この気持ちに気付いてしまったら

目の前には 大きな水槽の中で 気持ちよさそうに泳ぐシャチがいる

のあさんも いつもよりテンションが高い

ゆあんくんから変な声が出る

どしたw

何だか間の抜けた返事が返ってくる

「四人で回りたい？」

そう聞こうとしたら

ゆあんくんが私の腕をとり

歩き出す

突然のことに

思考が追いつかない

すっと腕を離される

少し名残惜しい気がするのは

気のせいかな

電車での距離の近さに

いつもと雰囲気が違う気がしたけど

そう思ったのも束の間

ぐいっと

ゆあんくんが近付く

いつもより距離が近いからか

ゆあんくんの声のトーンも低くて

知らない男の人みたいに感じる

私の反応も

いつもの自分じゃないみたい

ゆあんくんが指を差して 教えてくれる

耳元で聞こえる声に 心臓が跳ねる

ゆあんくんの方を見ると

思った以上に近いところに

ゆあんくんの顔があった

思わず顔を背けてしまう

水槽を眺めてみるけど

隣のゆあんくんの気配が

気になって仕方がない

何だか

胸の辺りがむず痒くて

落ち着かない

いつものゆあんくんと違う距離感に

調子を狂わされながら

ペンギンのブースへとやって来た

「サバサバしてる」

「かっこいい」

周りからそう言われ続けてるうちに

「可愛い」は

みんなの期待を裏切る気がして

言えなくなった

…こんな話

誰にもしたことなかったのにな

予想外の反応に固まる

ゆあんくんの顔が一気に赤くなる

てっきり

茶化されるかと思ったのに

可愛いイルカたちの動きに 釘付けになる

イルカが勢いよく泳いでくる

そして…

バシャッ

思い切り水を掛けられた

思ったよりたくさん掛かって

服が結構濡れてしまった

空調が当たると少し冷える

ゆあんくんが

着ていた上着のシャツを脱いで

こちらに差し出す

脱いだシャツを

私の肩に掛けてくれる

借りたシャツからは

同じ洗剤の香りに混じって

少しだけゆあんくんの香りがした

出口手前にあるお土産屋さんで

じゃっぴとのあさんと合流する

何だかちょっと気恥ずかしくて

ゆあんくんから距離を取る

ふと目についたのは

コロンとした 可愛いペンギンのぬいぐるみ

ぬいぐるみのすぐ横に置いてあった

チンアナゴのカチューシャを手に取る

二人のことをひとしきりいじって

水族館を後にした

前を歩く二人

朝よりちょっと 距離が縮まってるかも？

今日のデートは成功かな？

後でのあさんに話聞かないと！

ゆあんくんが カバンから取り出したのは

私がさっき見ていた ペンギンのぬいぐるみを

そのまま小さくしたものがついた キーホルダーだった

「可愛い」のに

「私」っぽくないのに

どうしよう

すごく

ゆあんくんを見ると

すごく優しい顔で私を見ていた

脳裏にあの言葉が蘇る

「えとさんは可愛いじゃん」