テラーノベル
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あの日、自分が彼女に出会った日から数日が経った。 あの日校門で感じた、何かに暴かれた様に剥き出しになった激情を忘れてはいない。その後起こり始めた身体の変化にだって、少し困惑しつつもなんとか慣れてきたと思っている。
それが良いことなのかは分からない。いつも通り過ごせるように、身体の変化に無理矢理慣れたけれど。あの日の激情は、それについてくるように訪れた身体の不調は偶然なのか。 あの日自分の本能が訴えた恐怖は、本当に人間としての本能と言えるのか。
分からない。偶然か、それとも必然か。 _…何はともあれ、この邂逅だけは偶然であって欲しいと思う。
何かに怯え続ける学校生活など御免なのだ。
天華 憂
天華 憂
彼女は階段を上ってくる俺の気配に気付いていなかったようで、屋上の扉を開いた音で俺の存在を把握したようだった。顔を見ていなかったからか最初こそ他人口調だったが、俺の姿をその瞳に映した瞬間、目を見開いた。
どうやら彼女自身もこの再会は不本意だったようだ。
天華 憂
雨零 涼
天華 憂
天華 憂
天華 憂
雨零 涼
一度あの感覚を経験してしまえば警戒するのも同然。強張る身体、握りしめる拳。 一体何を聞かれるのだろう。そう身構えていたのに、聞かれたのはただの名前。
…言ってしまえば、拍子抜けした。
天華 憂
雨零 涼
天華 憂
雨零 涼
まるで他人との会話を経験してこなかったかのようなぎこちない会話。 思春期の少年少女とは思えない程に不器用な会話だが、何故だか心は凪いでいる。
天華 憂
雨零 涼
天華 憂
彼女との会話には少しの抵抗感はあるものの、前の時よりかは随分マシだった。 本人も表情に硬さはあるがそこまで圧力を感じるような性格ではなく、その事実がまたあの校門での出来事をより引き立たせる。
それでも合間に覗く人間らしさを捉えてしまえば、彼女もまた同級生なのだと実感する。 だからか、自分の口元は少し緩んでいた。
雨零 涼
天華 憂
雨零 涼
天華 憂
天華 憂
天華 憂
昨日の事、彼女が自分に聞きたかったことは自分の予想通りだった。 …内容は全くもって異なったが。
雨零 涼
雨零 涼
天華 憂
彼女の言いたかった事とは、随分と簡単なことだった。
あの日勝手に自分で彼女に恐怖感を抱き逃げ出した自分。しかし、彼女の視点から見てしまえば映るのは自分から呼びかけた会話の途中に気分を損ね逃げ出した少年。
転校初日で周りに溶け込めていないからこそ、これから同じ場所で過ごす同級生に対し無礼を働いたと勘違いしてしまえば焦るのは当然だ。だからこそ偶然の再会に驚き、謝罪の機会を狙っていたのだろう。
天華 憂
天華 憂
天華 憂
雨零 涼
『天華』その意味を奏でる声を聞くと、未だに少し恐怖を覚える。 それが彼女の声だと、特に。
本当はもっと言葉を返したかった。だけど口から出たのは吐息。 それ以上彼女の言葉を追うことを、恐怖と威圧感が心を焦がす事で阻止された。
それでもその時見た彼女の物悲しい笑顔が、まるであの日の彼女とは別人のようで。 一度出会っているはずなのに、心に残っていた彼女の印象とはかけ離れた感情を抱いた。 あの日とは違う、純粋な少女の笑顔。
その時、その瞬間だけ、翼も光輪も無い彼女の幻覚を見た。
私は今、3年生の校舎の廊下に沢山の書類を抱えて歩いている。
校舎の何処に行っても、聞こえてくるのは騒音。 戯ける男子生徒、それを指導する先生。その様子を見て、陰口を叩く女子生徒。 足音、嘲笑。私はどうにも、学校という場所を好きになれない。
そもそも人が沢山いる場所が嫌いだ。獣人の聴覚ではうるさくて仕方がない。 それに、この聴覚では聞きたくもない陰口も恨み言も何もかもが全部筒抜けになる。 だから私は学校が好きになれない。何年経っても、生まれ変わっても変わらない。
元々そこまで誰かを根に持つ様なタイプでは無かったが、今だけは担任が恨めしい。 だって、こんな膨大な量の書類を3年の校舎まで運べなんて、私にとっては嫌がらせに過ぎないのだから。よりにもよって同学年ではなく、先輩方の校舎というのもまた。
そんな私にとって残された唯一の救いは、3年には私の事を詳しく知っている人が少ない事。あとは_…
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
頼れる先輩がたまたま通りかかってくれた事だ。 彼は私の持つ書類の量より少し多いぐらいの書類の山を抱えながら隣を歩いていた。
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
顰めっ面でそうぼやく先輩に対して申し訳無く思い、もう何度目か分からない謝罪を溢す。そんな私に『謝んなよ。』と返して、彼は吐息を吐き出した。
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
