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第1話 - あ

2023年03月21日

#恋愛

結城真矢

スイジ

おいソウジ

ソウジ

兄に向かって乱暴だな…お兄ちゃんって呼べって言ってるだろ

スイジ

この前、家に女来てたろ

スイジ

あれ誰？

ソウジ

ん？いつの話？

スイジ

1週間前の話だよ

スイジ

お前と一緒に来てただろ

スイジ

かなりの美女だったよな

スイジ

保険屋か何かか？

ソウジ

部屋に引きこもって挨拶もせずに何してるかと思いきゃ

ソウジ

盗み見なんて趣味が悪いな

ソウジ

保険屋じゃないよ

スイジ

あ？じゃあ何なんだよ

ソウジ

俺の彼女だ

スイジ

はあ！？

スイジ

うそだろｗｗ

スイジ

は、マジ？

ソウジ

本当だよ、会社で知り合ってな

ソウジ

もう3年くらい付き合ってるかな

スイジ

いやいや、あんな可愛い女がお前の彼女なわけないじゃんｗｗ

スイジ

昔からガリ勉のお前におかしいだろ！

スイジ

遊ばれてんの察しろよｗ

スイジ

お前昔からそうだったよな

ソウジ

そうだっけか

スイジ

中学の時、罰ゲームで告白されてマジになってOKしてやがんのｗ

スイジ

相手の女子に泣かれて、しまいにはお前も泣いて謝ってんのなｗ

スイジ

マジでウケるわｗｗ

ソウジ

そんなこともあったな、懐かしい

スイジ

あの頃、お前陰でなんて呼ばれてたか知ってるか

スイジ

ガリガリ君だぞｗｗ

スイジ

ガリガリ机にかじりついて、ガリガリ鉛筆削ってるからｗｗ

スイジ

クッソ笑えるｗｗ

ソウジ

ひどいあだ名だな

スイジ

悪目立ちしすぎなんだよ頭悪いな

スイジ

なんでもっとうまく立ち回れないの？頭おかしいのか？

スイジ

そんなんだから騙されんだろ

スイジ

こんなのが兄貴だなんて恥ずかしくて言い出せなかったわ

ソウジ

学生時代のことはいいだろ

ソウジ

たしかにいい思い出は少なかったかもしれない

ソウジ

でも俺なりに将来を考えて勉強してたんだ

スイジ

そうだよな…頑張ってたよな…

スイジ

って授業だけじゃ追いつけないって頭悪すぎだろｗｗ

スイジ

クソ真面目に放課後、先生に聞きに行ってただろ？

スイジ

マジで頭悪いんだって、げらげら笑ってたわ

ソウジ

たしかに、先生たちにはお世話になったな

スイジ

お前クラスで軽くいじめられてたって聞いて

スイジ

そんな人間関係も作れないなんて、やっぱイカれてんだなってずっと思ってたわ

スイジ

どう、こんなお前に、彼女なんて作れるわけないって

スイジ

俺が考えるのも納得できるだろ？

ソウジ

まあ、そう考えるのも無理はないか

スイジ

だってお前に学生時代彼女いたか？いなかったろ？

ソウジ

ま、まあそうだけど…

スイジ

好きな女の子とまともに話すことなんてできなかったろ？

スイジ

いっちょ前にラブレターなんて書いて告白してたけど

スイジ

全部玉砕してたよなｗｗ

ソウジ

どれだけ前の話してるんだよ

ソウジ

お前ちょっとしつこいぞ

スイジ

はあ？事実言ってるだけだし

スイジ

それに比べて、俺はモテたからな

スイジ

好きな子とだって付き合ってたし、飽きたら別の子にすぐ乗り換えられたから

スイジ

モテないガリガリ君のお前とは違うんだよ

ソウジ

でも高校大学と継続して頑張ってきたお陰で今がある

ソウジ

それで彼女にも実際に恵まれたんだ

スイジ

それまだ言う？ｗｗ

スイジ

弟に見栄張るために頑張って考えた嘘でしょｗｗ

スイジ

いーよ、いーよわかってるから

スイジ

そんなことのために女呼んでさ、なに、雇ったの？

スイジ

必死になってマジで気持ち悪いな

ソウジ

いやだから…

スイジ

実家にまで呼んで恥ずかしｗｗ

スイジ

本当に一家の恥さらしだなｗｗ

ソウジ

3年間も時間無駄にして遊ぶ奴がいるか

ソウジ

それより、お前は最近どうなんだ

ソウジ

就職先は決まったりしたのか？

スイジ

は？浪人してんだろ

スイジ

誰が就職なんかするかよ

スイジ

働いたら老いぼれるまで奴隷だろ？

スイジ

大学合格したら遊びまわる予定だわｗ

ソウジ

とはいっても勉強してないって母さん言ってたぞ

ソウジ

バイトもせず、部屋にも引きこもりがちなんだってな

ソウジ

ちゃんと勉強してるのか

ソウジ

浪人も悪くはないけどな、学業が嫌いなら就職したって良いんじゃないか？

ソウジ

お前もう27歳だろ？

