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薄暗い路地を細い体が歩いていく。古びた建物。その中に入り階段を降りる。一つのドアの前に立ち止まり鍵を開け中に入る。
続く通路を歩いて辿り着く部屋の中。
そこには赤毛の男が管に繋がれ眠りについていた。
太宰
太宰
笑顔で話していく。
だけど眠る男が目覚めることはない。ずっと目は閉ざされて機械越しの呼吸だけが聞こえている。二年前、手のひらから失われていく体温に必死にすがりこの世に留めたもののその時から目を開けることはなかった。
いつ目を開けるのか、そもそも開けるときが来るのかさえ分からない。
今も死体のようなものだった。
太宰はそんな男に話し続ける。ここは太宰以外誰も知らない隠れ家だった。織田を隠し続けている。
太宰
バイバイって手を振る。そして扉をしめていた。
太宰
太宰
太宰
とつとつと話していた声が止まった。太宰の目は真っ直ぐに織田作を見下ろしていたのに、今は下に逸らされている。あとねともう一度繰り返していた。
太宰
楽しげだった声は今や潜められて、苦しげなものに変わっていた。
褪せた瞳の中には織田はいなくて床だけが映っている。深いと息がでては太宰の口元はひきつった笑みを浮かべた。
太宰
太宰
太宰
太宰
僅かな吐息。
床を見ていた目はいつの間にかまた織田を見て、吐息をつく。
ほとんど無意識のうちにその手が動いていて横においたタバコに伸びていた。
タバコに火をつけていく
太宰
太宰
天井を見上げていた太宰の目が静かに織田を移した。
太宰
タバコの煙が部屋の中を満たしている。その匂いの中笑っている太宰は小さくつぶやく。どうしようって
太宰
織田の眠るベッドの上にその器は置かれた。プラスチックの浅いお椀型の器。しっかりと蓋をされたその中にはカレーライスが入っている。かつて織田が好きだったもので織田の好みに合わせて唐辛子がガンガンと打ち込まれていた
太宰
太宰
太宰
織田を見ていた太宰の目がわずかにずれて布団を見た。長いことそのままだから黄ばんでいる布団。ふぅと吐息が出ていく
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
太宰
予想通りその日は来た。
理由もなく呼び出された太宰は胸の中に湧く寂寥感に変な感じだと一瞬だけ口元を歪めていた。そして呼ばれた社長室まで静かに向かっていた。
ノックを鳴らせば入れと低い声。
社長室の中には社長しかいなかった。それどころか探偵社内にも人はいない。就業時間が終わってから呼ばれたのだ。
部屋に入れば福沢はいつもの机ではなく備え付けられた畳の上で待ち構えていた。
そこに座れと対面をさされ大人しく指示に従う。
それで用途はと太宰水から話を切り出していた。
そうでなければ時間がかかるとそう判断したから。
社長の目元には深いシワが刻み込まれており、そして銀の眼差しはじっと太宰を見てきていた。何かを思案し探る色を称えるそれに太宰はわざと口元の笑みを歪めた。
森の姿をわざとらしく真似てなにか問題でもと問う。
福沢の口元がさらに嶮しくなり、それから一度深い息を吐きだしていた。
森鴎外という男を知っているな
はい
そして問われる言葉。否定することはない。分かっていたことだから。それでも寂しいと感じてしまう
福沢
太宰
福沢
訪れる沈黙。
再び福沢は険しい顔をしてその口元を閉ざした。唇を真一文字に噛み締めながら何事かを考えている。
眼光がそらされることはない。
見つめられるのを見つめ返しながら太宰はその口を開く。
時間をかけようとは思えなかった。
終わりはあっさりとした方がいい。
太宰
お辞儀をしつつ顔を上げれば太宰は一つ瞬きをした。
先程まで険しかった福沢の顔は何故か驚いたものに変わっていたのだ。固く閉じられていたはずの口元まで開いている。
福沢
太宰
太宰
福沢
太宰
福沢
再び福沢の口が閉ざされるが先程のことがあったからか早くに開いていた
福沢
太宰
福沢
眉間によった深いシワ。じっと見つめてくる鋭い眼差し。噛み締められた唇。険しい顔立ち。
許せぬのだろうと思っていたそれが己が重っていたものとは違うことを太宰は福沢の言葉で気づいた。首が傾いていく、
太宰
福沢
福沢
太宰
福沢
太宰
福沢
太宰
首は傾いたままだった。何でこんな話になっているのか理解が追いついていない。あれのせいなのかと脳裏に浮かぶ森は何が悪いのやらと言わんばかりに肩をすくめた腹のたつ顔をしていた。
暫くは会うこともないだろうが、次似合うときがあれば本気を出されない範囲で殴ってやろうと決めた。
そんな太宰の前で福沢な眉間にシワを寄せながらあれこれと口にしていた
これ心配している顔だったのかなんて今思った。
太宰
太宰
福沢
太宰
福沢
太宰
福沢
太宰
福沢
思わずなのだろう。舌打ちとともに福沢の手が畳を叩いていた。
福沢
太宰
福沢
福沢
問いかけてくる割には見つめてくる福沢の目は答えなぞ知っている者のものであった。もう一度太宰の脳裏に森の姿が映る。ごめんねなんて全然可愛くないのに可愛いフリして謝っていた
太宰
福沢
太宰
福沢
福沢の目が見ていく。それは言葉とは裏腹に嫌だなんて言わせないだけの強さがあった
太宰
太宰
ほうと吐息を吐き出したのは織田作のいる部屋の中だった。
太宰
太宰
太宰
太宰