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太宰たちは織田の車に乗り込む。

ゆらゆらと揺れる景色を見ながら、

両親との思い出を思い出した。

どれもが平等に愛しくて、大切で。

それなのにその愛しき思い出に鍵をかけ、

心の中とはいえ両親を罵倒したこと、殺してしまったことに

強い罪悪感と悲しさを覚え、

また、涙が溢れる。

敦はそんな太宰の手を何も言わず、

握り続けていてくれた。

そして、敦は小学校を卒業した。

織田と太宰で行ったのだが、

あの日から太宰の涙腺はガバガバで

入場のタイミングでボロボロと涙を流し、

敦のクラスメイトと、中原にくすくすと笑われてしまった。

そんなこぼれ話はよしとして、

最後の学級でのお別れ会で

担任の先生がふと、

“君たちの胸についているコサージュを

この一年間、君たちが一番お世話になった人に、渡しましょう”

と言い出した。

先生の一言で、真っ先に先生に渡しにいく生徒や、

誰に渡そうか迷う生徒が大半だった。

だが、敦だけは真っ先に太宰と織田の方へやってきた。

中島敦

治お兄ちゃん。受け取って

そう言って差し出された桜のコサージュを見て、

太宰はまた泣き出した。

中島敦

もう、泣きすぎたよ。お兄ちゃん

織田作之助

太宰、ほれ、ハンカチだ

太宰治

ありがとう……

敦の涙を少しにじませた鮮やかな笑顔が

太宰の胸にするりと入って

また、恋心が膨れ上がる。

いや、恋心なんてものじゃない。

愛情が太宰の心を満たすほど膨れ上がる。

三人はそのまま太宰宅へ行き、

せっかくだから宴でも開こうと出前を頼んだ。

敦はぼくが作るとうるさかったのだが、

敦のためのパーティに敦が動いちゃいけないと

織田にたしなめられ、しぶしぶ了承していた。

それでも、せかせかと飲み物を用意したりする敦は本当に可愛らしくて仕方がなかった。

ピーンポーン

チャイムが鳴った。

織田作之助

俺が出よう

そう言って、織田は玄関の方へ向かう。

太宰は敦と二人きりになった。

妙に心臓がドキドキする。

顔が沸騰したみたいに熱い。

ああ、好きだ。愛してる。

ずっと、ずっと。

敦のそばにいたい。そして笑顔で居続けてほしい。

そんな思いがぐるぐる頭を飽和する。

中島敦

……お、治お兄ちゃん……!

太宰治

え、あ、なに?

気がついたら、敦の頬は赤く染まっていた。

中島敦

そ、その……心の声、うる、うるさいです……

中島敦

それに、恥ずかしい……

ドキッと心臓が跳ねる。

敦が心の声を聞くことができることをすっかり忘れていた。

恥ずかしくなって、肩を丸めるが、

これはいいチャンスではないかと

真っ直ぐ敦をとらえる。

太宰治

あ、敦くん!

中島敦

は、はい!

心臓の音がだんだんとうるさくなる。

太宰治

僕、敦くんのことが、好き

太宰治

気持ち悪い、かもしれないけど

太宰治

僕と、付き合ってくれませんか……?

声が異様なほど震える。

かっこつかなかったかもしれない。

だけど、今目の前にいる愛しい少年に、この思いを伝えずにはいられなかった。

中島敦

……ぼくで、いいんですか……?

太宰治

も、もちろん! あ、敦くんじゃなきゃ、嫌だ!

予想外の返答に、太宰の声は余計に震える。

中島敦

ぼく、まだ子供ですよ……

中島敦

治お兄ちゃんと、釣り合ってない……

太宰治

いや、いいんだ! 君じゃなきゃ、ダメなんだから!

太宰治

逆に、僕の方こそ、君みたいなすてきなひと、釣り合わないよ……

顔が熱くて熱くて仕方がない。

ぎゅっと両手を握られた。

中島敦

それじゃあ、お願い、します……

少し潤んだ目で敦は、太宰の告白に同意した。

このまま死んでしまってもいいとさえ思った。

織田作之助

……よかったな、太宰

そんな織田の声が扉を隔てて聞こえた気がした。

そして、七年後。

太宰敦

ただいま帰りました〜

少し大人びた敦の声が玄関から聞こえる。

太宰敦

ちょっと治さーん?

太宰敦

廊下の掃除やるって言ってたのに、またやってないでしょ!

ガチャリとリビングに、むっと顔を膨らませた敦がやってくる。

太宰治

んふふ、ごめんごめん

太宰治

仕事が忙しくて

太宰敦

まったくもう! その言い訳、聞き飽きた!

太宰敦

どうせやらないくせに!

太宰治

そんな怒らないでくれたまえよ

太宰治

後でお茶漬け作るから

太宰敦

茶漬け!

太宰はのそりとソファーから立ち上がり、

帰ってきた敦をぎゅっと抱きしめた。

太宰敦

ちょっと、苦しいです

太宰敦

……

太宰敦

もしかして、泣いてるんですか?

太宰はドキリとする。

太宰敦

もーう、泣き虫治さんめー

太宰敦

ご両親のこと思い出したからって、毎回毎回泣かれたら

太宰敦

慰める僕が大変なんですよ?

太宰治

……ごめんねえ。私も、もう少し強く生きていたいんだけど……

太宰敦

……まあ、でも、いいですよ

敦が太宰の、いや治の頬にキスを落とす。

太宰敦

苦しいことは半分こ、しなきゃですもんね

太宰敦

治さんの悲しいこと苦しいことは、この伴侶である僕も背負います!

太宰敦

その代わり、僕の苦しみにも寄り添ってくださいね

心がじんと温かくなる。

太宰治

もちろん。むしろ、背負わせてくれ

太宰治

私も君の伴侶として、支えていきたいんだ

太宰治

喜びもすべて君と共有するよ

太宰敦

……本当、口だけは達者なんですから……

太宰治

口だけじゃないよ

太宰治

ちゃんと私は思っているんだよ?

太宰敦

そのくらい、わかりますよ。

太宰敦

心の声を聞かなくったって、

太宰敦

あなたのことは充分理解しているつもりですから

屈託のない笑顔が、また治の目に涙をにじませる。

太宰治

……君は、本当に強い子だね

ハッピーエンド

互いに必要

君はまだ子供。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

16

ユーザー

うわ、もう、うん、好き 最高すぎる、、

ユーザー

ギャアァアアアアア泣 よかったよぉおおおお泣 太宰さんよかったねぇえええ泣

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