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第1話 - あ

2023年03月10日

#恋愛

結城真矢

ミズナ

タケミ、今どこにいるの？

タケミ

あっ、今電車に乗ってるんだ。

タケミ

ちょっと、用事があって。今移動中。

ミズナ

こんな夜中に用事って、

ミズナ

どこに行くのよ！

タケミ

えーと。今電車に乗ってるし、

タケミ

説明すると長くなっちゃうから・・・

タケミ

とにかく、急用なの！

タケミ

今日はありがとう。楽しかったわ。

ミズナ

ちょっと、待ってよ！

ミズナ

何言ってるの？

ミズナ

それより支払いは？

ミズナ

今、会計してるんだけど！

タケミ

ごめん。うっかりしてた。

ミズナ

うっかりしてた、じゃないでしょ！

ミズナ

ちゃんと支払う気があるの？

タケミ

ごめーん。わたし今日みんなより時間短かったからさー、

タケミ

いつもみたいに、タダじゃないかなーと思って。

ミズナ

そんな訳ないでしょ！

タケミ

だって、不公平じゃない？

タケミ

今日は３０分遅れたんだから、皆と同じ額の支払いって、

タケミ

損じゃない？

タケミ

絶対に損してるって思う。

ミズナ

人一倍飲み食いしておいて、それはないでしょ？

ミズナ

十分元は取ったじゃない！

タケミ

えー！全然、取れてないよ。

ミズナ

いつまで、新入社員みたいな気持ちでいるの？

ミズナ

あんたに奢ってくれていた先輩は

ミズナ

もう、いないのよ！

ミズナ

ちゃんと、自分で払いなさいよ！

タケミ

えー、ミズナ怖い―。そんな風に言わなくったって、

タケミ

私だって分ってるよ・・・

ミズナ

全然分かってないじゃない！

ミズナ

今日だって、私が連絡しなきゃ、知らん顔して

ミズナ

帰ってたんでしょう？

タケミ

そんなことないもん・・・

ミズナ

とにかく、今日の飲み代払いなさいよ！

タケミ

ごめんなさーい。持ち合わせがないの。

ミズナ

その手口を何回使うつもり？

ミズナ

私だって、あんたの支払いを何回立て替えたと思ってるの？

タケミ

えー、知らなーい。

ミズナ

知らないじゃないでしょ！

タケミ

そんなに怒らないでよーミズナ。

タケミ

明日じゃ駄目？

ミズナ

そんなこと言って、いつも踏み倒してるじゃないの！

タケミ

でも、今日は用事があるしー、

タケミ

もう、電車に乗ってるんだ。

ミズナ

明日だったら、払うのね？

タケミ

でも、明日は給料前だから、払えなーい。

ミズナ

もう、毎回毎回、同じこと言わせて、

ミズナ

飲み会に出るなら、ちゃんと支払いなさいって、

ミズナ

この前も言ったでしょ！

タケミ

ごめーん。

ミズナ

謝ればいいって訳じゃないわ。

ミズナ

いつも、最後には私に払わせるんだから。

ミズナ

でも、今回は払わないわよ！

ミズナ

私にいくら借金してると思ってるの？

タケミ

ごめんなさいってば！

タケミ

今回ばかりは許して。今度は絶対しないから。

タケミ

お願い！

ミズナ

そのお願いも何回も聞かされたわね。

ミズナ

でも、そうねー。

ミズナ

紅葉が綺麗で、食事の美味しい温泉旅館があるって、

ミズナ

前に言ってたわよね？

タケミ

そうね。確か洞窟のある温泉だったかしら？

ミズナ

そう。その温泉だわ。

タケミ

その旅館ってね、海鮮料理が美味しくて、

タケミ

美肌にいい温泉だって、有名なの。

ミズナ

その旅館に連れて行ってくれるんなら、

ミズナ

飲み代を立て替えてもいいよ。

タケミ

本当？

タケミ

ありがとう。やっぱり持つものは友達だよね。

～数日後～

ミズナ

タケミ、今どこにいるのよ！

タケミ

もう帰ったわよ。

ミズナ

もう帰ったなんて、どういうこと？

タケミ

用事があったから、先に帰らせてもらったの。

ミズナ

それならそれで、どうして言ってくれなかったの？

ミズナ

朝起きたら、あんたがいないんだから、びっくりしたわ。

タケミ

それは、急な用事だったから・・・

ミズナ

だからって、私を置いて帰るなんて、

ミズナ

ひどすぎない？

タケミ

そんなに遠くもないし、一人で帰れるでしょ？

ミズナ

あんた、私に悪いことをしたって、まるで思ってないでしょ？

タケミ

そんなこと、ないわよ。

ミズナ

ところで、宿泊費はちゃんと払ってくれるわよね？

タケミ

どうして、宿泊費を払わなくちゃいけないの？

ミズナ

どうしてって、どういうこと？

タケミ

