青
あれから、ほとけに想いを伝えることもできないまま、俺の体はどんどん花に包まれていった。
もうメンバーにも話はしてあり、今は諸事情で活動を一旦休止という形を取っている。
連日熱を出したり、起き上がれないほどの倦怠感が襲ったりと、ベットからほとんど動かない日々が続いた。
今日は比較的症状は軽い方だった。 咳が出て、微熱があるぐらい。
昔はこの位なら1人で薬でも飲んで治してたものの、両手の機能を失いかけているからどうにもできない。
憎たらしいぐらいに燦々と咲いていた花は左腕に留まらず、首、顔、胸、腹、足とどんどん体を蝕んで行った。
もう左半分はほとんど動かせない。
残るは右手のみだった。
そろそろ死期が近付いているのも分かる。段々と生気がなくなっていっているのも。
せめて死ぬ前には、あいつに想いを伝えたい。
だから、今日は伝えるためにあいつを呼び出した。
元々、いれいすメンバーが交代で看病に来てくれていて、今日の当番がほとけだったというのもあるが。
今日言わなきゃ、ダメな気がしたから。
水
聞こえたのは可愛らしい声。 それだけで体の疲れが少し和らいでいく。来てくれた安心感と、幸せで心が満たされていく。
水
水
青
水
愛らしい笑顔でにこにこと世話をするほとけ。嫌じゃないのかな。
てか、今日なんかほとけの匂い違う。
青
水
青
水
水
へぇ、ないこに教えてもらったのか。 あいつセンスいいしな。だけどほとけの匂いが変わるのはなんかちょっとやだ。
あの匂いが一番安心したんだけどな。
水
てきぱきと作業をこなしながら会話を進める。
青
水
青
青
ないこに選んでもらった、というのは癪だけど、俺じゃなくてほとけのほうがこの匂いは似合ってる。
ほとけと俺は、違うから。
青
自然と口角が上がっていた。 そんな自分に気付かず言葉を発していた。
水
一瞬、ほんの一瞬。 手が止まった、気がした。
気の所為かもしれない。 でも、ほんとに一瞬、止まった気がした。
きっと見間違いだけれど。
青
水
いつものように呼びかければ、いつものように答えてくれる。
あぁ、何か言ってはいけないことを言ってしまいそうだ。
でも何を言おう。 呼んだだけ、なんて、そんなことをする柄じゃない。
青
ぽろっと、無意識のうちに、言葉が紡がれていた。ただそれだけだった。
考えて、これを言おうと決めたわけじゃない。ほんとにぽろっと、零れてしまった。
青
水
青
ふい、と目を逸らす。
なんで今言いたくなったか分からない。 ただ今言わなきゃいけない気がして、感情が溢れて止まらなかった。でも、言わない方がいいのかもしれないという思いもあった。
今言わないと、いつか後悔する気がして。今言っても、いつか後悔する気がした。
水
青
水
青
青
あぁ、言ってしまった。
引かれないだろうか。ほとけは一向に顔を上げない。もしかして嫌われた?どうしよう。
一瞬のうちに後悔や不安等の負の感情が溢れ出していく。それはやがて身体を蝕む花のように全身に染み渡っていく。
やっぱり言わなければよかった。言わなければ今頃、こんなことには。
後悔は止まらない。 でもそんな負の感情は、ひとつの言葉で掻き消された。
水
青
水
水
好き?ほとけが、俺を?
つまり、両想い、ってこと?
理解した瞬間、ぶわっと涙が浮かぶ。それは瞳だけに留まらず、ぼろぼろと零れていく。
水
そう言って頭を撫でてくれるほとけも、目には涙が浮かんでいた。そんな気がした。視界が涙で揺れていてよく見えなかった。
水
違う、ちがうの。ほとけは悪くないの。
水
水
最初。本当の想い人が分からず迷走していた時だろうか。 あの時はまだ、…いや、もしかしたらその時から好きだったのかもしれない。
水
水
俺の頭を優しく撫でながら話す。
水
水
水
青
水
そう言葉を紡ぐほとけの背中が小刻みに揺れる。肩に触れた冷たい感触は、きっと彼の涙だろう。
ぎゅっと抱きしめてくれていて嬉しいけど、少し確認したいことがあった。
今は喜びを噛みしたかったけど、そんな暇はないぐらい、体が熱くなっていった。
青
水
水
青
水
視線を追いやって、花の方を向く。
花の色は、紫ではなく、
完全な赤色になっていた。
青
青
水
青
返事をした途端、体が激痛に見舞われた。
青
水
青
青
痛い。痛い。 全身が焼けるように熱い。痛い。
なんで、治ったはずじゃ。おれ、死ぬの?あれ、赤色が完治でしょ、青だっけ、ん、?いや、赤、なんで?
