎日なんて嫌だ
どうかその不安を取り払ってほしい
シャークんは縋るように 人間社会に溶け込んだ
はやく、はやく
おねがい、はやく――
その鮮やかな赤を シャークんは待ち焦がれた
スマイルが歩けるようになった頃 全員は病棟を後にした
ゆっくりと時間をとるために 町に戻って
スマイルの家を目指した
スマイルの教育課程に 皆は頭を悩ませていた
Nakamu
Nakamu
きんとき
きんとき
きんとき
きりやん
旅の途中で野宿のために三人は 食事の準備をしながら話し合っていた
その傍らで スマイルが木の上を見上げていた
視線の先にはシャークんがいた
スマイル
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークんはスマイルに手を伸ばした
スマイルは小さく首を傾げる
シャークん
こくんと頷いたスマイルは シャークんの手を掴んだ
ぐい、と力強く引っ張られて スマイルは木の枝に引き上げられた
スマイルが 木の上に乗ったことを確認すると
シャークんは木の上から降りた
スマイルはそれに視線を落とした
スマイル
シャークん
スマイル
シャークん
スマイル
スマイル
シャークん
スマイルはぱちぱちと目を瞬かせると 木の上から飛び降りた
シャークん
木の真下にいたシャークんは 慌てて落ちてきたスマイルを受け止めた
うまく受け止められて シャークんは胸を撫でおろした
Broooock
シャークんの叫び声が 気になったのだろう
料理をしている三人も こちらを気にしていたが
様子見をBroooockに任せたようだ
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
スマイル
スマイル
スマイル
なんだそれは
シャークんにはスマイルの行動原理が いまいち理解できなかった
首を傾げるシャークんに Broooockがあははと笑った
Broooock
Broooock
Broooock
Broooock
Broooock
器が大人なせいでスマイルが 赤ん坊だと言われても頭がこんがらがる
シャークん
わかりやすくため息をついて 抱えていたスマイルを解放した
シャークん
Broooock
シャークん
Broooock
シャークん
シャークん
Broooock
ぽんぽんと土を掃ったシャークんは
ひらりと手を振ると 一人で森の中を歩いて行ってしまった
Broooockはちらりと スマイルの様子を窺うと
スマイルは気にした様子もなく
きょろきょろと自分の衣服に 汚れがついていないか確認していた
シャークんとスマイルの距離感に Broooockはげんなりとする
Broooock
スマイル
Broooock
スマイル
スマイルはシャークんの態度に 気にした様子を本当に見せない
Broooock
一行はスマイルの家に帰還した
時折きりやんが帰ってきていたものの
畑なんかは野ざらしになって
枯れているものもあれば 雑草が生い茂っていた
きりやん
Nakamu
Nakamu
きんとき
ぞろぞろとみんなが 家の中に入っていく中
スマイルは後ろを振り返る
最後尾にはシャークんがいたはずだ
そのシャークんの後ろ姿が見えたが 彼の姿は森の中に消えていった
スマイルは一度だけ家を振り返ると
何も言わずに シャークんの後を追いかけた
みんながシャークんとスマイルが いない事に気付いたのは
それから三十分後のことだった
スマイルの傍には使い魔がいた
スマイルにはよくわからなかったが
歩くだけで彼についてくるので なんとも思っていなかった
シャークんを追ってきたスマイルは 見事に迷子になっていた
森に入ったものの道という道はない
スマイルはどんどん森を進んでいったが シャークんの姿も見つからなかった
次第に日が落ち始め 辺りが暗くなってくる
スマイルの傍にいた犬がぐるる と声を上げたのを聞いて
スマイルはそちらに視線を移した
そこにはスケルトンがいた
すかさず犬がスケルトンにとびかかる
ガシャンッ――!
それに気を取られていると 足元からにゃん、と鳴き声が聞こえて
スマイルは振り返った
そこには 緑のよくわからない化け物がいたが
猫が一声鳴くとそれは逃げて行った
スマイル
スマイル
スマイル
ここまで来る道中は
Nakamuやきんときが中心となって 敵を殲滅してくれていた
敵という敵も見たことがなかったが あれらは敵で間違いないらしい
ずっとスマイルの肩に止まっている鳥は 何のために存在するのか不明だが
なんとなく 一人じゃない安心感が得られて心強い
ふわふわ浮いている水色の生き物も
草を摘んでいて何をしているのか よくわからないが
ついてくるので放っておいた
スマイルはそのまま戻ることはせず どんどん突き進んだ
特に宛てもない
何故シャークんを 追いかけたくなったのかと問われると
本当になんとなくだった
その内犬が耳をぴんと立てて スマイルが行く先を歩き始めた
どこかへ案内してくれるようだ
スマイルはその後を追った
少しだけ開けた場所に出て スマイルは顔を上げる
犬は先に駆けて行った
そこにはシャークんが立っていた
犬に気付いたシャークんは 犬の頭を撫でた
シャークん
わん、と一声鳴くと
シャークんが顔を上げて スマイルと目が合った
シャークんはぎょっとした
シャークん
スマイルは頷く
シャークん
驚いたシャークんは慌てて スマイルに駆け寄ってきた
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
スマイル
シャークん
更にシャークんは大きな声を上げて驚く
そんなシャークんを後目に
スマイルはその横を通り抜けて 襤褸い小さな小屋を見上げる
周囲は荒れ果てているが
どこか畑のようなものが あった形跡がある
スマイルはしゃがみ込んで その畑をじっと観察する
すると隣に水色の生き物がやってきて そこに摘んでいた草を植え始めた