本当に運が良かった。山積みのプリントを見た瞬間に卒倒しそうだったが、別校舎に運べと言われた時は血の気が引いた。このまま結翔先輩が通りかかってくれなかったらどうなっていた事か分からない…。今だけは3年校舎で良かったと思う。いや良くないけど。
とりあえずやっとの事で山積みだったプリントを捌き切り、残すはこれだけ。 目的の教室は目の前、長らく重労働をさせられていた両腕にも休みが来るのだ。疲労を誤魔化して、息を整える。地獄からの出口を目の前に、私は扉をコンコンとノックした。
白蜜 恋鞠
やっとの事で書類の重労働から解放され、今は元来た道を戻っている所。 結翔先輩は休み時間が終わるまで暇をしているそうなので、私のお見送りに来てくれた。
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
あまりにも大袈裟すぎる言い方をした自覚はあるが、それほど解放感がすごいのだ。 何度も何度も両手をパタパタと振り回す私の横で、ツッコんでいた先輩も両腕を伸ばしていた。すると結翔先輩の肩から異様な程バキバキと音が鳴るので、2人して顔を見合わせた。
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
未だ音が鳴る肩を回しながら、先輩は不機嫌そうな顔をする。おばあちゃん扱いが地雷だったのだろうか…。でも、三人の妹弟の世話を毎日焼いているのだから、あながち間違ってないと思う。家事全般は一応できる所もさらにおばあちゃんっぽさが…
これ以上言及すると結翔先輩の説教が飛んでくるだろうから、このあたりでやめにしよう。 とりあえず肩こりをどうにかしてあげなければ。
白蜜 恋鞠
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
妹の名前を出した瞬間、元々不良と間違えられる不機嫌顔がさらに顰められて凶悪になる。 名前だけでそれなのだから、兄妹仲の悪さと妹への信頼の無さが伺える。
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
兄にそれほどまで言わせるのは最早才能だろう。あの顔をしてそこまで金遣いが荒いのか。 彼の口から語られる彼女は、どうにも私の知っている可愛らしい友人とは異なっていた。
それじゃあ、泉樹先輩はどうだろう。彼なら少々力が強いだろうが、凝った肩には良いものだ。幼馴染なら彼も安心して任せられるだろう。そう思い提案しようと口開いた時だった。
見慣れた人物が傍を通り過ぎた。
白蜜 恋鞠
小学1年生からの幼馴染の姿だった。同じ高校に通っていて、同じ校舎にまで来ているのだから、彼の姿を見かける事になんら違和感は無い…はずだ。
それでも妙に何かが心に引っ掛かった様な気がして、彼の背中から目が離せない。
小鳥遊 結翔
急に押し黙った私を見て、困惑を乗せた結翔先輩の声が耳に響く。 この距離、獣人の聴覚では声もしっかりと聞こえている。それでも目が離せなくて。 彼の背中に、惹かれる感覚とはまた違う何かを感じてしまう。
私は彼の背中が好きだった。
昔、まだ私がどんな環境で育っているのかまだ自身で理解できてなかった頃。 どうして周りの子に避けられるのか分からなくて、ひとりぼっちで泣いていた私の前に庇うように立ってくれたあの日。あの日の背中が、私は忘れられなくて。
でも、今見る彼の背中は違う。 暗くて、縮こまっていて、弱々しくて。それが酷く痛々しく思えてしまって。
何も知らないくせに、無駄な正義感が私に湧き上がる。
彼が歩いていった方に思わず手を伸ばしてしまいそうになった時だった。
『お前なんかに心配されても虚しくなるだけだ。』
脳裏に声が過って、私の動きを止めた。
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
白蜜 恋鞠
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
彼の顔には『よく分かっていません』とはっきりと書かれているが、それにすら反応せずに弾けるように廊下を駆け出す。急に黙り込んだ後輩が逃げる様に走って行く様は彼にとって本当に困惑ものだろう。
今度また改めて謝罪しなければ。…今は、それすらできそうにないのだから。
そんな彼らの姿を遠目から眺めていた人物が一人。
白蜜 恋鞠
白蜜 恋鞠
いつもいつも足手まといにしかなれないくせに、無駄に動いて。失敗して。
今日もまた、先輩に迷惑かけた。
階段を駆け上がる。どんなに足が縺れて転びそうになっても止まらない様に、足を動かす。 じいんと熱くなっていく涙袋から何もこぼさぬように、誰にも話しかけられないように。
人を救うということは難しい。それは何度も身を持って知っている。
ずっと辛い環境で生きてきた人間を新しい環境に連れ出すには果てしない勇気と、 相手からの信用が必要なのだ。
だからこそ、言葉で人を慰めるにも相当の勇気がいる。 言葉は使い方が難しいものだから、簡単に人を傷つけて、簡単に信頼を崩してしまう。
それも、ちゃんと知っていた。覚悟だってできていたはずだった。
でもさっき彼に手を伸ばした時、私は何を思った?
