テラーノベル
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この世界には男女以外にも性が存在する。 人類をα(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)の三つに分類する「第二の性」
α(アルファ)は、生まれつき優れた能力と強いカリスマ性を持つとされる。 本能的に優位に立ち、社会のリーダーとなることが多い。 独特のフェロモんを持ち、Ωを強く惹きつける。
β(ベータ)は、人口の大部分を占める一般的な人々。 男女の通常の生殖機能を持つが、αやΩのような特別な特性やフェロモンは持たない。
そして、Ω(オメガ)。彼らは最も数が少なく、時に社会から偏見の目で見られることもある。男女関係なく周期的に「ヒート(発情期)」が訪れ、その間は強力なフェロモンを放出し、αを強く惹きつける。また、男女問わず妊娠・出産が可能となる特性を持つ。 αとΩは互いを「番(つがい)」とすることで、本能的に結びつく。
この物語は、そんな輝きを放つ6人組のグループ「シクフォニ」と、 彼らが抱える秘密の物語である。
夜闇に包まれたスタジオの空気は、いつもより少し張り詰めていた。 新曲のレコーディングも終盤に差し掛かり、メンバーそれぞれの集中力が高まっていく。 その中心で、LANはマイクを握りしめていた。 彼の歌声は、繊細でありながら力強く、感情の襞を鮮やかに描き出す。
LAN
心の中でそう呟きながら、LANは次のパートに備えた。 しかし、その時、体の奥からじわりと熱が込み上げてくるのを感じた。
LAN
数日前から、抑制剤の効きが悪くなっているような違和感があった。 だが、まさか、こんな大事なレコーディング中にヒートの兆候が現れるとは。 LANは顔には出さず、必死に平静を装った。 しかし、Ω(オメガ)である彼の体は、確実に変化を始めていた。 微かに甘いフェロモンの匂いが自分から漏れているような気がして、LANは内心焦りを募らせた。
暇72
LAN
雨乃こさめ
LAN
β(ベータ)であるメンバーたちには、LANのフェロモンは感じ取れない。 それが、LANにとって唯一の救いだった。 シクフォニのメンバーには、誰も自分の第二の性を明かしていなかった。 オーディションの規則でも、それはプライベートな情報として伏せることになっていたからだ。 LANは、自分がΩであることを、何としてでも隠し通したかった。 もし知られれば、グループの活動に支障をきたすかもしれない。 そんな不安が常に彼の心を占めていた。
みこと
すち
LANの体調を気遣う声が飛ぶ。 βである彼らには、彼の異変が単なる体調不良にしか見えていない。しかし、その直後だった。
いるま
それまでヘッドホンを外し、隣でスマートフォンをいじっていたいるまが、ふいに顔を上げた。 彼の鼻が、まるで何かを探すかのようにクン、と動く。 その瞳の色が、微かに、けれどはっきりと、本能的な光を宿し始めた。
いるま
いるまの声は、いつもの彼からは想像できないほど低く、そして熱を帯びていた。 彼の視線は、真っすぐにLANの首筋へと向けられていた。 その視線に射抜かれたLANは、全身が硬直した。
LAN
LANの心臓が、激しい警鐘を鳴らす。 いるまが自分のフェロモンを嗅ぎ分けられることに、 そして彼がαであるという事実に、強い衝撃を受けていた。
すち
みこと
βであるすちやみことは、相変わらず何も感じ取れていない。しかし、いるまだけは違った。 LANから漏れ出る甘いフェロモンは、αであるいるまの本能を直接刺激しているのだ。
いるま
いるまの言葉が途切れると、その喉から抑えきれないような、低い唸り声が漏れた。 彼の表情は、本能と理性の間で激しく揺れ動いているようだった。 LANの体は急速に熱を帯び、意識が遠のきそうになる。 必死で踏ん張ろうとするが、足の力が抜けていく。
その瞬間、LANの体がぐらつき、スタジオの床に倒れ込みそうになった。 しかし、その体は宙で止まる。 いるまの腕が、LANの腰をしっかりと抱きしめ、支えていた。いるまの腕の温もり、そして間近で感じるαのフェロモンが、ΩであるLANの本能を狂おしいほどに刺激する。
LAN
LANは振りほどこうともがいたが、ヒートが始まりかけたΩの体は、αの力には到底敵わなかった。いるまの瞳はもう、LANしか映していないようだった。 彼はLANの首筋に顔を埋めようと、本能のままに動く。
いるま
Ωを狙う、αの本能的な行動だった。
暇72
異変を察知した暇72が、いるまの腕を掴んだ。 しかし、本能に突き動かされているいるまの力は強く、容易には離れない。
雨乃こさめ
こさめも慌てて駆け寄り、いるまの肩を押さえた。 スタジオの空気が一気に凍りつく。事態の異常さに、βのメンバーたちもようやく気づき始めた。
