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魔女も狩りをする

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魔女も狩りをする

1 - 魔女も狩りをする

♥

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2024年09月25日

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♪いつか夢見た童話の世界

♪それも今日でおしまい

♪そして新しく生まれるめでたし

♪のらりくらり刺していく

♪甘い幸せ奪っていく

♪たとえ私の心臓が

♪クリーム塗れの苺でも

♪誰にも食べさせてあげないの

♪百年経っても溶かされないの

(ピンクのどろどろした背景と)

(布やビーズで作られた絵)

(パッチワークのドレスを着て)

(気持ち程度の小さなティアラを被った女の子が)

(フォークとナイフを持ち)

(ケーキをザクザク刺し続けている)

夢香

何このボカロ、めちゃくちゃ良い……

夢香

こんな良い曲初めて聴いた……

夢香

あれ、でもあんまり再生されてない

夢香

天才すぎるが故に大衆的ではないのかな

夢香

コメント欄見てみよう

『なかなか尖った曲ですね』

『完全に病んでるわ』

『芸術の教養を感じる』

『人類にはまだ早すぎたようだ』

夢香

あれ、思ってたのと違うな

夢香

確かに天才ではあるけど

夢香

実家のような安心感っていうか

夢香

優しく寄り添ってくれてる感じがあるんだけど……

夢香

よし、そうコメントしてみよう

夢香

主さんが喜んでくれるといいな

夢香

あ、返信来た

『ありがとうございます』

『でもなぜそう思われたのですか』

夢香

なぜ?うーん……

夢香

感覚的なものだからはっきりとは……

『もしかしてあなたも』

『人を殺したことがあるんですか』

夢香

え?

夢香

あ、すぐ削除されちゃった

夢香

あれから何も来ないな

夢香

何だったんだろう

夢香

気になりすぎるな

夢香

Tmitterもやってるんだ

夢香

見に行ってみよう

『鬲泌・ウ』

夢香

何て読むんだろうこの名前

夢香

わざと文字化けさせてるのか

夢香

プロフィール欄はyatubeのリンクしか載せてないし

夢香

呟きも曲のリンクを貼り付けた程度

夢香

素が一切分からないな

夢香

まぁ呟いてたとて

夢香

それが素とは限らないんだけど

夢香

DMは開放してるんだ

夢香

ちょっとDMしてみようかな

yume

突然失礼します

yume

先程yatubeにこのようにコメントした者です

(スクショを貼る)

yume

質問を返すようで恐縮なのですが

yume

この質問はどういった意図なのでしょうか?

鬲泌・ウ

はっきりとは答えられません

鬲泌・ウ

ただ直感的にそう思っただけで

鬲泌・ウ

すみません

yume

いえいえ、大丈夫ですよ

yume

ただ、あなた“も”とあったので

yume

あなた“は”あるのかなって

yume

人を殺したこと

鬲泌・ウ

はい、ありますよ

yume

そうなんですね

鬲泌・ウ

だからあの曲も作ることができました

鬲泌・ウ

『のらりくらり刺していく』なんて歌詞

鬲泌・ウ

実際刺したことがなければ思いつかなかったと思います

鬲泌・ウ

いや、普通の人なら想像で思いつくんでしょうが

鬲泌・ウ

私は想像力に欠けているものですから

鬲泌・ウ

あなたもすごいですね

鬲泌・ウ

あんな殺人を美化してる

鬲泌・ウ

残酷な絵面に安心感を覚えるなんて

鬲泌・ウ

もしかして皆、案外そうなんですか?

yume

どうなんでしょう

yume

少なくとも私は

yume

あのコメント欄で浮いているような気がしますが

鬲泌・ウ

そうですね、私も

鬲泌・ウ

あのようなコメントを貰うのは初めてで

鬲泌・ウ

会ってもらえませんか?