彼はあんな事を言うような人ではない。 知ってる、知ってた、分かる、分かってる、理解、理解してる、理解をしています。 わたしがいちばん、わかっているはずでしょ。
白蜜 恋鞠
人間を救うということは、果てしない勇気と相手からの信頼が必要。 知ってる。でも、わたしは
結局、"救いたい"と願った相手すら信頼できていないのだ。
階段に響くのは上下の階から聞こえる生徒たちの声。 それすらも私を嘲っているように感じて、耳を塞いだ。
ああ、結局自分が可愛いんだね。
屋上での出来事を経験してから、数時間が経った昼下がり。 昼休みの時間帯では沢山の生徒が図書室に溢れかえっていた。
やっぱりこんな時間に来るんじゃなかった。と踵を返そうとしたが、丁度図書室の手前に居た、黄金の瞳とバッチリ目が会ってしまった。随分と早い再会だ。
彼女もまたこちらに気づいたようで、小さく手をこちらに来いとジェスチャーした。 未だ苦手意識を抱いてはいるが、気づかれた以上逃げるわけにも行かず、それに従う。
天華 憂
天華 憂
雨零 涼
そう言ってくすくすと小さく笑った憂を見ていると、また心に少しの違和感を抱いた。
自分でもよく分からない己の胸の内を無視する様に、彼女の持つ本へと視線を落とす。 これ以外に話す話題もないので、本の内容について聞くことにした。
雨零 涼
天華 憂
雨零 涼
自分の思いつく限りのレパートリーの中でも、意外な選択が返ってきたことに対して目を丸くする。そのまま幼子の様に彼女の言葉を繰り返してしまった。
てっきり、物語でも読んでいるのかと思っていたのだが…。 …やはり自分の家の歴史については何か思うところがあるのだろうか。それとも…
雨零 涼
天華 憂
思いついたことをそのまま言葉にすると彼女は豆鉄砲を食らったように固まってから、 ぷっ、と吹き出した。
天華 憂
雨零 涼
どうやら自分の選んだ予想は外れてしまったらしい。それに対してあんまりにも彼女が笑い出して止まらないものだから、思わず眉を顰めた。
そんな俺の表情に気付いて、彼女は咳払いを一つ。『すみません』と軽く謝られたが、笑いの余韻が全くもって抜けていないのか、口角は未だ上がったままだった。
天華 憂
天華 憂
雨零 涼
雨零 涼
我ながら変な事を聞いたと思う。己の血筋に差し込む栄光を、その歴史を、好いているかなんて。この世界で最も広く知られている歴史の好き嫌い問うなんて。
こんな問い、常識の好き嫌いを問うようなもの。答えだって予想できる。
まだ数回しか会っていない転校生に、変なことを聞いた。焦りから目が泳いでいた俺だったが、彼女は動揺も何もせず、口をゆっくりと開いて答えた。
天華 憂
雨零 涼
冷淡な声色が俺の鼓膜を揺らす。それが耳に届くと、胸を満たすのは違和感、違和感のみ。 自分が知っている夕暮れに濡れた彼女と面影がズレて、ブレて、揺れて、揺れ続けて。
天華 憂
天華 憂
天華 憂
雨零 涼
自分を卑下する彼女を慰めるでもなく、口から出たのは『そうか』の一言。 それに彼女は何も返さずにただただ口を噤んだ。
お互いの表情は読めない。ただ気まずい時間が流れていく中、彼女の薄く開いた唇から今度はこちらへの問いが紡がれた。
天華 憂
『悪魔とはなにか。』それはあまりに抽象的で、どんな答えを求められているのかが分かりにくい問い。どう模索すればよいものか、彼女はどんな答えを求めているのか。 悩んだ末に出した結論は、あまりにも簡単なものだった。
雨零 涼
天華 憂
雨零 涼
天華 憂
どうやら、この回答はお気に召さないらしい。それに対して返す他の案の持ち合わせもないもので、少しでも興味が惹ければと、よく頭の片隅に過る考えを口から零した。
雨零 涼
天華 憂
雨零 涼
『悪意と自己愛しか持たぬ化け物が悪魔とされるのではなく、 生き物が心根に持つ悪意と自己愛の全てを悪魔と指すのならば。』
雨零 涼
天華 憂
雨零 涼
天華 憂
歴史上で恐れられている悪魔は滅ぼされた。今目の前にいる少女の家系によって。 だから自分の考える説なんてものは子供騙し…陰謀論に近しいものなのだ。
悪魔自身を己の目で見たことのない人間が言う事なんて、大体そうやって片付けられる。
しかし、一般的にお嬢様とされる彼女はそういったオカルトものなど、庶民が考えるようなものに触れてこなかったのだろうか。思ったよりも熱心に話を聞く彼女を見て、口元は緩んだが、心に残るのは何かがズレているような感覚。
彼女と居ると、不思議な感覚に陥る。
天華 憂
雨零 涼
天華 憂
そんな会話をしていると、授業開始前の予鈴が鳴り始めた。 どうやら意外にも話し込んでしまっていたみたいで、図書室に居る生徒も減っていたようだ。
天華 憂
雨零 涼