だって、私は用事があるから早く帰ったし、

タケミ

朝食を食べてないのに支払いなんて、おかしくない？

ミズナ

おかしくないって？

タケミ

だって、損じゃない。

ミズナ

昨夜、夜食を腹いっぱい食べて、

ミズナ

結構、お酒も飲んだわよね？

ミズナ

それに、温泉にだって、ゆっくり浸かってたじゃない？

タケミ

そうだったかなー？

タケミ

あんまり、覚えてないわ。

ミズナ

いい加減にしなさいよ！

ミズナ

支払いにいくらかかったと思ってるの！

タケミ

えー。いいじゃない。

タケミ

あなた、いいところのお嬢さまなんだから、

タケミ

そのくらいのお金、どうってことないでしょ？

ミズナ

何言ってるの？

ミズナ

だから、飲み代もいつも踏み倒しているの？

ミズナ

飲み代や、旅行代をトータルして、

ミズナ

一体、私にいくら借金があると思ってるの？

タケミ

えー！知らなーい。

タケミ

私たち友達なんだから、お金の貸し借りなんて、

タケミ

関係ないわよね？

ミズナ

なんですって、全額踏み倒す気でいたの？

タケミ

いいじゃない。そんなに細かいこと言わなくったって、

タケミ

ちゃんと旅館に連れてきてあげたんだから、

タケミ

約束は果たしたわ。これでチャラよね。

タケミ

それに、私これから用事があるの。

ミズナ

ちょっと、待ちなさいよ！

～数日後～

ミズナ

ねぇ。聞いてよ！

ミズナ

タケミがひどいのよ！

キクナ

どうしたの？

ミズナ

また、飲み代を踏み倒して、

ミズナ

おまけに旅行代金払わずに帰ったのよ！

キクナ

考えられないわ！

キクナ

あなたって、おっとりした人だものね。

キクナ

飲み代も、毎回払わされてるのに、

キクナ

今回もなの？

ミズナ

そうなのよ。以前はタケミを可愛がっていたうちの課の課長が、

ミズナ

タケミの飲み代を払ってくれてたでしょ？

ミズナ

それで、自分は払わなくてもいいと思ってたみたいでね。

ミズナ

でも、課長が異動になったでしょ、

ミズナ

それで、支払いが私に回ってきたの。

キクナ

どうして、それをあなたが払ってるの？

ミズナ

私がいいとこのお嬢さんで、タケミの分を払っても、

ミズナ

私が困らないと思ってるみたいなの。

キクナ

何よそれ。考えられなーい。

ミズナ

あの子可愛いでしょ？それを自分で分かってるの。

ミズナ

私が会社で飲み代を請求しようとして、ちょっとキツメの言い方になったら、

ミズナ

すぐ、あの子泣き始めるのよ。

キクナ

えー。ウソ泣き？

ミズナ

それで、周りの職員からジロジロ見られて、

ミズナ

まるで私が悪者みたいなの。

キクナ

それじゃ、飲み会があるってタケミに言わなかったらいいのよ。

ミズナ

前回それをしたら、大変だったのよ。

ミズナ

弱いものいじめをするって言って、大声で泣き喚いたのよ！

ミズナ

それも、仕事中によ。

キクナ

そんなの、考えられないわ。

ミズナ

それで、周りの男性職員達が、可哀そうだから、

ミズナ

今度はちゃんと呼んであげよう。

ミズナ

とか言ってるのよ。

キクナ

でも、支払うのはあなたでしょ。

ミズナ

そうなのよ。

ミズナ

それで、何回かはタケミの飲み代を男性陣で割り勘にしてたのよ。

ミズナ

ところが、それを知った他の女性職員達が、そんなの贔屓だからと言って、

ミズナ

取りやめになったのよ。

キクナ

そりゃそうでしょ。特別扱いよね。

ミズナ

どうやったら、支払いを逃れることができるのかしら？

ミズナ

それに旅行代金も取り返したいわ！

キクナ

そうよね。回収しなくちゃだわよね。

ミズナ

何かいい方法ない？

キクナ

私の知り合いがお店やってるんだけど、

キクナ

そこにタケミを連れて行くってどう？

ミズナ

どういったお店？

キクナ

地下アイドルがやってるお店なんだ。

ミズナ

ホストクラブみたいなもの？

キクナ

そうなの。タケミって、そういうお店に行きそうかな？

ミズナ

結構好きかもね。

キクナ

いい考えがあるの。まかせてみて。

ミズナ

ありがとう。頼りになるわ。

～数日後～

ミズナ

ねぇ。タケミ。

ミズナ

私、いいお店見つけたんだ。

ミズナ

一緒に行かない？

タケミ

どんなお店？

ミズナ

地下アイドルがやってる、イケメン揃いのバーがあるんだ。

タケミ

そんなお店、よく知ってるねー。

タケミ

行きたーい。連れて行ってよ。

～数日後～

タケミ

ミズナ、トイレに行って帰ってきたらいないじゃない！

タケミ

どこに行ったの？