鬲泌・ウ

話したいことがあります

鬲泌・ウ

あなたになら話せそうな気がします

鬲泌・ウ

場所はあなたが指定して下さい

鬲泌・ウ

気が向いたらで構いません

夢香

えー……

夢香

詐欺とか宗教だったらどうしよう

夢香

でもすごく会ってみたいし

夢香

いつも行ってる場所にすれば安心か

yume

どちらにお住まいですか?

鬲泌・ウ

東京です

yume

良かった、では

yume

夢庭美術館でいかがでしょう

鬲泌・ウ

奇遇ですね

鬲泌・ウ

私、その近くに住んでいます

夢香

私はよくここに来るんですけど

夢香

あなたもお好きなんですか?美術

 

そこまで好きではないですけど

 

折角近くに住んでるので

 

何回か来たことはありますね

 

詳しいことはよく分かりませんが

 

私が気に入っているのはこの絵です

(女の子がケーキに埋もれている絵を指す)

 

なんか良いなって思って

 

この絵だけしばらく見てしまうんです

夢香

あ、私もこの絵好きです

 

つくづく気が合いますね

夢香

ほんとですね笑

夢香

もしかしてあの曲って

夢香

この絵をモチーフにされてたりします?

 

はい、そのつもりはなかったんですが

 

作っている間にこの絵を目にしたら

 

自然と似てしまって

夢香

あっでも完全に似てるってわけではないですよ!

夢香

雰囲気が近いなってだけで

 

そう言ってもらえるとありがたいんですが

 

そもそも創作とかよく分からないんですよね

 

曲を作り始めたのも最近ですし

夢香

まだ1曲しか上げてないですもんね

夢香

それであのレベルって凄い……

 

いえ、嘘をつきました

 

正確にはやっと形にしたのが最近で

 

メロディはそれまでずっと脳内にあったんです

 

ある時を境にあの曲が

 

勝手に脳内に流れ出したんです

夢香

え〜なんかそれも天才っぽいですね!

 

いえ、それも自分の力ではなく

 

あくまでも借り物であって……

 

あ、そこの丸い椅子に座ってもらっていいですか

夢香

はい

 

今からありきたりな話をしたいと思います

 

私は両親に虐待されていました

夢香

……

 

ほら、ありきたりでしょう

 

期待して損したでしょう

夢香

そんなことないです

夢香

続けて下さい

 

それじゃあお言葉に甘えて

 

ずっと誰かに話したかったこと

 

全部ぶちまけてみます

両親にとって私は馬鹿でした

念願の一人息子だったのに

“娘”になりたがるような人間でしたから

父には教育と称して暴力を振るわれ

母は至って無関心

ニュースでよく見るような光景の毎日でした

死ななかったのが奇跡だと思います

でもある時限界に来てしまったんですよね

まず頑なに禁止されていた女装をしました

見つかったら即殴られると分かっていたので

敢えて自分から殴りに行くことにしました

黙って家から出ることもできたと思います

でも私は殴り返さないと気が済みませんでした

 

おいクソ親父!!出てこいよ!!

格好に不釣り合いな声で

ドンドン壁を叩きました

反抗するのは初めてのことで

それくらいしか方法が思いつきませんでした

 

なっ……何だようるせぇな!!

部屋から出てきた父はなぜか

怒るというより戸惑っていました

もっと早く怒っておけばよかったと思いながら

 

……お父さん

私は精一杯甘えた声で呼びました

それでも尚

 

気持ち悪ぃな!!

 

誰なんだよお前は!!

 

早くこの家から出ていけ!!

子供扱いしてもらえなかったので

私は包丁を突きつけました

台所にある中で一番鋭利なものを選びました

 

お父さん、私もあなたのこと

 

お父さんだと思ったことは一度もないよ

 

や、やめろ……

すると父は呆気なく壁に追い詰められ

情けなくへたり込みました

そして今更のように泣き始めたのです

 

悪かったよ、許してくれ……

私は分かっていました

その涙は自分の為で

私の為じゃない

これからもこいつは

私の為に泣くことなどないのだと

 

お父さん、泣きたいのはこっちだよ

 

最後くらいは私の為に血を流してね

私は父を刺しました

悶え苦しむ様を見て

果てしない喜びを感じました

大袈裟なくらい喜んでいないと

自分まで殺しそうだったのです

その時、既に脳内には

あの曲が流れ始めていました

私は鼻歌を歌いながら

次は母の書斎に行きました

 

お父さんを殺したよ

そう告げると、母は一旦顔を上げましたが

 

あらそう

と言ってすぐ書類に目を戻しました

母は本を書く人です

忙しいのは分かります

けれどそんなに仕事が大切なのかと思うと

それを奪ってやりたくなりました

 

それ、そんなに楽しい?