天華 憂
雨零 涼
それっきりを言い残した彼女は慌てたように図書室から飛び出して行った。 彼女の足音と妙な静けさが辺りを満たして、やるせない気持ちが胸を満たした。
彼女に抱く、妙な感覚。初めて出会った時の恐怖や得体の知れなさとは違う感情。 己の中にある彼女の面影と、それに対する本人。何かが重ならない気がしてならない。 まるで別人を見ている気分だ。外見も中身も同じはずなのに、どうして?
あの日の『天華 憂』と今の『天華 憂』が違うはず無い。外見も中身も同じ別人などいない。ドッペルゲンガーなどを信じるような口ではないのだ。
そもそも、何故『違う』という感情が湧いた? 彼女出会って、まだ一週間にも満たない。
違うと思うのは何故?俺はあの日の彼女に何を見て、何を感じた。 彼女を通して誰を見た。ズレて、ブレて、揺れた面影の重ならぬ隙間には誰がいる。
俺は、彼女に誰の記憶の断片を見ている?
同時刻、中庭にて。
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
中庭に丁度友人の姿を見かけ、走って駆け寄ったのは良いものの…。 特にこれと言った会話もなく、数分間ずっと彼女の顰めっ面を眺めている。どれだけ宥めようが無視。暇を持て余して柔らかい頬を突けば片手で軽くあしらわれた。
こちらが何を言おうとしても、まずそもそもの話相手が悩んでいる内容を知らなければ手の施しようもないのだ。そんなこんなで彼女の仏頂面にも見慣れ始めた。
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
反応が返ってきた点に関しては進展したと言ってもいいのだが、その後はまた元通り。 容姿の可愛さには人一倍自信のある彼女が己の可愛さに対してふざけた物言いをすれば必ず抗議の言葉か、それか強めの拳がどこかしらに飛んでくるはずなのだが、それが無い。
彼女の意識がこんなにも悩み事に向けられているとは、これはよっぽどの事なのだろう。
しかし、自分もそこまで我慢強い性格をしていないので。一人で悶々と悩む彼女に痺れを切らして、いっそ強引に悩みの種を暴いてしまおうかと口を開く。
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
喜唱 奏音
喜唱 奏音
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
我ながら不器用過ぎる聞き方をした。自認はしてます、だから許して。 同級生のお悩み相談なんてものに乗ったことがないのだ。今まで、ずっと周りにいた奴らはみ〜んなヘラヘラしてて、悩みなんて無いですよ顔をしていたから。
そんな上っ面だけで、楽しければそれでいい様な関係しか持ったことなかったから。 ちゃんと大切にしたい友人ができてからは、どうも調子が狂ってしまう。多分5人の誰が相手でも同じようになる可能性しかないが、女の子相手だとさらに悪化する。
流石に下手が過ぎたかな…。
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
てっきり、もうちょっとこう、複雑なお悩みがお出しされるかと思っていたのだが…。 その覚悟は必要なかったらしい。
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
衝撃で思わず漏れた言葉に抗議の言葉が返ってくる。あ、いつもの麗菜ちゃんだ。 わなわなと震える彼女は大きく息を吸い、口を開いた。
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
怒涛のマシンガントークに翻弄されていたが、流石に一度ブレーキを掛けなければ小一時間はずっとこのままな気がしたので「待った!」を入れる。
一度溜め込んだ感情で胸がいっぱいになると、その分を吐き出す様に高速で一方的に語り出すのは彼女の悪い癖だ。ほとんどが泉樹に対して向けられるもので、自分には一生縁のない所だと考えていたが、まさかこんな所で食らうとは。
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
彼女は叫び疲れたのか肩で数回息をしてから、そのままその場でしゃがみ込んでしまった。直前まで言い争っていた身だが、流石に心配になって声をかける。
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
膝に顔を埋めて、今にも泣き出しそうなぐらい震えた声で彼女は呟いた。
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
