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~~°˖✧♪
I
放課後、ピアノの音色が窓から透けていく。
今日もまた、卒業式歌を練習しに音楽室で音色を響かせる。
曲を練習し、
指が鍵盤に触れる度に、
I
望みもしない涙が頬を伝う。
中学3年生、中高一貫校のこの学校では、何においても才能が必要とされる。
だけど、俺は……
音色を美しく響かせることなんて不可能な人間だった。
初
初
I
初
その年、卒業式で楽器演奏を担当したのは、初兎先輩だった。
初
I
初兎先輩の目を見て話しているうちに、先輩の頬にはたくさんの涙が伝っていた。
初
初
初
場を紛らわす様にそう言った先輩は、小さくて白い箱を突きつけてきた。
I
初
初
初
「1年後、お前の音色、聴きに来るから――」
――ガラガラ……
そうして先輩は、泣きながら帰って行った。
I
先輩が教室から去った後に、白い箱をまじまじと見つめる。
一見、開けようと思えばすぐにでも開けられそうなこの箱は、光にあたって白く輝いていた。
その箱は、今も譜面台の横に置いてある。
I
「卒業まで待って」、と言われた箱の中身が気になってしょうがなかった。
だが、初兎先輩との約束だ。
「そんな簡単に約束を破れない」
――そんな良心が、俺の好奇心をいつまでも咎めていた。
開けたいけど開きたくない。
そんな複雑な心境で箱を想いながら、現実に戻ると、頬にはまだ涙が伝っていた。
I
I
音楽を大切にする俺は、卒業式で伴奏を弾くことに憧れた。
だが、目指してみれば、遥か彼方にある星のように掴み取れない。
その上、練習が辛く、
先生の望む目標までに何とか辿り着かなければいけない辛さがあった。
そんな気持ちが頭に浮かんでいる途中、後ろの方でドアが開く音がした。
…ガラガラ――
I
h
ドアの前に居たのはほとけだった。
俺の1つ下の後輩。
だが、
――俺の何倍もピアノが上手く、俺には到底追いつけないような才能を持っていた。
h
I
I
その才能故にいつもほとけに冷たくしてしまう癖がある。
努力が足りないところも含め、その気持ちが自分を嫌いにさせる根だった。
h
I
h
h
…何でお前が謝らんと駄目なん……?
それが自分のせいだと分かっていても、嫉妬心が勝ってしまうほとけに対する心は素直に謝れなかった。
h
h
°˖✧♬~♩✧♪˖°♪✧⁺°~~~
h
ほとけが奏でる音は、輝いていて、感情のこもった音だった。
本当にきれいな音色だった。
だが、その純白さが俺を追い詰め、俺を嫉妬させた。
I
気付いたらそう言っていた。
無礼な言葉だという事は分かっていても、ほとけの演奏を聴く気にはなれなかった。
h
h
I
「帰れ。」
h
自分でもどんな言葉を発したのか、理解できるようになるまで膨大な時間が掛かった。
馬鹿だ。自分を慰めるためにほとけは弾いてくれたんだろ?
h
何か言いたげな表情をしていた。
だけど、今は帰ってほしかった。
こんな”屑”のような俺の傍に居たらお前まで傷つく。
その自虐的な一心でほとけを追い出した。
h
I
h
「休んでくださいね…?」
I
h
「失礼しました――」
…その言葉がどんなに俺の気持ちを抉り、どんなに罪悪感を欠き出したかは、
知られたくはなかった。
そんなおかげで、最近は常時寝不足だった。
り
I
疲れた。
り
I
あ~…何で昨日、あんな自己中な発言、ほとけにしてまったんやろ…。
り
I
り
り
I
り
り
I
そう言い、りうらは自分のノートを突きつけてきた。
りうらの慈悲に感謝しつつも、半分脳死状態でノートを写し始める。
そんな時でも、”音楽”に怯えてしまっている自分が居る。
それは考えれば、脳内で処理できないほどの原因があった。
放課後、いつもの様に音楽室へと向かう。
ピアノの前の椅子に座る。
その時、突然に…
I
I
鍵盤の前で指が動かなくなった。
ストレスだろうか?