 

いいえ、全然

 

じゃあこっちを見てよ

 

それはできない

 

私のことどうでもいいんだ

 

どうでもいいってことはないけど

 

だってどうしようもないじゃない

 

どうしようもないなら

 

どうしようもないなりに

 

向き合ってくれなきゃ困るんだよ

私は当然母を刺しました

でもその間際

本棚に立て掛けてあった

『母と娘の───』

といった背表紙が目に飛び込んできて

少し力が弱まりました

 

こんな本出してたなんて知らなかった

と言うと、母は馬鹿にしたように笑いました

 

あなただってこっちに無関心だったくせに

確かにそうだなと思い

私は包丁を引き抜きました

それから母は死体を隠すのを手伝ってくれて

自分の不注意による怪我だと

嘘をついて病院に入院しました

私はしばらく一人で暮らすことになりました

気が狂いそうなほど静かで

その分脳内ではあの曲が流れ続けていました

止めたら終わりな気がして

延々とその曲と暮らしていました

だからといって親に無関心になるのも良くないと思い

私は初めて母のパソコンを使い

初めてネットで母の名前を検索しました

どうやらあの本は出す前だったようで

私は正直ほっとしていました

何も知らないくせに

知ったかぶったことを書かれて

知ったかぶった感想が並んでいた場合

その人たちも全員殺していたと思います

本の代わりに母のTmitterを見つけました

恐る恐る開くと

最新の呟きは私に関するものでした

『あの馬鹿野郎、とうとう刺しやがった』

『まだ腹痛い、おかげでろくに書けない』

『締切もうすぐなのに、皆ごめんね』

私に謝ったことのない母が

誰でもない何かに対して

軽々と謝っていました

『大丈夫?無理しないでね』

『お家が大変なことは分かってるから』

『うちもそうだった』

『でも何とかなるよ』

『のらりくらり、ね』

返信欄には労いの言葉が溢れていましたが

私を労う言葉は一つもありませんでした

全員殺したくなったので

私はパソコンを壊しました

それで気が済むはずもなかったので

帰ってきた母を再び刺しました

こうして私は完全に一人ぼっちになりました

二人も殺したのに

拍子抜けするほど誰にもバレなかったので

とりあえず閉じこもって

ひたすら閉じこもり続けて

あっという間に時が流れて

生きているのか死んでいるのかも分からないまま

ただ、確かに呼吸をしては

あの曲を口ずさんでいました

スカートで過ごすのが夢心地過ぎて

足をめいっぱい広げて床に倒れながら

今までの全ては夢だったのではないかと思っていました

そのうち夢を見ました

余程気にしていたのでしょう

夢でも私は

殺人の再演をしていました

唯一違ったのは

二人が笑って

私を許していることでした

 

ごめんな、こんなことさせて……

 

ありがとう、ここまでしてくれて……

 

ううん、いいよ……

 

いいんだよこれで……

自分さえも自分を許していました

その時、私は無性に

あの曲を聞いてもらいたくなったのです

世界中の皆に

私がいつか殺すかもしれない

私をいつか殺すかもしれない

でも今だけは共存している

そんな人間たちに

どうしようもない生き物たちに──

 

どうですか

 

よくできた作り話でしょう

夢香

作り話にしてはできすぎている気がしますが

 

信じるか信じないかはあなた次第ということで

 

それじゃあ他の絵でも見ましょうか

(立ち上がる)

夢香

え、もう終わりですか?