それに気付いたシャークんが 近付いてきた
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイルは小さく首を傾げると 左右に首を振った
シャークん
スマイルは立ち上がると
再び小屋に向かって行って その中に入っていった
シャークんもスマイルを 一人で行動させるのは危険だと判断し
その後をついていった
シャークんは慣れた手付きで 小屋の松明に火を付けていく
小屋に明かりが灯って 懐かしい景色を再現してくれた
ここを出て もう一年が経とうとしている
埃まみれで 蜘蛛の巣だらけになっていて
シャークんはおえっと舌を出した
スマイルは小屋の中を見回っていた
シャークん
するりと出てきた言葉に シャークんは目を細めた
シャークんはみんながひた隠す スマイルの過去を
彼に告げたかったのだと 今自分で理解した
シャークん
階段を上がればスマイルの部屋
それは新しい家も変わらない場所だ
スマイルは素直に階段を上がって 自分の部屋に入ろうとする
シャークん
シャークん
スマイルは戸を開いて下を確認すると 穴が開いていて顔を顰めた
スマイル
シャークん
シャークんは笑いながら スマイルの後ろについてきた
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
一人でシャークんが笑っていると
スマイルはその穴をひょいと 飛び超えて自分の部屋に入っていった
そんなスマイルを見て シャークんは表情を落とした
シャークん
スマイル
シャークん
スマイル
スマイル
シャークんは目を見開いた
スマイルは そんなシャークんの様子に気付かず
がらくただらけの スマイルの部屋を見ている
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
シャークん
スマイル
スマイル
スマイル
シャークん
シャークんの声は震えていた
スマイル
きっとみんな怖かった
過去のスマイルを 今のスマイルに否定されることが
だから誰もスマイルに 彼の過去を告げることができなかった
スマイル
スマイル
スマイル
……それは……お前ら次第だ
シャークん
スマイルの言葉が頭の中を反芻して
胸が熱くなると同時に視界が滲んだ
Nakamuが諦めるという言葉を聞いて 泣き喚いた時
シャークんはもう それを受け入れてしまっていた
絆が解けた音がした瞬間から――
スマイルはワイテルズの一員では なくなってしまったから
シャークんにとって ずっと特別だったスマイルは
あの時いなくなったのだ
ただ誰にも言えなかった
みんなはまだ希望を持っていたから
スマイル
スマイル
なんて事もないように
こちらも見ずに ぺちゃくちゃと喋るスマイルに
シャークんは胸をぎゅっと握りしめて
ぼろぼろと涙を零した
もう感じられないスマイルの気配
失われた彼との絆
彼と二人で過ごした たくさんの思い出――
全部全部過去のもので スマイルは何一つ持っていない
シャークんだけが その記憶を持っている
彼がその過去に手を伸ばさないなら それはそれで良かった
失われた絆に シャークんは固執するつもりはなかった
彼はもう ワイテルズの一員ではないのだから
固執する意味もない
スマイル
スマイル
なのに―― 彼はそれに手を伸ばそうとする
スマイル
スマイル
解けた絆を また結ぼうとする
仲間に入れてほしいと 手を伸ばしている
シャークんにはわからない
どうしたらまたスマイルが
ワイテルズという絆に中に 戻ってこられるのか
シャークん
シャークん
絞りだされたシャークんの声に スマイルは振り返った
痛いほど胸を握り締めた
そんなものも気にならないくらい シャークんは泣いていた
彼がいなくなってしまった事が悲しくて
どうしてもみんなで集まりたいと願って
みんなが知恵を絞ってみんなが頑張った
その結果が形だけの彼だなんて
誰が望むだろう――?
スマイル
とん、と音が鳴った
スマイルが穴を飛び越えて シャークんの目の前に降り立った
スマイル
スマイル
スマイル
得意げに笑みを浮かべるスマイルに シャークんは新たな涙を滲ませた
小さく微笑んだりしたことを 見たことはあったが
彼は魔族なのだから 感情など持ち得ない
あの頃とは違うスマイルに
彼がもう戻ってくることはないのだと 直感する
しかしそれは決して 取り返しのつかない悲しい事実ではない
きっと彼はこれから 新しい自分を築いていくのだ
彼は――
ワイテルズのみんなが待ち望んだ スマイルだ
シャークんは涙を目に滲ませながら 満面の笑みを浮かべ
スマイルの胸をとんとこぶしで叩いた
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
スマイル
シャークん
スマイル
スマイル
スマイル
シャークん
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
シャークん
シャークんとスマイルは この古びた小屋で一晩中語り明かした
シャークんが語る過去のスマイルを
今のスマイルは 一つも否定せずに聞いてくれる
受け入れて、かみ砕き、理解してくれる
薬剤師であった彼の話
魔族であった彼の話
魔法学校の教師であった彼の話
シャークんの誕生の秘話
ワイテルズの事
シャークんは余すことなく すべてをスマイルに伝えた
夜が明け朝になると 小屋の戸を叩く者がいた
Nakamu
Nakamu
迎えに来てくれたのはNakamuだった
シャークんはにかっと笑った
シャークん
シャークん
そしてこの古い小屋に 興味を持ったNakamuが居座り
ミイラ取りがミイラになり 彼らの帰宅はさらに遅れるのであった
おしまい
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