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LINE968

第1話 - あ

2023年08月05日

#恋愛

結城真矢

ヨウコ

アサミさん、

ヨウコ

今日も早退したの？

ヨウコ

休憩から帰ってきたら、

ヨウコ

「子供が熱を出して保育園に呼ばれたって」

ヨウコ

メンバーから聞いたけど

アサミ

はい、

アサミ

すみませんが早退させていただきました

ヨウコ

あのさ、

ヨウコ

今、大事な時期であること、分かってるよね？

ヨウコ

そんなに抜けられると困るんだけど？

アサミ

抜けるのがみんなより多いのはすみません

アサミ

でも、そこまで頻繁に抜けてないと思うんですが…

ヨウコ

あなたがどう思うかじゃなくて、

ヨウコ

パートリーダーの私がそう思っている、って言っているの

ヨウコ

パート練習でみんなで合わせる時間、

ヨウコ

そこまで多くないのは分かっているよね？

アサミ

はい、

アサミ

本当に、申し訳ないです

アサミ

他のパートのメンバーにも迷惑かけてしまっていて...

アサミ

でも、家ではちゃんと個人練習しています

ヨウコ

そんなの、当然でしょ？

ヨウコ

個人練習なくして、上達なんてするはずないじゃないの

ヨウコ

バカなこと言わないで

ヨウコ

大体、練習していてもミスはなかなか減らないんじゃない？

アサミ

少しずつ良くなっている、ってヨウスケさんには言ってもらえました

アサミ

すぐに上達するのは難しいですが、私も少しずつ良くなっているとは思っています

ヨウコ

そうかしら？

ヨウコ

私には到底思えないんだけど

ヨウコ

まあ、いいわ

ヨウコ

明日の練習でわかるわね

ヨウコ

今日、休憩前に注意したタンギング、明日の練習では完璧にしてきてよね

アサミ

はい、努力します

ヨウコ

「努力するじゃなくてやるのよ！」

ヨウコ

できなかったら今度の公演前にあるオーディションから降りてもらうことも考えるから

アサミ

そんな、

アサミ

それはあまりにもひどくないですか！？

アサミ

やる前から諦めろ、ってころですか！？

ヨウコ

当然のことでしょ！最低限のことをできないならオーディションに出る必要なんてないわ！

ヨウコ

うちの楽団、市の資金も借りて運営しているからギリギリなの知っているでしょ！？

ヨウコ

ホールを借りるのにだって、私たちの資金だけでは借りれないから市の力を借りてるの

ヨウコ

あなたみたいな、いつまでもアマチュアな演奏家がいたら恥なの

アサミ

そこまで言わなくても、

アサミ

私だって、資金を借りているのを知っているから、

アサミ

自分の時間をできる限り削って練習しています！

ヨウコ

練習していても、結果に出ないと意味ないの

ヨウコ

アマチュア演奏家には、高い壁だった？

ヨウコ

明日には、そのアマチュアのランクにもいられなくなるかもね

アサミ

ヨウコさんだけが決めることじゃないですよね

アサミ

最終的には、ヨウスケさんが決めることです

ヨウコ

そうね、

ヨウコ

あなたの実力のなさにはヨウスケさんも納得すると思うわ

ヨウコ

ま、才能なきアマチュアさん、

ヨウコ

せいぜい頑張ってよね

～翌日～

ヨウコ

ねえ、

ヨウコ

どういうこと？

ヨウコ

今日の自主練習の後、全然タンギング上達してなかったけど？全力で練習した結果があれなわけ？

アサミ

すみません

アサミ

一生懸命、練習したんですが、

ヨウコ

ふーん、

ヨウコ

でも、私がパートで合わせた時にあなただけに別部屋で個人連させたら、

ヨウコ

こっそりLINEしてたでしょ？

ヨウコ

休憩してきて、って言ったわけじゃないのよ？

アサミ

夫からLINEにメッセージがあったので少し返信していただけです

アサミ

そこまで長くしていないですし、すぐに練習していました

ヨウコ

ふーん、

ヨウコ

それで簡単なタンギングもできないの？

ヨウコ

やっぱりアマチュア未満。才能ゼロじゃないの

ヨウコ

旦那とイチャイチャしてる暇なんてないでしょ？

アサミ

別に、そんなことしてないです

アサミ

「今日は遅くなるから夕飯いらない」

アサミ

ってメッセージが来てたので、それに返信してただけです

アサミ

メッセージのやりとりありますよ。スクショしてその証拠、見せた方がいいですか？

