気がついたら 知らない部屋に ふたりきり、とか
ありえない展開すぎた。
しかも、出られる方法はひとつ。
「私を出し抜こうなんて
100年早いんだからね?」
いつものように 芝居がかった口調で
勝気に笑う彼女の、
目を開くと
真っ白な部屋にいた。
4畳くらいの、狭い空間。
家具も、 ドアすらない。
完全な密室。
どこだ、ここ。
身体を起こして 頭の中を整理する。
たしか、あいつと 教室にいて
記憶がない。
ぼんやりと座り込んでいた俺は
不意に後ろからかかった声に
肩を震わせて振り向いた。
制服の上から 白いパーカーを 羽織った彼女は、
腕を組んで 壁にもたれかかりながら、
口をすぼめて 不満たらしく言った。
首を傾げて 呟いた彼女は
いやらしい 笑みを浮かべた。
目の前にいる彼女は
クラスメイト、というか 友人、というか
芝居がかった物言いをして
そして、 常にふざけているやつ。
このとおり、 ものすごくめんどくさい。
溜息まじりに 何故か拗ねた彼女は
もたれていた壁から 身体を離した。
彼女が先程まで 背中で隠していた場所には
小さな文字で、 何か書いてあった。
互いの秘密を暴露しろ
顔を顰(しか)める俺に
彼女は楽しそうに パーカーの袖を 口元に寄せた。
人差し指を唇に当てて ウインクしてやると
彼は素早く視線を逸らした。
顔を綻ばせながら 彼の顔を覗き込むと
たちまち赤くなった。
彼の顔が怒りに染まる。
相変わらず 見ていて飽きない。
たのしい。
なんとなく呟くと
彼女が無表情で 俺を見つめてきた。
条件反射なのか
衝動的に 手を出してしまった。
頑丈な紙と、
白い鋏。
真顔の彼女が 鋏を顔の横に添える。
彼女がにやっと 片頬を上げた。
言うなら今か。
これはチャンスなのか。
彼女の大きな瞳に 真っ直ぐ見据えられる。
心臓が早鐘を打ちだす。
もう、うるさいくらいに。
息を吸うと
微かな音がした。
イタズラを思いついたような 愉快そうな表情で
彼女が指を立てる。
何拍か遅れて理解した。
と同時に、
やり返したくなる。
一瞬、狼狽えた様子で 俺を見て
いつもの笑みを浮かべた。
返り討ちにされた。
2本の指が 俺の前に突き出される。
唖然とした回数なんて もうわからない。
ただ呆然とした。
放課後のことだった。
課題に追われていた俺の傍で
彼女が徐(おもむろ)に 小さな箱を取りだした。
何やら意味深に ほくそ笑む彼女。
家庭科の実習で 野菜炒めを炭の塊にしていた。
先生も苦笑いするほどの 不器用が作ってきた クッキー。
普通に考えてみれば、 もし他人ならば
食べるわけなかった。
彼女が箱を軽く揺らす。
俺は例外だった。
首を傾げる俺に
彼女はこともなげに頷いた。
彼女は得意満面、 愉しそうに声をあげた。
彼女が湿った目つきで 俺を睨む。
わざとらしく眉を上げながら 彼女は立ち上がる。
彼女がドアを開ける。
眩しい夕陽が、 白い部屋を照らす。
俺の疑問は、 ひとつの音になる。
振り向いて、俺を見る
いつものように 芝居がかった口調で
勝気に笑う彼女の耳は
それでも
夕焼けの色ではない 熱に染まっていた。
染まる秘密
コメント
18件
表現力がすごすぎて、もう、表現出来ないくらいすごかったです✨✨ 一色さんが樋口くんは自分に好意を寄せているってことに気づいていたから出来たことですよね🥰 逆に恋愛に疎い2人だったら……。と考えると両想いは夢のまた夢だったかもしれませんね🤭💭💕
じゃんけんで勝った時の女の子可愛い…❤「うぃー」だって。もー😳😳 最後の耳が赤くなっていた所で完全にやられました❤❤
