フェリックスとワトリーが足を踏み入れたのは 警察署だった。扉を開くと、そこには慣れ親しんだ光景が広がっていた。 受付では、いつもの ジョセフがドーナツとコーラを楽しんでいた
ジョセフ
ジョセフ
ワトリーがフェリックスに問いかけた。
ワトリー
フェリックス
まだ警察官として働いているようだね。
ジョセフの目が二人にとまり、 顔には驚愕の色が浮かぶ。
ジョセフ
フェリックス
ジョセフ
フェリックス
来ました
ジョセフ
ジョセフ
ジョセフは一瞬怒りを露わにしたが、 すぐに咳払いし、姿勢を正す。
ジョセフ
ジョセフ
その言葉には、ヴィクターによる 何かしらの圧力が影を落としていた。
フェリックス
ワトリー
フェリックス
調べてほしい
ジョセフ
フェリックス
一致するかどうかを調べてほしい
フェリックス
解けるかもしれない。
ジョセフ
フェリックス
この持ち主がいる場所に一緒に来てほしい。
ジョセフ
フェリックス
評価は大いに上がるだろう。
ジョセフは一瞬、戸惑いながらも、 やがて決断の色を浮かべて言った。
ジョセフ
ジョセフ
フェリックス
まず肉球紋から照合してくれ。
ジョセフ
二匹の間には、これから共に挑む難題に 対する信頼と連帯感が静かに芽生えていた。
薄曇りの空の下、フェリックス、ワトリー、ジョセフの3匹は、街で一番洗練された外観を誇るタレント事務所のガラス扉を押し開けた。清潔なロビーは、受付の猫が彼らの出で立ちを見て、ほんの一瞬だけ表情を固めた。 だが、ジョセフが警察であると名乗ると、即座に内線電話を取り、 緊急性を込めた声で何者かを呼んだ。
間もなく、部屋からアレクが現れた。 ジョセフは一歩前に出て、容赦ない口調で告げた
ジョセフ
連続少女失踪事件の容疑でここを捜査する。
アレク
ジョセフ
お前に頼まれて、あの日ゲートを開けたってな。
アレク
私にはさっぱりわかりませんよ
フェリックス
アレク
こんなことをするなんて、訴えるぞ!
フェリックス
話がしたいんだが
ジョセフ
俺たちはとにかく事務所の捜査をする。
アレクとフェリックスが部屋に残されると、空気が一変した。フェリックスはアレクに近づき、その目をじっと見つめた。アレクは何かを隠している、フェリックスの直感がそう告げていた。そして、この対峙が真実を引き出す鍵となることを、フェリックスは確信していた。
フェリックスは、目の前に座るアレクに向けて、 手紙を差し出した。
フェリックス
この手紙に見覚えはありますか?
アレクは眉をひそめながら、 その手紙をちらっと見ただけで、冷たく言い放った
アレク
フェリックス
どうでしょうか?
フェリックスはスマートフォンを取り出し、 金色に輝くキーホルダーの写真をアレクに見せた
アレク
フェリックス
失踪した少女たちに送られていたものです。
アレク
アレクの声は平坦で、 まるで事務的な応対のようだった。
フェリックス
あなたからいただきました。
アレク
フェリックス
この手紙の肉球紋が
一致していたとすれば…
アレク
フェリックス
肉球紋は一切残っていませんでした。
アレクは立ち上がり、声を荒げた。
アレク
仕事の邪魔だ、帰れ!
