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ろーぐ
ろーぐ
もし、神が要らっしゃるというのならば――お救いください。
このボクも、あの人も。
月夜の晩に現れた、あの美しい人を――。
ゼナス
助司祭のボクは、今日も司祭様と一緒に村の人々に祈りをあおぐ。
孤児だったボクを拾ってくれたのは、他ならぬこの教会と、修道院だった。
そのご恩は必ず返さなくてはならない。 なのに――ボクは教義に反するような性分を抱えていた。
10歳の頃、ボクの初恋の人は、男の人だったのだ。
それがバレ、女の子の様な見た目も相まって村でのボクの扱いはさんざんなものだった。
ボクの思いがバレたその日から、ボクは厳しい折檻を受ける事になった。 ボクの性格が治らない限り、神からの救いはあり得ないという。
ボクがなにをしたというのだろうか。
都会では、近頃"人狼(warewolf)"なる、人に擬態する化け物の出現が後をたたないという。
でも、司祭様や他の教会の皆がそうやってボクに厳しくなるのも無理はなかった。
疑わしきは罰せられる。 ボクとて例外じゃない。 ただ、それだけの事と思えば――きっと、その内ボクへの折檻も、少しは楽になってくれる。 そう信じることにしていた。
司祭
ゼナス
司祭
司祭様の笑顔。 それは、厳しさの中に確かな温もりを感じるもの。
ボクは、この笑顔が好きだった。
司祭様は、今年で68歳になる高齢だったが、それでも足腰はしっかりと地に着いていて、その乾いた唇からは常に穏やかな言葉が聞こえてくる。
他の僧侶達はボクを嫌ってか、折檻の為に色々な酷いことをする。 この間は、頭を松明で殴られた。
そんな折檻を、いつも止めては救ってくれるのが司祭様だった。 立場と年功序列を重んじる教会では、司祭様は絶対だった。
もっとも、それだけに――いなくなった時が、酷く恐ろしいのだけど。
司祭
ゼナス
司祭
ゼナス
司祭
司祭
修道院。 そこでもボクは苛められていた。 原因は明白だった。 見るからに弱そうに見えるボクは、暴力をふるい玩具にするのに丁度よかった。
できることなら、少しでもここに長居していたかった。
でも、そうすると大好きな司祭様が心配してしまう。 優しい司祭様を困らせる訳にはいかないので、ボクはおとなしく帰ることにした。
ゼナス
司祭
お互いにお辞儀し、ボクは重い扉を開ける。
扉を開けた先。 そこに広がっていたのは、星々の瞬き。
今日の村の空は教会にある、壮麗な飾りの全てを、真っ黒な空にばらまいた様な輝きをしていた。
ゼナス
あまりのその光景の美しさにボクは、届くわけのない、果てない星達を追いかけていった。 孤児院に戻ることも忘れて。
走り回り、手を伸ばした時。
誰かの手が、重なった。
ウェルフ
ゼナス
活発な印象の、ボクと同じくらいの少年がたっていたのだ。 回りを見ると、どうやらボクは遠出してしまっており、村の少し外れた湖のほとりに来ているらしかった。
どうやって帰ろうか、そんな事を考えて少年から背を向けた時。
ウェルフ
ゼナス
本音を言えば、逃げ出したかった。 このまま、夜の闇に溶けて、綺麗な星空に包まれて――
いっそ、人狼にでも喰われてしまいたかった。
ウェルフ
ゼナス
ウェルフ
ゼナス
ウェルフ
彼がいたずらな笑顔を浮かべて、ボクはそれに怪しさを覚えてそっと後ろに下がる。
とって喰うわけじゃないんだ とでも言わんばかりに人差し指を曲げたり伸ばしたりしている様に、ボクは少しずつ近づいていった。
ボクの体が、こけかけて彼にもたれかかったその一瞬。
ゼナス
視界が一瞬、ぼやける。
間近に、彼の温もりを感じながら、離れていくと、ウェルフの手には、ボクの丸メガネが握られていた。
ウェルフ
ゼナス
綺麗な顔をしている。 そう言われることは内心では嬉しかった。 が 決まってそれは、褒め言葉としての期待を裏切られ、続く言葉はからかいの言葉のみ。
ボクの好きな言葉であり、嫌いな評価だった。
そして彼はボクの顎を撫で、自分の方へ引き近づけていった。
ウェルフ
ゼナス
ウェルフ
またしても、笑みをたたえた彼はボクの顔をじっと見つめると――答えた。
ウェルフ
ゼナス
衝撃的な一言だった。 ただでさえ、同性愛は禁じられているのに――キスなんて、もっての他なのに。
ウェルフ
正直、嫌じゃなかった。
理性では、否定せざるを得ない。 けれど、この男の持つ、ボクにはない活気、生命力。 そして、どこか可愛らしいと思う顔付きにボクは正直――拒絶なんてできなかった。
ウェルフ
ゼナス
ウェルフ
肉を貪る、獣の様な接吻。
ボクの髪を、まるで動物のように優しく撫でつつ、自分の顔に押し付けるように――舌を絡め、口許に噛みついてくる。
羞恥と酸欠に、ボクが倒れそうになると、急にウェルフはキスを止め、眼鏡を手渡す。
ウェルフ
ゼナス
ウェルフ
はじめてのキス。 それは、罪深い禁断の果実の味だった。 もっとも、向こうからすれば、ボクはさぞもぎ取りやすい果実だったことだろう。
ゼナス
ウェルフ
ゼナス
ウェルフ
この日からだった。 ボクの日々が、輝きだし――。
破滅していったのは。