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この笹ノ葉村では、毎年七月七日に七夕祭りが開かれる。 そして選ばれた巫女が、織姫と彦星の再会を祝して舞を捧げるのだ。
沙彩
毎日毎日舞の練習ばかり。 私はポニーテールの髪をほどいて大きなため息をついた。
祖母
沙彩
私には両親がいない。小さい頃からおばあちゃんが親代わりで、 私を今年の巫女に推薦したのもおばあちゃんだ。
祖母
巫女になれるのは十六歳から。今まで十六歳で巫女を務めた人はいない。
沙彩
祖母
おばあちゃんはそう言って部屋を出て行った。
沙彩
私は絶対に聞こえないような小さな声で適当な返事をし、 また舞の練習に戻った。
七夕祭りまで残り一週間。今日は実際の衣装を着て、 外の舞台で練習をしていた。
女子１
舞台の前を通り過ぎる女子たちが何やら話をしている。あれは高校の先輩だ。
女子２
そう言って笑いながら去っていった。
むかつく、この衣装がどれだけ重いか知らないくせに、 巫女になったこともないくせに。
沙彩
私はその場に座り込んだ。
祖母
私を心配したおばあちゃんが駆け寄ってきた。
沙彩
祖母
時間がない状況でも優しい言葉をかけてくれるおばあちゃんに、 私は返す言葉が見つからなかった。
祖母
七夕祭りまで残り四日。舞の練習中におばあちゃんが声をかけてきた。 居間に移動すると、おばあちゃんがおやつを用意してくれていた。
沙彩
私の純粋な質問に、おばあちゃんは少しためらって答え始めた。
祖母
お母さんは私を産んですぐに息を引き取ったらしい。 お父さんも数年後に病気で亡くなったと聞かされていた。
祖母
おばあちゃんは涙を流しながら私を抱きしめる。
祖母
そのまましばらく私を抱きしめた後、 おばあちゃんはにっこりと笑顔で私を見た。
祖母
おばあちゃんは私の頭を優しく撫でて、部屋を後にした。
お祭り当日。巫女の舞はお祭りの最後に行われる。 それまで私はお祭りを楽しむことにした。
満
後ろから声をかけてきたのは同級生の若草満だった。
沙彩
満
満は身体が弱く、学校も度々休みがちな男の子だ。 高校生とは思えないほど幼い顔立ちで、話し方も子供っぽい。
沙彩
満
さりげなくこういうことを言えるのは満の長所かもしれない。
沙彩
満
満はにこっと笑って私に横にぴったりくっついた。
沙彩
満
こんなことなら浴衣でも着てくればよかった。 でも満はそんなこと気にしてないようだった。
私たちはまず金魚すくいの屋台に立ち寄った。
沙彩
満
満のポイはすぐびりびりに破けて、手もびしょびしょだった。
沙彩
満
満は当たり前のようにポケットからハンカチを出す。
沙彩
満
沙彩
私がそう言うと、満はむすっと頬を膨らませた。
満
沙彩
私はすぐに謝ろうとしたけど満はそれを制止した。
満
満は私の手を引いて、ずんずんと進んでいく。
沙彩
満
いつも笑顔の満からは想像もつかないほど落ち着いた声で、 私は少しどきっとした。
しばらく山の中を進み、誰もいない展望台にたどり着いた。
沙彩
私が周りを見渡していると、満が目の前を指差した。
満
私たちはベンチに座り、お祭りで賑わう村を眺めていた。
沙彩
満
満らしくない低い声で、私の顔をじっと見つめて離れようとしない。
沙彩
満
気づいてる、だけど胸の鼓動が邪魔をして何も言い出せない。
満
いつも呼ばれている名前なのに、なんでこんなにどきどきするんだろう。
満
胸の鼓動はさらにうるさく鳴って、頭が真っ白になる。 気がつくと満は私を抱きしめていた。
満
耳元で囁かれた言葉に、私は頭が追いついていなかった。 でもこれだけは言える。
沙彩
満
満の顔を見ると、いつもの可愛らしい笑顔に戻っていた。
満
私たちは何事もなかったかのように手を繋いで山を降りた。
いよいよ巫女の舞が始まる。 重い衣装を着て、金色に輝く鈴を持って、私は舞台に立つ。
祖母
おばあちゃんが舞台裏から見守ってくれていた。 目の前では満が無邪気に手を振っている。
沙彩
音楽が鳴り始め、私はリズムに合わせて動き、鈴を鳴らす。
私は思いを込めて鈴を鳴らす。 空に浮かぶ天の川の下で、巫女の舞は輝きを増す。
約三十分、私は巫女の舞をやり遂げた。 舞台裏で着替えを済ませ、お祭り会場に戻ると、満がすぐ駆け寄ってきた。
満
満はぴょんぴょんと飛び跳ねて、語彙力のない感想を叫んでいた。
祖母
おばあちゃんは優しい目で満を見つめている。
沙彩
祖母
おばあちゃんは私にゆっくり歩み寄って抱きしめた。
沙彩
満
満も便乗して抱きついてきた。それはなんだか恥ずかしい。
祖母
沙彩
祖母
おばあちゃんは私たちの頭を撫でて、片付けに向かった。
満
満はすかさず私の手を握る。
沙彩
満
満のわがままなところも私は大好きだ。
私たちは手を繋いで、蛍が舞う川沿いを歩いていた。
沙彩
満
沙彩
満
その瞬間、満の唇が私の頬に触れた。
沙彩
私は急に足を止めた。また頭が真っ白になって、言葉がかたことになる。
沙彩
返答がない。握っている手に熱を感じる。 満のほうを向くと、これ以上ないほど顔が赤く染まっていた。
沙彩
私は思わず笑ってしまった。今のは男らしいけど、やっぱり可愛い。
満
徐々に声が小さくなっていくのも、また可愛い。
沙彩
満
お互い顔を見合わせ、同時にけらけらと笑い出した。
沙彩
満
私たちはまた歩き出した。もうすぐ満の家に着きそうだ。
満
沙彩
満
満はおもむろにポケットから短冊とペンを取り出した。
沙彩
満
用意周到すぎる。でも、何を書いたらいいんだろう。
満
沙彩
満
さらっと恥ずかしいこと書く満。
沙彩