彼女の口から溢れるのは兄への親愛と劣等感。いつも自分じゃ手の届かない人を簡単に助けてしまう兄を見て、混ざり合ってしまった心からの愛情と劣等感と自己嫌悪。
だからこそ、大切な友人が兄の前でだけ暗い顔をしていた事を知ってしまえば悩むのは必然なのかもしれない。友人が思い詰めていることも、暗い顔をしているところすら知らなかった自分の事を責めるのも、兄に対して劣等感を抱くのも当然だ。
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
結局のところ、恋鞠ちゃんがなんで暗い顔をしていたのかも、なんで結翔くんといたのか分からないのだ。たまたま成り行きで共にいたのか、それともまた別の何かなのか。それでも兄が何かしたのか疑わない所を見るに、やっぱり信頼しているのだろう。
でもそんな妄想をしてしまうぐらいには、彼女も悩んでいるのだ。
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
思わぬ彼女の心根を聞いた。こうやって彼女の話を詳しく聞いたことは今までなかった。 麗菜以外もそうだ。初めて大切にしたいと思った友人だと、相棒だと思った相手の事を、オレはまだ全然知れてないのかもしれない。
いや、そう思った相手だからこそ怯えて聞けなかったのかも。 でもそんな知らないことばっかりのオレでも、これだけは言える。
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
今まで見られないように膝に埋めていた顔がばっ、と上がりこちらを向く。 顔はすごく真っ赤で、唇は震えていて今にも叫びだしそうだったが、そんなオレ達に近づく人影が一つ、この中庭に現れた。
真宵 泉樹
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
驚いて2人して立ち上がっては声のする方に振り返る。 泉樹はこちらに駆けて来ていたが、立ち上がった麗菜の顔を見て眉を顰めた。
真宵 泉樹
小鳥遊 麗菜
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
真宵 泉樹
さっきの言葉をそのまま泉樹くんに伝えると、麗菜ちゃんは元々真っ赤だった頬を更に赤くして焦っていた。そんな麗菜ちゃんの姿を見たのか知らないが興味深そうに泉樹くんが頷くものだから、麗菜ちゃんはそのままキャパオーバー。
彼女はそのまま口から声にならない声を漏らしていたが、やがて俯き始めた。 流石にやり過ぎたか…?と思っていたのも束の間、彼女の綺麗な足が上へと持ち上がる。蹴りのような動きを見せているが、一体何を…と思った瞬間思考が止まる。
彼女の蹴るような動き、それが表すものは………すなわち金的だ!!
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
間一髪で俺の股を狙った蹴りを避ける。危なかった。男の尊厳を失うところだった。 そんな恐ろしさに打ち震えているオレを横目に、不機嫌そうに鼻を鳴らした彼女はそのままその場から立ち去っていった。ついこの前兄の方には鳩尾を狙われていたのだが、兄妹揃ってなかなかに暴力的すぎないか。
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
真宵 泉樹
そういって泉樹に泣きついても、彼もまたよくわかっていないような顔をするのだ。 クソ!これだからお坊ちゃまは!!
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
ギギ、とぎこちなく首を上に上げて時計の針先を見る。 その針が指すのは、授業開始時間の三分前の時間。つまり、麗菜ちゃんの悩み事に集中し過ぎたばかりに予鈴を聞き逃してしまったようだ。
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
真宵 泉樹
そう言い残して移動教室先に戻り出した泉樹くんになんとか縋り付く。
授業開始まであと三分。奏音が情けない悲鳴を上げるまであと数秒。
コメント
4件
更新待ってました! 今回も地の文が多くて読み応えがある……!だけどスラスラ読めちゃう、これはmugiさんの物語が面白いからですね😊 涼くんが憂ちゃんに感じる違和感は何なんでしょう…… 「俺は、彼女に誰の記憶の断片を見ている?」とありましたが…私は涼くんに前世の記憶がある説を推しておきます
更新遅れてすみません!!!!! スランプは抜け始めたので頑張って投稿続けます…🙏