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rara🎼
nmmn注意⚠️ キャラ崩壊注意⚠️ 誤字脱字注意⚠️ 兄弟パロ
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4 傘の下、言えなかったこと
昼を過ぎたあたりから、空は不機嫌に唸りはじめていた。
低く垂れ込めた雲のあいだから、ごろごろと雷鳴のような音が響く。
六奏学園の校舎を取り囲むガラス窓に、ぽつ、ぽつと雨粒が落ち始めたのは、四限目の授業が終わる頃だった。
最初はわずかだった雫も、じわじわとその数を増やし、やがて筋を描いて流れ落ちていく。
白く滲んでいく窓の向こう。
ぼんやりと曖昧になる景色に、教室の誰もが気づいていた。
放課後のチャイムが鳴る頃には、外は本格的な雨になっていた。
濡れたアスファルトが重たい光を映し、校舎の廊下にはぬるい風が吹き抜けていく。
灰色の空の下、制服の裾がじっとりと湿るような湿度。
そんな憂鬱な空気の中で、生徒たちは次々と昇降口へ向かっていった。
こさめは教室の隅、自分の席で鞄の中を何度も確かめていた。
教科書、ノート、筆箱……そして、肝心の傘。
こさめ
鞄の底をそっと探りながら、小さく呟いた。
窓の外に目を向ければ、色とりどりの傘が開き、閉じ、揺れている。
黒、紺、花柄、透明。傘を差す人波が、次々と校門へ向かっていくのが見える。
こさめはその光景を眺めながら、肩をすくめるようにして窓辺に寄りかかった。
────なつくん、来てくれるかな
屋敷では、何も言わなくてもそばにいてくれる。
だけど、学校ではただのクラスメイト。
必要以上に目立たぬよう、他の生徒に悟られぬよう、一定の距離を保ってくれるなつの“配慮”は、時にこさめの心を切なくさせる。
距離があるのは仕方ない。
そうわかってはいても、こうしてひとりで窓を眺めていると、その距離が思いのほか遠く感じてしまう。
そのときだった。
なつ
低く、けれどどこか耳に馴染んだ声が、教室の静けさを切り裂くように届いた。
振り返れば、そこに立っていたのは──なつ。
制服のままの姿で、教室の扉の前に立っている。
背後から差し込む雨光のせいか、その輪郭が少しだけ霞んで見えた。
こさめ
こさめが思わず立ち上がると、なつは無言で近づいてくる。
手には、こさめが好んで使う水色の傘。
水滴がいくつもこぼれ落ちていて、どうやら急いで取りに戻ったことが伝わってきた。
なつ
短く言いながら、なつは机の横に立った。
息がほんの少しだけ上がっているのに、顔色ひとつ変えずに、いつもの口調で話す姿に、こさめは胸の奥が熱くなるのを感じた。
こさめ
なつ
それは、素っ気ない言い方だった。
けれど、その裏にある優しさは、こさめだけが知っている。
こさめ
つい、零れた本音に、なつの手がふっと動いた。
ふたりで並んで歩く廊下。
床に響くポツポツという足音と、傘に当たる雨音が重なって、外の喧騒が遠くなる。
こさめ
なつ
こさめ
なつがちらりと視線を向ける。
こさめは、少しだけ照れたように笑っていた。
こさめ
なつ
その言葉の温度に、こさめの胸がきゅっと締めつけられる。
なつの耳がわずかに赤くなっているのを見て、こさめは密かに心の中でガッツポーズをした。
一方、昇降口の階段の手すりにもたれながら、らんはぼんやりと空を見上げていた。
灰色に染まった空は、どこまで行っても晴れる気配がない。
雨音だけが、均等なリズムで響いている。
いるま
静かに呼ばれ、らんは振り返る。
そこには、濡れた襟元を整えながら歩み寄る、いるまの姿があった。
片手には、らんのための傘。
らん
いるま
いるま
らん
らん
交わされる言葉はどれも短い。
けれど、その中には確かに“通じ合っている者同士”の空気が流れていた。
らん
いるま
らん
一瞬だけ、いるまの足が止まる。
いるま
らん
いるま
いるま
いるま
らんはちらりと視線を送る。
その横顔には、誓いのような静けさが宿っていた。
いるま
言い切ったいるまの声が、雨音に溶けるように響いた。
その頃、みことは下駄箱を抜けて、中庭へと足を向けていた。
雨に濡れた花壇のそば。
傘も差さずに、空を見上げている。
みこと
か細くつぶやいた声に応えるように、風が頬を撫でた。
その直後────
すち
息を切らせて走ってきたのは、すちだった。
肩で息をしながら、大きな傘を掲げて、みことのすぐそばに立つ。
すち
すち
みこと
その言葉に、すちはすぐ傘を傾け、みことをその中へと包み込む。
すち
すち
みこと
みことは、すちのジャケットの裾を小さくつまんだ。
その手の力が、ほんの少しだけ震えているのを、すちは静かに受け止める。
すち
みこと
みこと
雨は止まない。
けれど、ふたりの間にあるのは、確かな温もりだった。
それは誰にも邪魔されない、ふたりだけの“傘の下の世界”。
屋敷へ戻る帰り道。
車の中には、いつもより少しだけ長い沈黙があった。
だけど、それは決して重たいものではない。
それぞれが、自分の傘の中で感じた“想い”を、そっと胸にしまっていたから。
今日交わされた言葉は、決して多くはなかった。
けれど、確かに心は動いていた。
忠誠と感情の境界。
主と従者という名の、形ある関係の下で──芽吹き始めた、名前のない気持ち。
それはまだ、「恋」とは呼べないかもしれない。
けれど、傘の下でふと感じた温もりを、誰もが忘れられずにいた。
第4話・了
rara🎼
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𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡50
rara🎼
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コメント
2件
今回も最高でした! こういうほのかな日常が愛おしいです! ♡1000押させていただきました!