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港の倉庫街。 一日じゅう降っていた雨がようやく止み、路面にはまだ浅い水たまりがあった。 中也は濡れた帽子を軽く払うと、背後から聞こえる足音に眉をひそめた。
中也
太宰
軽い足取りで近づいた太宰治は、水たまりの光を反射させながら微笑んだ。 鬱陶しいほどの笑顔だったが、雨粒で少し湿った前髪だけが、彼もまたこの雨に振り回されていたことを物語っていた。
中也
太宰
中也
中也が言い終える前に、太宰は彼の手をとった。 指先が触れた瞬間、残った雨の冷たさと、太宰の体温が入り混じる。
中也
太宰
中也
不満を述べつつも、中也は手を振り払わなかった。 太宰が中也の手を包み込むように指を絡め、じんわりと温度が伝わってくる。
太宰
中也
太宰
中也
太宰
中也
言いながらも、中也の声にはとげがない。 太宰はそんな変化を敏感に感じ取って目を細めた。
太宰
中也
太宰
中也
中也は言いかけて口をつぐむ。 太宰がほんの少しだけ、照れたように笑ったからだ。
太宰
中也
拳が太宰の肩に軽く飛んだ。 痛くもないその一撃を受けながら、太宰は満足げに笑った。 手は、まだ繋いだまま。 雨上がりの空が少しだけ明るくなり、雲の隙間から星がのぞいていた。 二人の影が寄り添うように重なって、濡れた石畳の上に長く伸びていく。
その夜だけは、誰にも邪魔されない、ささやかな休戦だった。