スイジ

うるせえよ！勉強してるわ！

スイジ

絶対有名大学受かってやるんだよ

スイジ

そこそこの大学にしか行けなかったお前とは違うんだよ

スイジ

彼女いるだなんて嘘つくやつよりよっぽど俺の方が優秀だろうが

スイジ

あんまり調子に乗るなよ

ソウジ

あのな、この前なんで家に来たかわかってるか？

ソウジ

結婚の挨拶に来たんだよ

スイジ

いや、何言ってんだよｗ

スイジ

冗談だろ？

ソウジ

冗談なわけないだろ

ソウジ

3年も経ったし、俺の仕事も落ち着いてきたからな

ソウジ

普通の流れだ

スイジ

…お前いくらなんでも嘘が下手だろｗ

スイジ

お前に結婚なんてできるわけないってｗｗ

ソウジ

まあ嘘ってことでも良いけど結婚はするからな

スイジ

それに結婚したとしてもどうせ金目当てだろ

ソウジ

彼女はそんなことしないよ

スイジ

どうだか、まああんまり期待しないことだなｗ

スイジ

せいぜいぬか喜びしてろｗ

～後日～

スイジ

おい

スイジ

ソウジ、お前マジで結婚すんの？

ソウジ

また盗み聞きしてたのか

ソウジ

今日実家に来たのは結婚式の日取りとかの打ち合わせだ

ソウジ

今日は遅くなったからまた来週に来るよ

スイジ

いやいやいや

スイジ

おかしいだろ！！

ソウジ

だから結婚するって伝えただろ

ソウジ

結婚するって言ってたしな

ソウジ

それに、どうせ金目当て、なんじゃなかったのか？

スイジ

いや、本当に結婚するなんて聞いてねえし

スイジ

は？おかしくね？

スイジ

なんでお前だけ？あんな美女と？

ソウジ

俺にはもったいないほどだってのは認めるよ

スイジ

ずるい

ソウジ

え？

スイジ

ずるいって言ってんだよ！

スイジ

何のうのうと抜け駆けしてんだよ

スイジ

お前だけずるいだろうが！！

ソウジ

ずるいって…30手前のいい大人がそんな子供じみたこと言うなよ

スイジ

同じ兄弟なのによ、お前だけ何もかも上手くいきやがってさ

スイジ

なんで目標が高い俺のほうが、こんな目に遭ってるわけ？

スイジ

ふざけんじゃねえよ！！

ソウジ

お前さ、本当に何も見えてないんだな

ソウジ

俺が学生時代、頭悪いなりに必死に勉強してただろ

スイジ

ああ、だからガリ勉だって言ってんだろ、きもちわりい

ソウジ

そんな時に、お前は何してた？

ソウジ

部活も1年目でやめてさ、しょっちゅう友達と夜遅くまで遊び歩いてただろ

ソウジ

その友達ともすぐケンカして独りぼっち

ソウジ

家に帰ってきたらずっと朝までゲームやってたよな

スイジ

俺はお前とは違って優秀だからなｗ

スイジ

遊んでても良いんだよｗ

ソウジ

テスト勉強も中途半端、ボランティアとか学外で何か活動しているわけでもない

ソウジ

俺はその間もずっと努力し続けてきた

ソウジ

別に勉強しろって言ってるわけじゃない

ソウジ

何かやり通してみろって言いたいんだ

スイジ

…てめえ、俺に説教垂れるなんて偉くなったもんだな

ソウジ

兄貴だからな、俺も父さん母さんもお前には甘いと思う

ソウジ

でももう限界が近いと思うぞ

ソウジ

柔道やってる父さんがその気になれば、無理やりお前を追い出すことだってできる

ソウジ

いつまで甘えてるつもりだよ

スイジ

うるせえよバカ野郎が！！

スイジ

説教すんじゃねえガリ勉のくせに！！

ソウジ

わかった、でもずるいわけじゃない

ソウジ

お前が努力しなかったツケが回ってきてるだけだ

スイジ

許せねえ…

スイジ

そうだ、お前の彼女さ、俺にくれよ

ソウジ

は？

スイジ

いい考えだよな！

スイジ

お前はどうせ出会いがいくらでもあるんだからよ

スイジ

またすぐ彼女なんて作れんだろ？

スイジ

だったら1人くらい良いじゃん

スイジ

なあ頼むよ、たった1人の弟の頼みじゃんかよ～

ソウジ

それ、冗談だよな？

スイジ

冗談なんか言うか、バカがよ

スイジ

さっさと寄越せって言ってんの

ソウジ

何言ってるのかわかってるのか？

スイジ

分かってるに決まってんだろ

スイジ

うだうだ言ってねえでさっさと彼女とケンカ別れしろ

スイジ

そしたら俺が彼女に近づいて慰めてゲットするって作戦

スイジ

どうだ、こんな知恵お前じゃ働かないだろ

ソウジ

そうだな、俺じゃそんなこと思い浮かばない

ソウジ

そんなバカみたいな悪知恵はな

スイジ

バカにすんじゃねえぞ

スイジ

…まあいいやｗ

ソウジ

おい、何するつもりだ

スイジ

いーや？何も？ｗ