 

はい、これ以上何を話すことがあるんだという感じですが

 

あ、死体を埋めた場所とか聞きたい感じですか?

 

残念ながらそれは流石に教えることは───

夢香

それより私の感想を聞いてくれますか?

 

あぁ、はい

夢香

率直に言うと

夢香

良かったです

夢香

いや良くはないんですけど

夢香

気が合う理由が分かりました

夢香

特に思ったこととしては

夢香

曲を上げてくださってありがとう、という感謝

夢香

そして、これは単なる欲望ですが

夢香

私、あなたと友達になりたいです

 

……知ったかぶりですか

夢香

ん?何がです?

 

結局あなたも私を馬鹿にするんですね

 

それとも変に崇めたりしちゃってます?

 

感謝?友達?

 

馬鹿言わないで下さい

 

私は人を殺してるんですよ

 

人を殺してるんですよ

 

人を殺してるんですよ

夢香

ちょっ、声……

 

人に言えないようなことをしてるんですよ

 

馬鹿みたい

 

本気で書いたコメントを

 

言って、消して、言って、消して

 

その繰り返し

 

どうせあの曲もいずれ消しますよ

 

そんでどうせ無断転載されて

 

幻とか伝説とか騒がれて

 

検索してはいけない曲ランキングとかに載るんじゃないですかね

 

変に神格化されて

 

ファッション鬱に搾取されて

 

オーバードーズだのと同じ部類に括られるんでしょうね

 

何がオーバードーズだ

 

薬バカ飲み大バカ野郎じゃねーかよ

 

ちなみに私が一番嫌いなコメントは『教養』です

 

何なんだ勝手に教養を強要して高揚して

 

何?教養オナニー?

 

それこそ教養の欠片もない行為だろ

 

こちとら小学校からろくに通えてないってのに

 

ああ馬鹿みたい!!

 

結局私だけが死ねば良かったみたいで!!

夢香

……魔女さん

 

魔女?

 

あぁ文字化けの名前わざわざ直したんですね

 

何ですかその執着

 

私が言うのも何ですけど気持ち悪いですよ

 

今日だって脅されて金巻き上げられるんじゃないかと

 

内心ビクビクして汗だらけで……

夢香

私も人殺してるんですよ

 

え?

夢香

……なんてね

夢香

でも分からないじゃないですか

夢香

目の前の人が人殺しかなんて

夢香

殺してなくたって普通のふりして

夢香

殺し同然のことしてきてるかもしれないじゃないですか

夢香

だから今楽しく話せてればそれでいいんです

夢香

男か女かなんてどうでもいいんです

夢香

正体が分かってたって

夢香

私はあなたと仲良くしたい

夢香

ただそれだけです

 

……

 

本当に、仲良くしてくれるんですか……?

夢香

もちろん

夢香

あ、たとえ途中で喧嘩別れしちゃっても

夢香

殺さないで下さいね?

 

はい、多分……

夢香

多分じゃ駄目でしょ笑

 

すみません……

夢香

まぁでも人間は不完全ですから

夢香

完璧な保証なんてないですもんね

夢香

では私も秘密をバラさないでおきます

夢香

多分ね

 

……

 

やっぱりやめておきます

夢香

不平等!!

〜後日〜

夢香

この曲死ぬほど聴いてるな……

夢香

流石に聴き飽きてきたな……

夢香

お、魔女さん新曲上げてる!

夢香

会ってから数日しか経ってないのに

夢香

もう新しい曲作ったんだ

夢香

やっぱり天才なんじゃん

夢香

天才のくせに遠慮しちゃって

夢香

逆におこがましいんだよな

夢香

もし消したら私が無断転載してやる

夢香

検索してはいけない曲ランキング1位にしてやる

夢香

当然この曲も無断転載してやる

夢香

なんてね

夢香

どれどれ、どんな感じかな〜

『友達っていいな♪』

夢香

いや影響されすぎだし路線変わりすぎでしょ

夢香

チャンネル登録外そう

〜終〜

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