ヨウコ

別に、見たくないしそんなこと頼んでないわよ

ヨウコ

「今日は遅くなるとか仕事を言い訳にする男って、」

ヨウコ

裏では別の女と一緒にいる、ってよく聞くしね

ヨウコ

あなたいつも身だしなみ適当だし、

ヨウコ

そういうとこに、愛想なくしちゃったんじゃない？

アサミ

メイクできていないのは朝の家事が大変だからです

アサミ

夫は、私が中学の時からやっているトランペットを、

アサミ

社会人になっても楽団で続けたい、っていうわがままを許してくれているんです

アサミ

そのお礼に、家事はできるだけ私がこなしているんですよ

ヨウコ

だから女性としてのたしなみは怠ってもいい、って？

ヨウコ

家事を言い訳に女磨きに手を抜いていい、って言い訳するなんて～

ヨウコ

旦那さんも怠け癖のある奥さんを持ってかわいそうね、

アサミ

私が言いたいのはそういうことじゃなくて、

アサミ

自分の身だしなみよりも練習を大事にしている、っていることです

アサミ

家の家事を終えて子供を保育園に預けに行った後は、

アサミ

しっかり練習する時間を確保しているんです

ヨウコ

そうなの～？

ヨウコ

まあ、あなたがそんなに練習できている、っているなら

ヨウコ

今度の公演で演奏者を選ぶオーディションでそれが証明されるわね

アサミ

ヨウスケさんが選ぶんですよね？

ヨウコ

そうよ、

ヨウコ

今まではヨウスケさんの前に真正面に立って横に整列して、

ヨウコ

順番に同じフレーズを吹いていたけど、

ヨウコ

今回からヨウスケさんは私たちに背を向けて演奏を聴くそうよ

アサミ

誰が演奏したか分からない、ってことですよね？

ヨウコ

そう

ヨウコ

私たちに番号が振られて、ヨウスケさんは合格者を名前じゃなくて、

ヨウコ

番号で合格者を呼ぶの

ヨウコ

まあ、あなたみたいな下手くそなタンギング、

ヨウコ

ヨウスケさんならすぐに分かると思うけどね～

アサミ

オーディションまであと1週間あります

アサミ

その間に練習すればいいだけです

ヨウコ

たった1週間でどこまで伸びるかしらね～

ヨウコ

楽しみにしているわ

～2日後～

アサミ

おつかれさまです

アサミ

あの、また個人練習をお願いしたいんですがいいですか？

ヨウスケ

もちろんですよ

ヨウスケ

やる気のある人は大歓迎です

ヨウスケ

個人練習をお願いしてくれるのはアサミさんだけですよ

アサミ

本当に、休むことが多いのに協力してくださって、

アサミ

感謝しています

ヨウスケ

子供さんのお世話しながら音楽を続けたい、っていう気持ち、

ヨウスケ

素晴らしいと思いますよ

ヨウスケ

オーディションまで、一緒に頑張りましょうね

アサミ

はい！

アサミ

あの、サビで出てくるテンポの速いタンギングが苦手で、

アサミ

そこを中心に練習したいです

ヨウスケ

分かりました

ヨウスケ

明日ですね、全体練習はないのでホールで響きを体感するために、

ヨウスケ

本番で使うメインホールで練習してみましょう

アサミ

分かりました

アサミ

よろしくお願いします

～オーディション後～

ヨウコ

あなた、

ヨウコ

どんな汚い手を使ったの！？

アサミ

どんな汚い手、って

アサミ

何も使ってないですよ

アサミ

オーディションまでに苦手なタンギングを練習して、

アサミ

ヨウスケさんに認めてもらえた結果です

ヨウコ

ありえないの！

ヨウコ

へっぽこなあなたが合格したことが！

アサミ

ラッパの中では1人だけ不合格者が出るので、

アサミ

ヨウコさん、パートリーダーの自分がその1人になるなんて、て思ってなかったですか？

アサミ

悔しいからその怒りを私にぶつけているみたいですけど、

アサミ

もう決定事項です

ヨウコ

お金でも払ったの？

ヨウコ

ヨウスケさんと一緒に番号をすり合わせて、

ヨウコ

あなたの番号を読んでもらえるように言ったんでしょ！

アサミ

そんな汚い手、思いつかなかったです

アサミ

ヨウコさん、よくそんな手法思いつきますね

アサミ

さすがです

ヨウコ

あなたね、

ヨウコ

ケンカ売っているの？

ヨウコ

ヨウスケさんに言って、結果は間違ってる、って抗議してやるんだから！

ヨウコ

あなたが一番パート練習の出席数が少ないことだって、

ヨウコ