次の瞬間、ビリッと一瞬とてつもなく強力な電気が流れた感覚がした。
青
声が出ないほどの痛さだった。 視界が1度白塗りになり、このまま死ぬのかと覚悟した。
青
いや、息ができる。 死んでない。
水
青
水
水
青
水
左手の方に目線を動かした。
青
体から完全に薔薇や蔦が外れていて、それらはただの植物となっていた。
薔薇なら蔦にトゲがあるはずなのに、その薔薇にはトゲは一切付いていなかった。
青
水
青
当分の間動かしてなかったから、いつも通り動くという訳では無いが、動かそうとしたら動かせた。
力も入る。手を握ったり、開いたりしてみる。 動かせる。
水
水
青
確か最初、かかってすぐの頃に調べたサイトのスクショがあったはず。 写真アプリを開いて、カメラロールの中を覗いた。
青
これだ。どこかにかいてあるだろうか。
水
ほとけも覗き込んでくる。
青
読んだことの無い文が目に入る。 ここまで読めて居なかったのだろうか。
青
①好きな人と両想いになること。
②その人に想いを伝えること。
そして、それらが実行できてしばらく経つと、花吐き病の象徴である目の模様が治る。
青
水
青
水
水
青
青
青
青
水
水
水
青
「愛しとるよ」
やっと付き合ったんだ。
良かった。これでまろの病気も治るし、活動も徐々に出来るようになるだろう。
2人は晴れて結ばれてハッピーエンドだし。
あぁ、今目を閉じたら、きっと涙が零れてしまうだろう。
俺だって、今は幸せなのに。 何故だろう、涙があふれてくる。
赤
赤
赤
りうらがチラッと中を覗く。 雰囲気で察したのか、俺が何故泣いてるのかということも分かったようだ。
ぎゅっと、そっと、抱きしめられる。
赤
りうらの低くて心地いい声が、体にしみ渡る。失恋で傷付いた心が、少しだけ癒えていく。
赤
そうだよ。がんばったよ。 全部全部蓋をして逃げて、でも逃げられないから戦ったんだよ
2人がくっついたら、きっと俺も幸せになれるから。
赤
なんでりうらが謝るの? 悪くないよ、俺が全部悪いんだよ。 俺が勝手に好きになって、失恋しただけなのに。
赤
りうらは悪くないよ。りうらは悪くないの。
そう伝えたいのに、嗚咽で言葉が上手く紡げない。
その場で2人、抱き合いながら涙を流した。
全員が幸せになれる恋愛なんて存在しない。
1人が幸せになれば、必ず幸せになれない人が現れる。
だけど、それでもまた大切な人を見つけて、その人と幸せを掴もうとする。
最初の人を忘れられるように。
その人が相手と、幸せに生きられるように。
幸せの裏には不幸がある。
必ずかくれている。
気づいていないだけ。そう、だってその方が幸せだから。
両者とも無かったことにしたら、 両者とも幸せになれる。
水
青
赤
形は違えど、それぞれ掴んだ幸せ。
これから6人が歩んでいくのは、普通の幸せか、はたまた別か。
続きはまたあとで。
-君と花びらと僕の病 完結- ご読了ありがとうございました。
コメント
2件
完結おめでとうございます!"(ノ*>∀<)ノ 🐱💎の2人が幸せになって良かったです!🍣🐤の2人も幸せになって欲しいです!表現の仕方とか上手で神作品でした!✨ 最高に面白いお話ありがとうございました! 他の作品も頑張って下さい!応援しています!( o≧д≦)o