全身が金縛りに遭ったように動けない。
そのまま座っている状態から姿勢を崩し、前に倒れるところだった。
な
視界が急回転し、天井を向いた視点になる。
そこで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
悠
悠
な
な
I
その声は、初兎先輩と同じ高1年の、悠佑先輩とないこ先輩だった。
2人には何かと世話になったかと思えば、バンドや歌で”音楽の感動”を教えてくれた人達である。
悠
I
悠
悠
その言葉が心の中で深く沈んだ。
悠
な
…家に帰れない。
音楽があるから。
それよりも、早く先輩から降ろしてもらって真面目に練習がしたかった。
I
そんな、嘘の他ない言葉を吐く。
悠
I
な
悠
な
…俺は簡単に嘘をつく、黒いインクで溜められた性格なんだ。
悠
悠
そんなに俺を、
潔白で純粋な奴だと思わないでくれ――
な
な
…ガラガラ
I
嵐のように過ぎ去って行った先輩らに疑問を覚えながら、椅子に座り直す。
自然に金縛りも解けて、ピアノに向かえる状態になった。
だが、心の奥底に隠れていた醜い本性は良くは思わなく、
もう鍵盤にも触りたくない気持ちでいっぱいだった。
午後11時という夜中、読書灯のみを灯して静かに泣いた。
身体はもう癒しであるはずの音楽を拒んでいた。
何なら、音のない世界に行きたい。
I
…自分で自分を”絶”ってしまえば、
I
俺の弱みは全て純白になるのか?
翌日の放課後、毎日と何の変わりも無く、椅子に座って楽譜を開く。
I
すると、その衝撃か、白い箱が下に軽い音をたてて転がり落ちる。
俺はもう一度考えた。
この箱を開けてみたいと。
珍しく、良心を振り払ってまで開けてみたいと。
I
意外なものが入っていれば、見なかったことにすれば良い。
その気持ちで箱を開けた。
I
そこに入っていたのは、
パソコンで使うことのできるパスワードだった。
もう一度良心を振り払い、再度決心をする。
そう、「意外なものが出てきたら、見なかったことにすれば良い」と。
俺はパスワードを入力し、Enterキーを押した。
すると、一通の手紙が出てきた。
――――――――――――――――まろへ――――――――――――――― この手紙を見ているなら、卒業したってことでええんやな? そんなまろへ。 俺は、正直、日々の練習がとても辛かった。 素直に、まろに自分と同じような気持ちを分け合いたくなかった。 だけどまろなら1年間音楽を信じ通してくれると思ってた。 そんなまろみたいな魂胆も無い俺は、 「まろの音色を聞いてから清々しい気持ちで終わろう」 って決めた。 もう追いかけないで。 まろは自分の道を切り開いて音楽を見つけてほしい。 でも、俺はこれからはまろのこと、ずっと近くで見てるな。 高校へ進学したら、きっとないちゃんや悠くんがおるから。 りうらと一緒に、こっちに上がって来いよ!? 俺はまろのこと、ずっと応援しとるで。 ―――――――――――――――――――――――――――初兎――――――
その手紙を見た途端に思考が怖いほどに速く回転した。
俺の先輩である初兎が居ない世界が俺は一番嫌いだ。
初兎先輩とまだ一緒に居たい。
それには、先輩に俺だけの音色を伝えて、先輩の自殺を引き留める事しかできなかった―――
I
そう言って、家へ帰って来た先輩を引き留める。
初
だが、今ここで引き留めて何があるのか。
見切り発車な行動に自分で呆れた。
必死に言葉と言い訳を探す。
I
初
I
初
I
初
初
I
その先輩の言葉の裏には、定かではないが悲しさがある気がした。
覚悟しきれてないような、生半可な弱みが。
I
そうして一度、初兎先輩の元を離れて来た道を戻って行った。
I
初兎先輩は優しくて頑張り屋な人だ。
だけど、どこか感情も表れやすい可愛い一面もある。
そんな初兎先輩に不思議な感情が募っていた。
そして、
「何としてでも初兎先輩を守りたい」
という強い信念が、心の中で居座った。
そんな想いを胸に、練習できる最後の日がやって来た。
I
音楽室に毎度ながら向かい、音色を響かせる。
我ながら頑張って来たこの成果をついに体育館で開放する。
卒業生、並び卒業式参加者の皆に、そして、
好きな初兎先輩の為に、
最後の最後で努力を振り絞り練習した――
成果は、見事に発揮された。
自分でしか表せられない音色。
その音符一粒一粒が、躍動しているように聴こえた。
♬°˖✧♪♫~✧˖⁺✧°~
I
弾き終わるとともに、拍手喝采が沸き起こった。
広い体育館を見回すと、そこには先輩が居た。
初
涙が反射され、光っている。
だが、大事なのはここからだった。
I
初
初兎先輩を守って…
俺の”気持ち”を伝える―――
I
初
俺が追いかけた先は屋上、
俺が追いついた頃には既にフェンスに身を乗り出していた。
それを何としてでも止めるように後ろから抱える。
I
初
初
I
「初兎先輩と一緒に居たいなぁ…//」
そう先輩に問いかける。
I
I
初
I
I
「空に逝ってしまう前に、僕と付き合ってくれませんか。」
初
先輩は、愛嬌染みた声で俺の名を呼ぶ。
初
I
I
「初兎先輩の事が好きでした///」
初
今にでもキャパオーバーしそうなくらい頬を赤らめて俺の腕を優しく抱く。
初
「まろのこと、好きやから//」
その言葉は、俺の心に音色のように響いた。