歩
でも旦那、その感じだといつまでも連絡してきそうだよね

美咲
-そう言われ、思わず鼻で笑う。

美咲
やったとしても、電話とメールだけよ。

美咲
実際に探したりとかはしないんだから。口だけなのよ、あの男

美咲
-私がそう言い捨てると、和代さんが「分かるわぁ」とものすごく深く頷いてくれる。

和代
結局、相手が折れてくるのを待ってるのよ。それが一番楽だから

和代
で、そうなる事を信じて疑わない。愛情なんて、何もしなけりゃあ枯れていくにきまっているのにねぇ

美咲
マジでそう。和代さん、分かってるねぇ!

美咲
-嬉しくなってそう言葉を返すと、彼女は「伊達に主婦歴30年じゃないわよ」と胸を張って言う。

歩
あの、美咲さん……ちょっとこれ、見てください

美咲
-急に歩ちゃんが、自分のスマホの画面を私に見せてきた。

美咲
-そこに表示されていたのは、見覚えのあるアイコンとアカウント名。

美咲
-浩司……私の旦那のSNSアカウントだ。

歩
おすすめのタイムラインに流れてきて、偶然見つけたんですけど……

美咲
-私は画面をスクロールして、その最新の投稿を読んだ。

俺は毎日家族のために身を粉にして働いているのに、どうして……。心配で夜も眠れません。誰か心当たりのある」方、連絡をください。
美咲
-そんな投稿と共に、一枚の写真が貼りつけられている。

美咲
‐それがなんと、私だった。

和代
はぁ!?

美咲
-和代さんが、信じられないという顔で大きな声を出した。

永良
……これ、完全に自分を『悲劇のヒーロー』に仕立て上げてますね

歩
SNSを使って同情を集めて、周りから外堀を埋めようとしてる。自分が悪いなんて微塵も思っていない証拠だよ

美咲
‐そんな声が遠くの方で聞こえている。

美咲
‐が、今はそちらに意識を割いている精神的余裕がまるでない。

美咲
-心配で眠れない? どの口が言ってるのよ!

美咲
-カッと頭に血が上った。

美咲
-それだけでも許せないのに、SNSに家族写真を上げたのがまた許せない。

美咲
‐子どもたちの顔をSNSに晒すなんて、一体何を考えてるの?!

美咲
-どうせ実際には何も動かないだろうと思っていたけど、そうじゃなかった。

美咲
‐周りを巻き込んで、私たちを悪者に仕立て上げようとしている。

美咲
‐私だけなら未だしも、子どもたちの事も考えていない、あまりにも自己中心的な行動だ

美咲
……いいわ。そういう事をするんなら

美咲
‐私はスマホを握りしめる。

美咲
‐こっちの喧嘩は専門外だけど、受けて立ってやろうじゃない!
美咲「‐旦那の投稿の返信(リプライ)ボタンを強くタップした。

美咲
遠慮なく言葉を打ち込んでいく。

心配で夜も眠れない? 笑わせないで。
昨日電話してきた時「靴下がない、飯がない」って喚き散らしてたのはどこの誰?
自分のお世話係がいなくなって困ってるだけでしょ?
和代
……美咲ちゃん?

美咲
‐ものすごい表情でもしていたのだろうか。和代さんが私の名を呼んだが、ごめん。今はそれどころじゃあない

あと、子どもたちの顔が写ってる写真を勝手にSNSに載せるな!
育児に一切関わってないくせに、こういう時だけ父親ヅラするの、本当に反吐が出る。
美咲
-送信ボタンを押す。

美咲
-これでもう、後戻りはできない。

歩
み、美咲さん! 旦那さんに直接リプライ送っちゃったんですか!?

美咲
‐『ゆー』さんが驚きの声を上げた。

美咲
‐彼女の手には、引き続き彼女のスマホが握られている。

美咲
‐おそらくSNSの画面でリプライの内容を見たんだろう。

永良
……冷静に。相手は今、世間体を味方につけようとしています

永良
感情的にぶつかるだけでは、向こうの『妻がおかしくなった』という主張を補強する材料にされかねません

和代
何か永良ちゃん、ちょっと詳しそう?

永良
学生の時、こういう修羅場レスバをよく眺めてました

和代
あんまりいい趣味ではないわね?!

美咲
‐和代さんからツッコミが入る中、『Y.s』さんは相変わらず淑やかで冷静だった。

唯子
永良さんの言う通りです。私もサポートのお手伝いをします

永良
ありがとうございます

永良
じゃあ、美咲さんの旦那さんの過去の投稿から『矛盾』を探してください

永良
『家族のために働いている』という今日の主張と食い違うような、遊び歩いている投稿や、モラハラ気味な発言がないか

唯子
分かりました

歩
わ、私もやる! 過去ログ、遡ればいいんだよね?

唯子
和代さんは、この投稿についている他人のコメントを監視してください

唯子
旦那さんに同情的な意見と、懐疑的な意見の割合をチェックして

和代
任せなさい。……お、さっそく美咲さんのリプライに反応が来てるわよ

美咲
-浩司からだ。

旦那
『なんだお前、みんなが見てる前で恥ずかしいだろ。とにかくすぐ帰ってこい』

美咲
-どこまでも体裁ばかり気にするクズっぷりに、呆れて笑いが出そうになる。

永良
美咲さんは、そのまま挑発を続けてください。相手のボロを引き出すように

美咲
おっけー! そういうのは得意!

永良
その間に私が、旦那さんが過去に投稿した写真の位置情報や、タイムスタンプを解析します

永良
本当に『家族のために身を粉にして働いている』のか、検証させてもらいましょう

美咲
‐そういう所、私には頭が回らない部分だから心強い。

美咲
‐喧嘩は得意だ。ステゴロでも、口喧嘩でもやればほぼ負けなしだった。

美咲
‐だからある意味慣れているのだ。それはSNS上でも変わらないと思っていた。

美咲
‐でも。

美咲
-一人で戦っている時より、安心する。心強い。

美咲
‐やんちゃしていた頃を思い出す。

美咲
‐あの時の私は、やんちゃが好きだったというよりは、仲間と一緒にいる時間が好きだった。

恥ずかしいのはどっち?
何もかも妻に丸投げで、外面ばっかりよくて子どもの面倒さえ碌に見た事のないくせに。
美咲
-ネット世論を味方につけて、皆と一緒に勝ってみせるわ!!
