薬依存

※なつ視点

口枷やピアスをつけてから，不安定になることはなかった

いつも以上にこさめを感じれている

だから，

薬なんかよりも効いていて、

これならこさめがいなくても大丈夫って、思ってしまったのだ

その日、こさめは帰ってこなかった

バイトでトラブルかな？

それとも…

ある日

前触れもなく

口枷のロックが外された音がした

勝手に外れて目の前に落ちた口枷を眺めていた

こさめは、今どこで何をしているのだろうか

水道水を飲んでは，腹を満たしていた

大丈夫、こさめがいるから大丈夫

水だけで過ごして1週間が経った

新しい部屋を見つけた

テレビがある部屋

こさめの家は広すぎて、きっと戻るのも大変そう…

カチッ

テレビをつけた

天気予報、ニュース、アニメ

今日は雨みたい

男子高校生が行方不明

新しいほのぼのとしたアニメ

どれも頭に入ってきてはいない

きっと、なつくんとだったらもっと楽しかった

1人くらい部屋で、久しぶりに枷を外していた

こさめはきっと、俺のこと嫌いになっちゃった

だから家を開けたんだ

じゃあ謝りに行かないと…

鍵のかかっていない扉

こさめが帰ってこなくなってから、ずっと開閉していない

ピアスをつけて、

口枷をつけて、マスクして、

それ以外は何も持っていかなかった

雨が降る中、後ろから微笑んで名前を呼んでくれるのを期待していた

俺ももう一度名前を呼びたかった

空腹なんて感じずに

ただ一直線に歩いていた

いつもに比べたら寒かった

こさめという温もりがないから

パーカーのフードはほとんど意味をなしていない

俺は、初めてこさめと会った場所に向かうのだった

初めて会った場所

そんな聖地に着く

雨はすっかり止んだ

校外学習で、他クラスだったこさめに話しかけてもらえた場所

意外と家も近くて、出身地も同じで

ただの幼馴染だった

もしかしたら、

こさめなんて人物居ないのかもしれない

薬の飲み過ぎで幻覚を見ていただけ

きっと今までの出来事も全部幻覚で

こさめの家も本当はこさめの家じゃなくて

だから、

もう、こさめなんて居ないのかも

こさめの居ない明日なんてもういいや

人気のない、この場所で、

俺は静かに目を閉じた

こさめってなんだったんだろ

なんで俺薬飲んでたんだっけ

こさめの幻覚を途切れさせないため？

でも、そのこさめって

本当はいないんじゃん

また、雨のすごい日だった

寝てても何も起こらなかったし、こさめの家で死のうかな

雨の降る夜

雨の音にかき消されることなく、こさめの幻聴が聞こえたのだった