『唯一。』

ガヤガヤ…

女癖悪いって噂だぜw

ガヤガヤ…

高校2年、さとみ。

入学してから散々騒がれ続けて、変な噂を立てられて。

ほとんどの噂が嘘だと気づいてはいるが、それを言うことは諦めている。

そう壁をつくって、距離を置いている。

これが、ころんとの出会いだった。

まぁアホな奴が来たな、とは思ったけど、何だかんだ話してて楽しいし。

ころんの隣が存外気に入っていた。

俺のデススマイルで何度かころんを不機嫌にさせたりしたけど、

意外とゲームではいい勝負をして、二人でかなり盛り上がったりして。

…二人で一緒に、ころんの両親に騒ぎすぎだとお叱りを受けたりも、した。

ころんが変な噂を立てられた。

「あいつ、男が好きらしいよ」

「うぇ、きも。俺狙われるかもーw」

「いやいや、無いって。だってさ、あいつが今狙ってんの…」

「さとみだろw」

「結局顔かよ、うぜぇw」

気づいたら、ころんが戸惑った顔で保健室に行こうと言ってきた。

そこで周りを見渡して、ようやく、自分が彼らを殴ったのだと分かった。

何で保健室だよ、と聞けば、一度もこちらを見ずに馬鹿じゃ無いの、とだけ言った。

何気なしに触れた左頬が鈍く痛んで、確かに俺は馬鹿かも知れない、と少し思った。

「私が一番、」

「ころんくんだけを見てて、」

何で逃げたのかは分からない。

何で、知りもしない女と張り合っているのかも分からない。

とにかく走っていたら、チャイムの音が聞こえてきた。

ころんも遅刻しているはずだが、一緒に遅れて行く気にはなれなくて。

さっさと一人で向かった。

もう見慣れたころんの泣き顔は、今までよりずっと苦しそうだった。

好き。

ころんのことは、好きだ。

それがどう言う意味でなのかなんて、とっくに分かっていた。

おかしな感情。

親友に抱くにしては、あまりにも歪んだ好きという思い。

今、ここで、

ありえない想像をして、少し笑ってしまう。

ころんと付き合ったら、どれだけ楽しいだろう。

出かけるにしても、家にいるにしても、どうせこいつは騒いでばっかだろうけど。

毎回俺の目を見てさとみくん、って呼ぶものだから、つい愛着がわいてしまった。

ふと、ころんの頭を撫でたくなって、でも必死にそれを抑えた。

いつも俺が拭ってやった涙も、これからは違う誰かに拭ってもらえるように。

ころんの中に、間違っても俺という存在を残してしまわないように。

あくまで、軽蔑をして去ってしまう友人を演じるんだ。

俺が、アイツらの家族じゃなかったら。

変な規則作って、変に子供を縛る、お堅い家族なんかじゃなくて。

ころん家みたいに、普通に騒げて、でも怒られたりもする、平和な家庭だったら。

僕、話したい人と話すよ。

馬鹿じゃないの？

さとみくんは、

僕のこと大好きってことね！

カラカラ…（襖を開ける）

「さとみくんなんて大っ嫌い！！」

「何も、諦めることはないの。」

あの苦しい環境の中に、母さんを一人置いてきたことが果たして正しかったのか。

そう問われると、自信はない。

けれど、俺はこうしたかった。

それに、信じたいとも思う。

大好きなのね、と笑った母の目を。

諦めることはないの、と背中を押してくれた母を。

厳しい環境だ何だと文句を募らせていたけど、でも、本当は。

俺は、ちゃんと愛されてた。

そう、信じたい。

その分、俺はころんを愛したいと。

そう思ってしまったのだから、もうどうしようもない。

Fin