スイジ

ソウジで良いなら俺でも良いってことだよな

ソウジ

いいか、彼女に手出すなよ

スイジ

わかってるって、当然だろｗ

～1週間後～

スイジ

騙しやがったな！！

ソウジ

お前本当に最低だよ

スイジ

家族揃って俺を騙しやがって

スイジ

どうしてわかったんだよ

スイジ

俺がソウジの彼女の寝こみを襲おうとしてたの

ソウジ

お前が何か企んでいるだろうことは大体わかってた

ソウジ

もしかしたらと思って父さんと母さんに相談してたんだ

ソウジ

最初はもちろん信じてはくれなかったけどな

スイジ

くそ、信じてんじゃねえよ…

ソウジ

お前がまた盗み聞きするだろうと思って

ソウジ

今日彼女は客間に泊まるって話題を何回も出してたんだ

ソウジ

父さんに頼んで客間に寝てもらったんだ

ソウジ

そしたら真夜中、まんまとお前が来たわけだ

スイジ

なにしてくれてんだよ、お陰でぶん殴られたんだぞ！？

スイジ

これ暴行罪だよな！？

ソウジ

それはこっちのセリフだ

ソウジ

お前のこと心底見損なったよ

ソウジ

普通、親族の彼女を夜這いしに来るか？

スイジ

うるせえよ、お前も俺も大して変わんねえだろ

スイジ

だったらお前の女が俺の女になったっていいってことだ

ソウジ

良いわけないだろ

ソウジ

お前、今どこだ

ソウジ

逃げずに家に帰ってこい

スイジ

ほとぼり冷めるまで帰れねえだろ…こんな寒い中…

スイジ

しばらくしたら帰る

スイジ

父さんにもそう言っといて

ソウジ

帰ってこないなら代わりに俺が伝えるしかないな

スイジ

なんだよ

ソウジ

父さんも母さんも激怒してる

スイジ

そ、そうかよ

ソウジ

今回の件でお前の本性がわかったって

ソウジ

数日以内に家を追い出すって言ってるぞ

スイジ

…へ？

スイジ

ま、待ってくれよ

スイジ

嘘だろ？

ソウジ

だから、俺は嘘なんかつかない

ソウジ

ちなみに俺も父さんと母さんに賛成だ

スイジ

ば、ばか言うなよ

スイジ

俺、働いてないんだぞ？

スイジ

外に放り出されたら死んじまう…

スイジ

それだけは本当に困るんだよ

スイジ

頼む、兄ちゃんからなんとか説得してくれない？

スイジ

俺ら兄弟だろ…？

ソウジ

働けば良いじゃないか

ソウジ

バイトでもなんでもいくらでもやれることはある

スイジ

それじゃ、俺の大学は…？

ソウジ

もうそんな次元の話じゃないんだよ

ソウジ

行けるわけないだろ

ソウジ

そんなに行きたければ自分で稼いで行くことだな

スイジ

そんなばかな…

スイジ

俺はどうしたら…

ソウジ

けどやっぱ父さんと母さんはお前に甘いよ

ソウジ

こんなことされておいてまだ情が残ってる

スイジ

そう、だよな？そうだよ、当たり前じゃんか

ソウジ

だから追い出されるか、知り合いの工場に住み込みで働くか選べって

スイジ

へ？

スイジ

家には？

ソウジ

いずれにしても家に引きこもるなんてことはできないな

スイジ

こ、この俺が…底辺の工場…？

スイジ

なんかの冗談じゃないのか？

ソウジ

そこは元犯罪者の更生施設も兼ねているそうだ

ソウジ

良い機会だ、そこで性根を叩き直してもらえ

スイジ

俺が、犯罪者と一緒に働くって…？

スイジ

俺は有名大学に行くはずだったのに…

ソウジ

無一文で家を出て行ってもらっても一向にかまわないよ

ソウジ

父さんも母さんも、一家の恥さらしなんてどうでもいいって言ってる

ソウジ

じゃあ、返事待ってるから

スイジ

なんでこんなことに…

～後日談～

ソウジ

それからすぐに弟は凍え切った様子で帰ってきた

ソウジ

土下座してきたけど俺は到底許すことなんてできず、家族と彼女からも軽蔑の眼差しを浴びた

ソウジ

それから程なくして弟は例の工場で働くことに

ソウジ

更生施設も兼ねているので警備は厳重、指導はものすごく厳しいのだとか

ソウジ

こちらから依頼して入所させてもらっているので、給与もほぼないみたいだ

ソウジ

何度か脱走を試みたようだけど、イカついオヤジ達に捕まって引っ張り戻されてるらしい

ソウジ

ガリガリに痩せこけている姿を時折見かける

ソウジ

一方で俺はといえば、無事に美人の彼女と結婚し、幸せに暮らしている

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結城真矢

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