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主
主
主
静かな部屋だった
しかし...そこには
音がある
音があるはずなのに...
冬弥
冬弥はそう思った
そして鍵盤に手を置く
🎶🎶
押せば音は鳴る
正しい音だ
狂いの無い音
それでも
冬弥
その一音を切り捨てる
幼い頃から...
俺の音は
決められていた
正しく弾くこと
乱さないこと
間違えないこと
それが音楽だった
そう...だから俺は
間違えたことはない
1度もな
冬弥
冬弥
冬弥
胸の中にふと違和感が残った
音を出す度に
ズレていく感覚
それはまるで
冬弥が弾いているのではなく...
"誰かが自分を使って弾いている"
そんな感じがしていたのだ
その日、冬弥は録音をした
ただの確認のためだった
自分自身の音が
"ちゃんと正しいのか"
冬弥
イヤホンをつけて再生をした
流れてきた音は...
完璧だった
ミスもなく
リズムも的確
強弱も理想的
冬弥
冬弥は手が震えた
冬弥
それは、自分の...
青柳冬弥の音ではなかった
正確すぎて
綺麗すぎて
......何も残ってない
空っぽだった
冬弥
小さく冬弥は笑った
笑ったはずだった
なのにやけに...
音が遠かった
冬弥
その問は何処にも落ちない
次の日から冬弥は
音をわざとズラすようになった
わざとリズムを外す
強く弾く
弱く弾く
だがしかし...
冬弥
どれも、“作っている”感覚が消えない
崩しても、まだ“正しさ”が残る
まるで、どれだけ壊しても 元の形に戻ろうとするみたいに
夜
部屋の明かりはつけないままだ
主
鍵盤だけがぼんやりと白かった
冬弥
指が沈む
乱雑に
無理やり壊すように
音が濁る
重なる...崩れる
それでも...止まらない
冬弥
息が浅くなる
冬弥
違う
俺はそう思った
だが...同時に
冬弥
とも思った
正しい音はどれも
空っぽだった
崩した音は...
偽物だった
じゃあ俺は何処にいる
冬弥
その言葉はやけにしっくりきた
次の日
冬弥はまふゆに聞かせた
いつも通りの場所
いつも通りの鍵盤
でも違った...
指は、もう“正しさ”をなぞらない
乱れる
崩れる
外れる
まふゆの心の中は
落ち着かなかった
それは当然だ
今までの冬弥の音とは
まるで違う音だったから
まふゆ
それは評価でも
評論でもない
賞賛でもなかった
ただの“違和感”
冬弥はその言葉が嬉しかった
嗚呼
これでいいんだ
冬弥は
初めて、“間違えた”
初めて、“崩れた”
でも
その瞬間気づく
冬弥
手が止まった
冬弥
崩れた音ですら、“自分が崩した音”だった
つまり
それもまた、“偽物”
冬弥
また笑う
今度はちゃんと聞こえた
冬弥
音が止まった
二人の間で沈黙が流れる
でも...不思議と怖くなかった
冬弥
もう一度鍵盤に触れる
冬弥
次に出た音は...
まふゆ
その通りだった
でも...前より少し迷った音だった
正しくもない
壊しきれてない
その曖昧な音が
冬弥の部屋に残った
冬弥
そう言い切るにはまだ足りない
けど
冬弥
夜は終わらない
音もまだ...
完成していない
そしてきっと
この先も完成することは...
ないだろう
それでも
偽物でも、未完成でも、空っぽでも
鍵盤に触れる限り
音は鳴る
“それが、自分かどうかは、わからないまま。”
コメント
12件
偽物人間って物語にするのクソ難しいと思うのに、ここまで完璧(?)に作り上げるとは……!さすがは翠歌さんですね!! とうやは昔からまふゆと同じようにクラッシックの方で完璧を求めらてきたからどうしても正しい音しか出せないんだよね……他の人はそんなに詳しくないからほぼ憶測だけど、間違えながらも自分の好きなように弾くって感じだけど、とうやは間違えてはならないから正しい音で弾くって感じでから、どうしても出せないんだよね……だから自分で崩したり外したりしてもそれはやっぱり自分で作っている音で自然に出している音とは違うもんね……だけど、今はその自分でいいって思えたから、良かったよ……とうやもこれから成長してくんだろーな……