ミズナ

えっ。今、電車に乗ってるの。

ミズナ

用事があったから、先に帰らせてもらったの。

タケミ

何言ってるの？

タケミ

お勘定がまだじゃない？

ミズナ

え？早めに帰ったから、タダじゃないの？

タケミ

何言ってるの？そんなわけないじゃない。

タケミ

私たち、シャンパンも飲んだわよね。

ミズナ

そんなの知らなーい。

ミズナ

私、約束どおりにお店に連れて行ったから、

ミズナ

お勘定はチャラよね。

タケミ

そんなはずないじゃない！

タケミ

一体、いくらすると思ってるのよ！

ミズナ

さぁ。タケミが払っておいてよ。

ミズナ

私、短い時間しかお店にいなかったから、

ミズナ

払わなくってもいいでしょ？

ミズナ

いつもタケミがそう言って、飲み代踏み倒してたじゃないのよ。

ミズナ

自分が同じことされた気分はどう？

タケミ

うっ。えーと、私はいいのよ。

ミズナ

どうして、タケミがよくて、私はダメなの？

ミズナ

そんなの、おかしいじゃない。

タケミ

ミズナはお嬢さまだから、どうってことないでしょ？

タケミ

私は貧乏だから、払わなくてもいいのよ。

ミズナ

そんなわけないでしょ！

ミズナ

私に借金した分、返しなさいよ！

タケミ

ごめんー。でも、そんな金額一度じゃ返せないもの。

タケミ

弱いものいじめだわ！ミズナ、ひどいー！

ミズナ

ひどいーじゃないわよ。

ミズナ

わたしのほうが、泣けてくるわ。

ミズナ

ちゃんと返す気があるの？

タケミ

あるもーん。

ミズナ

これまでも、返すって言って約束しといて、

ミズナ

一銭も返ってきてないんないんだから。

タケミ

今度こそ返すったら！

ミズナ

じゃ、まず今日の飲み代は払ってよ！

タケミ

えっ。今日は財布持ってきてないし、

タケミ

カードも持ってないもの。

タケミ

私、今日電車賃しか持ってないよー。

ミズナ

あんた、あれだけ何回も言っても、

ミズナ

まったく反省してなかったのね！

ミズナ

また、踏み倒して帰る気だったのね！

タケミ

ごめんなさい。

ミズナ

とにかく、今日は何とかしなさいよ。

ミズナ

私は用事があって、電車で帰るところなんだから！

タケミ

そんな事言わないで、帰ってきてよー。

タケミ

今までのことは謝るから。

タケミ

ねぇ。ごめんってー！

ミズナ

そこ、ぼったぐりバーだから、高いよ！

タケミ

そんな、ひどいー。

～数時間後～

タケミ

ミズナ、助けて―！

タケミ

逃げようとしたら、お店の人につかまっちゃって。

ミズナ

あんたねぇ、無責任な！

タケミ

捕まって、こっぴどく叱られたの。

タケミ

値段も法外に高いし、私どうすれば・・・。

ミズナ

あんた、法外に高いって言うけど、

ミズナ

そのお勘定は、私があんたに貸している金額より少ないのよ。

タケミ

そんなー・・・

ミズナ

ちゃんと支払いした？

タケミ

払えなかったの。

ミズナ

あんたの持ってるブランドものを売ったら、

ミズナ

払える金額じゃないの？

タケミ

そんなー。それだけじゃ、足りないと思うわ。

ミズナ

支払いもしないで、よく帰ってこれたわね。

タケミ

それが、仕事をして返せって言われて、

タケミ

契約書まで書かされたの。

ミズナ

えっ、契約書？

タケミ

私、風俗に行って働かされるかもしれないわ・・・

タケミ

ねぇ。助けて！

ミズナ

そんなの、例え風俗で働かされても、

ミズナ

自業自得じゃない。

タケミ

そんな、ひどいー。

タケミ

私たち友達でしょ！

ミズナ

私にはお金にルーズな友達なんていないの。

ミズナ

お金にだらしない人は信用できないわ。

タケミ

そんなー、ミズナは優しい人だから、

タケミ

今回も、私のことを助けてくれるわよね。

ミズナ

何回言っても駄目だったんだから、もう無理でしょ！

タケミ

冷たいこと言わずに、私のことを助けて！

タケミ

お願いよ―、助けてー！

～後日談～

ミズナ

風俗で働いていたタケミを偶然社員が知り、それが噂の発端となって、

ミズナ

タケミは会社を退職した。

ミズナ

キクナに紹介してもらったお店から、

ミズナ

タケミに貸していたお金も取り戻せて、ほっとしている。

ミズナ

さすがに全部取り戻すことはできなかったけど、これでよしとする。

ミズナ

私は、しっかり割り勘にしてもらえる友達と、

ミズナ

これから温泉旅行を楽しんでくるつもりだ。

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