言ってやるんだからね！

アサミ

ヨウスケさんは、そのこと知っていますよ

アサミ

タンギングをなかなか上達できないことも、

アサミ

相談してます

ヨウコ

あなたがタンギング上手くないことを知っているなら、

ヨウコ

話が早いわね

アサミ

でも、ヨウコさんの講義は100％無駄になると思いますよ

アサミ

だって、私が一番練習を一生懸命していること、

アサミ

ヨウスケさんが一番に分かっているので

ヨウコ

は？なんでよ？

アサミ

オーディション前に、

アサミ

ヨウスケさんに個人練習をお願いしたんです

ヨウコ

は？個人練習？

ヨウコ

そんなずるがしこいことするなんて...

ヨウコ

最低ね！

アサミ

個人練習をお願いしちゃいけないルールなんて、ないですよね？

アサミ

ヨウスケさんは私がお願いした時、

アサミ

快く引き受けてくれましたよ

ヨウコ

え？

ヨウコ

そうなの？

アサミ

はい、

アサミ

タンギングが苦手なことを伝えたら、

アサミ

コツまでしっかり教えてくれました

アサミ

ヨウスケさんの指導があってこそ、

アサミ

オーディションで成功できたんだと思います

ヨウコ

あっそう、

ヨウコ

まあ、いいわ

ヨウコ

パートリーダーは私だから、

ヨウコ

あなたの演奏にこれから何か問題があったら、

ヨウコ

その時はパートリーダーの私と変わってもらうから

アサミ

あっ、そのパートリーダーのことなんですが、

アサミ

今日からパートリーダーは私に変更になったみたいです

アサミ

ヨウスケさんからの推薦です

ヨウコ

は？

ヨウコ

何それ？どういうこと？

アサミ

ヨウコさん、私だけじゃなくて他のメンバーにもひどい言葉を投げてたみたいですね

アサミ

「ラッパのメンバーからはパートリーダーを変えてほしいって言要望があったみたいです」

ヨウコ

リーダーとして厳しく指導するのは当然のことでしょ！

アサミ

度が過ぎちゃったんじゃないですか？

アサミ

メンバーも限界だったんだと思います

アサミ

当然、私もその1人なのでヨウコさんのリーダー解任と、退団に賛成しました

ヨウコ

退団？って、は？

アサミ

ヨウスケさんが、

アサミ

「メンバーのことをリスペクトできないならリーダーどころか、

アサミ

楽団のメンバーに残せないって言って、」

アサミ

ヨウコさんを強制退団させる、って言っていました

ヨウコ

なんでよ！？

ヨウコ

私はそんなの、納得してないんだからね！

ヨウコ

絶対に残るんだから！

アサミ

もう、無理ですよ

アサミ

指揮者のヨウスケさんが決めたことです

アサミ

揺るぎません

ヨウコ

そんな...

ヨウコ

大きな楽団に入るオーディションに落ちたから、

ヨウコ

こんな小さな市が運営する楽団で我慢してきたのに...

ヨウコ

ここまで落ちたら、今後の未来なんてないじゃない...

アサミ

私たちの楽団のこと、

アサミ

そんなふうに思っていたんですね

ヨウコ

ええ、そうよ

ヨウコ

ホールもろくなところ取れないし、

ヨウコ

練習場所は少ないし、

ヨウコ

ずっと不満だったのよ

アサミ

じゃあ、

アサミ

こんなところ抜けれて良かったんじゃないですか？

ヨウコ

ええ、そうね！

ヨウコ

あなたたちより良い楽団に入って、

ヨウコ

いずれはプロのラッパ演奏者になってやるんだから！

ヨウコ

見てなさいよ！

アサミ

楽しみにしています

アサミ

これからの活躍、期待していますね～

～後日談～

アサミ

それからヨウコさんは大きな楽団に入るため、いろんな楽団のオーディションを受けましたが、

アサミ

全体演奏で「協調性がないと言われてオーディションは全部落ちたみたいです」

アサミ

リーダー気質などはなく、周りに命令ばかりしてののしることしかできなかったヨウコさんには、

アサミ

協調性が必要な楽団で演奏するのは難しいのかもしれないですね

アサミ

オーディションに落選してからはパートの仕事で忙しく、

アサミ

演奏の練習もあまりできず実力が衰えて行っているそうです

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結城真矢

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