すち
暇なつ
なつがLANの前に立ちはだかり、いるまの視界を遮ろうとする。 だが、いるまの瞳は血走り、彼らの言葉は届いていないようだった。 彼の唸り声が、スタジオに響き渡る。
いるま
αの本能が、目の前の邪魔者を排除しようと動く。 いるまはなつとこさめを軽く突き飛ばし、再びLANへと向き直った。 LANは、朦朧とする意識の中で、いるまの鋭い牙が、自分の首筋に迫ってくるのを感じていた。
暇72
なつは咄嗟に、スタジオにあった予備のマイクスタンドを掴み、いるまの軌道を遮るように床に叩きつけた。ガシャン、と大きな音を立てて、いるまの動きが一瞬止まる。 その隙を逃さず、みこととすちが素早くいるまの両腕を掴み、LANから引き離した。
暇なつ
雨乃こさめ
二人の必死な声が、いるまの耳に微かに届く。 彼らの言葉は、αの本能の壁を打ち破るには至らないが、LANから引き離されたことで、 少しは正気に戻った。
みこと
みことの声に、LANは最後の力を振り絞った。 ずるりといるまの腕から抜け出し、壁際へとよろめく。
その瞬間、LANの脳裏に、かつて医師から言われた言葉が蘇った。
『もし抑制剤が効かない緊急事態に陥ったら、極限まで体を冷やし、刺激から遠ざけなさい。』
LANは震える手で、近くにあったペットボトルの水を顔にかけた。 冷たい水が、焼けるような肌に触れる。 そして、必死に自分のフェロモンの放出を抑え込もうと、精神を集中させた。
LAN
αであるいるまのフェロモンが、彼の本能をさらに掻き立てる。 しかし、LANはリーダーとして、この場を収めるために、 そして何よりも、メンバーを守るために、必死で抗った。
いるま
なつ、みこと、すちの三人で必死に押さえつけられているいるまから、獣のような唸り声が消え、徐々に理性的な呻き声に変わっていく。 LANのフェロモンが薄まり始めたことを、いるまのαとしての本能が察知し始めたのだ。 彼の瞳から、血走った熱が引いていく。
いるま
本能の嵐が収まり、いるまの視界に映ったのは、壁にもたれかかり、青白い顔で荒い息をするLANの姿だった。自分の行動を理解した途端、彼の顔は恐怖と後悔に歪んだ。
LAN
冷や汗を流しながら、LANはゆっくりと瞼を閉じた。ヒートの波は、奇跡的に収束へと向かっていた。極度の緊張と体力消耗で、彼の意識は深い闇へと沈んでいく。
ΩであるLANの秘密があばかれることとなった。
LANが意識を失い、いるまの暴走も収まったスタジオは、重苦しい沈黙に包まれていた。 他のメンバーたちは、倒れ込んだLANといまだ動揺を隠せないいるまを前に、 事態の深刻さをようやく理解し始めていた。
暇72
雨乃こさめ
みこと
すち
全員が動揺している中、いるまが最初に口を開いた。 彼の顔は真っ青で、震える声がスタジオに響いた。
いるま
そんないるまに、LANの意識が戻る気配はない。 このままではまずい、と事態の収拾を図ろうとしたのは、冷静さを取り戻し始めたなつだった。
暇72
なつの言葉に空気も緩和され、メンバーたちはLANをソファに寝かせ、彼の呼吸が落ち着いているかを確認した。額に汗が滲んでいるのを見て、こさめが近くにあったタオルでそっと拭いてやる。
数分後、LANがうっすらと目を開けた。彼の視線は、天井を見上げたまま、焦点が定まらない。
LAN
その弱々しい声に、メンバーたちの胸が締め付けられる。リーダーとして、いつも毅然としていたLANが、こんなにも弱々しい姿を見せたのは初めてだった。
すち
暇なつ
みことの問いに、LANはゆっくりと頷いた。その事実が、はっきりとメンバー全員に伝えられた瞬間だった。
LAN
LANの言葉に、βのメンバーたちは戸惑いを隠せない。 彼らにとって、Ωという存在は知識としては知っていても、身近なものではなかった。 ヒートやフェロモンといった概念も、机上の空論でしかなかったのだ。
雨乃こさめ
雨乃こさめが、心配そうにLANの顔を覗き込んだ。LANは小さく頷き、震える声で説明を始めた。
LAN
彼は言葉を選びながら、Ωとして生きてきた自身の経験を語り始めた。
LAN
LANの声はだんだんとか細くなり、自嘲するような響きを帯びる。 その姿に、いるまは深く顔を俯かせた。 自分の本能が、LANをそこまで追い詰めていたのだと、初めて理解したからだ。
いるま
LAN
すち
暇なつ
LAN
いるま
暇なつ
LAN
暇なつ
こう言うなつの声は震えていた。 心配と、またこうなったらどうしよう。 と言う二つの意味で。
暇なつ
すち
みこと
雨乃こさめ
LAN
いるま
LAN
コメント
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なるほど~!!そういう世界線ってことね!!新たな知識✨ 結構好きかも…続きが楽しみです!
すちくんもアルファ?