中也とは何かと相性が悪かった
趣味、好きな食べ物、好きな映画のジャンル
全て見事に真逆で、ああこの人は良いなと思ったことは一度たりともなかった。
が、何故か身体の相性は莫迦みたいに良かった
どんな女を抱いても、どんな男に抱かれても
何時も何処か満たされず何処か寂しい。
然し、彼と一夜共に過ごした時、寂しいだなんてちょっとも思わなかった。
私と中也の関係はからだのみの関係。所謂セックスフレンド。
なので幾つかルールを二人で決めた。
私達はあくまで恋人ではなく互いの欲を満たすための関係そして、マフィアと探偵社という対立関係にあることから
行為中、行為前後接吻しないこと、好きと云わないこと、恋愛感情を抱かないこと。
何時殺しても、殺されてもいいよう余計な情はかけないこと
なのにこの男はしれっと私に好きだと
云った
中也
中也は少し頬を赤らめている。それとは逆に私は酷い顔をしているだろう。
太宰
中也
嗚呼、何回目だろうか。もう今は彼の口から好きという単語は聞きたくない。
中也
太宰
私は苦虫を噛み潰したような顔をした、眉間に少し皺を寄せる
中也
わからずや、彼は何も判っていない。
私は今どんなに惨めな思いをしているのだろうか。彼は知ることはないだろう。
私は彼と付き合う気はない。絶対に
太宰
太宰
太宰
きっと…付き合ってもどうせ身体。喩え付き合って生活が楽しくても私は…
太宰
中也
中也
中也は拳を握りしめた。
中也
中也
彼はその青い瞳で私を真っ直ぐ見つめる。
濁りのないその瞳で見つめられるたび私はどん底に突き落とされる
もっと惨めになる
私はそっと目を逸らした
中也
中也
中也はほんの少し目をうるわせる。
そんな彼を見ると私は堪らなくなり 「違う」と云った
太宰
太宰
中也
太宰
中也の希望を抱いた目に私はとうとう我慢ならなくて声を荒げた
太宰
太宰
太宰
今私はどんな顔をしているのだろうか?
酷い顔はしていないか?
沈黙する中也を私は唯黙って見ていた。そして彼とこれで別れられることを期待した
中也
中也
中也
私はこの返事に物凄く迷っている。
嘘をつくのは簡単だ。
『中也のことが嫌いで嫌いでたまらないから』とか『私の恋愛対象は女だ』とか
いくらでも思いつく
然し、私はそんな事云いたくても云えなかった。
脳みそは身体に云えと命令しているのに私の口が逆らうのだ
嫌いだと云おうとするたび息が苦しくなる。声が出なくなる。視界が霞む
そんな中私が口に出来たのは
御免の一言だった。
中也
中也
太宰
あまりにも酷い(むごい)結末だ。
中也からの告白を断り
本当の事も云えず私は又、一人になるのだろう。
『大好き』な人一人に好きと云えない。云う事ができない。云うことが恐ろしい私なんか他人と結ばれるべきで無いと、神様が直接運命で私に教えているのだ。
明日から又、知らない人に抱かれて、満たされずうわべの快楽に溺れながら夜が明けるのを待つだろう。
実に虚しい…なんならいっそ死んでしまおうか。織田作のところに行けばこの話も惨めな話じゃなく笑い話になるに違いない。
そうだ。そうしよう。もう死んでしまおうか
所詮穴だらけの人生。頂いた愛情も寵愛もザルの隙間から全て溢れるような人生。
生きていても、仕方が無い
今生に執着も織田作が息絶えた時に消えた。
彼を振ったら星空が映る川に身を投げよう。そう決めた時彼が私の腕を強く引き寄せ私の口を塞いだ。
あまりのことに驚き私は状況を理解できなかったがなぜだかとても心地がよく私は静かに目を閉じた。
彼の暖かな体温が粘膜越しに伝わる。
とても温い。火傷してしまいそうなほどに温い。
太宰
そう思った途端。中也は物足りなさそうに口を離し、白銀の糸は街灯の光でキラキラと輝く
中也
中也
中也
図星だった。私はなにも云えないまま口を開いていた。
そしたら中也が強引に私の腕を引っ張り何処に向かったと思いきやそこは私の行きつけの川だった。
太宰
私が何度拒んでも中也は無理やり腕を引く。水位は腰辺り此の儘だと直、私達二人はこの天の川に沈むだろう
太宰
太宰
彼は振り向かず、止まらずどんどん川に浸かってゆく
私の腕を掴むその手は小刻みに震えていた
太宰
そう聞くと振り返ったはものの喋らず私を見つめただけで又、川の深くに向かう。
太宰
今深さは腹あたり、あと少し進めば中也は水に沈む。
中也
太宰
中也
中也
中也は鋭く冷たい目線で私を真っ直ぐ見つめる
私はその目を逸らさず見つめ返した。
吸い込まれそうなほどの青い瞳。
脳裏に浮かぶ赤毛で無精髭の織田作。
嗚呼、彼が恋しい、合いたい。
だけどまだ…
死ぬのは怖い。まだやり残したことがある。まだ、死ねない。
太宰
私の頬からしずくがつたい川の水面に模様を作る。
太宰
太宰
すると、中也ふっと鼻で笑い私の頭を優しく撫でた。
中也
彼の笑顔がキラキラ光る川に反射する
なんと美しいことか。
私は彼と手をつなぎ天の川みたいなその川を後にした
太宰
太宰
コメント
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めっちゃ良かった!