フェリックス
少女が現れたら人間界のゲートを開けるよう
言われていました。
アレク
私がそんなことを言うわけないだろう
そのとき、扉が開き、 ワトリーが息を切らせながら入ってきた。
ワトリー
ワトリー
なりすましてメールのやり取りをしていたのだ。
アレク
タレントに代わってファンへの
営業活動をしているだけですよ
アレク
フェリックス
キーホルダーを渡してしまったようです
フェリックス
誤って人間界へ送ってしまった。犯人は焦り、
他のターゲットを探しているはずなんです。
アレク
見せてもらおうか。
まさかメールのやり取りで
犯人扱いしてるわけではないだろうな。
アレクの事務所は、まるで台風が直撃したかのように 散乱した書類で荒れ果てていた。 ジョセフとワトリーは、証拠を求めて奮闘している。 机の上も、棚も、そして床も、彼らの懸命な捜索によって 一通り探し尽くされていた。フェリックスはその光景を静かに見つめながら、 アレクの反応を探っていた。
ワトリー
フェリックス
ワトリー
鍵がかっている場所は全部見たのだ
ジョセフ
トイレのタンクまで見たぞ。
アレク
今度は身体検査でもしますか?
ここで全裸になりましょうか!
フェリックスは考え込む。 アレクの挑発には乗らない。 一方、アレクは不機嫌そうに続けた
アレク
部屋が大っ嫌なんだ。
もう充分だろう
そして、内線電話を手に取り、 受付の猫に片付けを指示する
アレク
ワトリー
その矢先、受付の猫が部屋に入ってきた、 ごみの袋を持ち机に向かう。 その瞬間、フェリックスが声を上げる。
フェリックス
部屋には緊張が走り全員がフェリックスの視線の先に目を向けた。 彼の目は、机の一角に落ちた、一見何の変哲もない一枚の紙片に注がれていた。その紙片が、この謎を解く鍵である可能性が、 フェリックスの直感を刺激してたのだ。
フェリックスの目が鋭く光りながら、 受付の猫に近づいた 猫は不意を突かれたように、 シュレッダーの作業を一時停止した。
フェリックス
訳ではないんですよ。
フェリックスはそう言いながら、受付の猫が手にしていた シュレッダーを静かに手に取ると、中身を床に撒いた。 紙くずがバラバラと空中に舞い、その中から予期せぬものが現れる。
アレク
フェリックス
これは選ばれた少女に渡す
キーホルダーですね?
アレク
フェリックス
されたようですが、キーホルダーまでは
出来なかったようですね。
アレク
フェリックス
掃除させているようですね。
フェリックス
ゴミから片付けるように指示していた。
そのことを知っていて受付の方をよびましたね。
フェリックス
隠滅させようとしたのではないですか?
ジョセフ
直ぐに署に連行するぞ。
フェリックスはジョセフに手を 上げて制止をかける。
フェリックス
私が責任をもって警察署に送り届けますのでお願いします。
ジョセフは一瞬躊躇するが、 フェリックスの真剣な眼差しに心を動かされる。
ジョセフ
オレは先に帰っているからな
(ドーナツも途中だっだし)
ジョセフがその場を後にすると、 フェリックスはアレクに向き直る
フェリックス
賢明で立場もしっかりした方が、
なぜこのような事を起こすのでしょうか?
アレク
アレク
地位や名誉を超えた素晴らしい
展望が開けるのだ。
アレク
フェリックス
いいと言うのですか?
アレク
アレクは断固として言い放った。 アレクの目には、猫たちが美しく有名に なることが、どんな犠牲を 払っても達成すべき最高の幸せであるという 信念が燃えていた。
フェリックスはその冷酷さに心を痛めつつも、 アレクの目をじっと見つめ返した。フェリックスにとって 猫たちの安全が何よりも重要だった。 このままでは、猫たちはただの実験台に 利用されるだけの存在に過ぎない。
フェリックス
犠牲となることを望む者は、
一体どれほどいるのでしょうか?
アレク
君にはまだまだわからないことが多い。
世界は常に犠牲の上に築かれている
アレク
進歩などありはしない。
フェリックスは深くため息をついた。 アレクの言葉には一理あるかもしれないが、 フェリックスにはそのような進歩が許容できなかった。 フェリックスにとって、猫たち一匹一匹が尊い命。 そして、その命を守るためなら、 どんな闘いにも挑む覚悟があった つづく