君との願い事

夏が1番嫌い。

テレビから聞こえる楽しそうな声に俺は今年もまたため息をついた

カーテンをめくると、そこにはあの夏の喧騒もない小さな神社。

小さい頃から病院にいる俺は、"ナツマツリ"というものを知らない。

いつも皆が楽しそうなのを横目で見ながら薬と戦う時間。

俺にとって"ナツマツリ"は最悪なものだった。

お昼ご飯後、いつも通り病室に遊びに来たりうらに質問をした

りうらはちょうど5ヶ月前に病院に入院した普通の高校生。

教えてはくれないけど、本人によるとだいぶ軽い病気らしい。

ぎゅーーーーーっ、

ばっと両手を広げ俺に抱きつくりうら

背中越しに優しい声が聞こえて、ほっとする。

カサｯ

机の上にあった紙とペンを取り、りうらは何かを書き始めた

りうらはそう言ってさらさらと紙の上に絵を描く

りうらが好きな物...俺も見てみたかったな

どうしてこうりうらにはなんでも図星なんだろう...

たまにはわがまま言っていいかな...

指切りげんまん、

今まで生きてきた中で、1番幸せな約束だった。

今日だ...

やっとこの日が来たんだ、！！

時計を見ると夜の９時

りうらは９時に俺の病室に迎えに来ることになっていた

ガチャッ

なんで...

りうらの病室...？

アニキ達は足早に俺の病室から出ていった

ｶﾞﾁｬﾝｯ

嘘...、？

本当に...？

何度見てもりうらの顔色は変わらないままだ

心無しか、りうらの声が震えてる気がする

"今年じゃないといけない理由"は分からないけれど

ここで断ったら一生後悔する気がした。

俺が行きたいって言ったのに

なんでりうらの方が喜んでるんだろ...

ガヤガヤ...

アニキ達が俺のために借りてきてくれたんだけど、肩ちょっと見えてるし...//

あと...

いつも照れさせてくるりうらへのお返しなのは秘密、//！

急に叫ぶからびっくりした...

りうらの指指す方を見ると、

ぷかぷかと穏やかに水の上に浮かぶ丸いもの

りうらスゴすぎ...、！！

りうらは早速油性ペンを持ちヨーヨーに何かしらを書きはじめた

俺は...

俺の、願いは...、

10分後

俺はやっと目当てのヨーヨーをつることが出来た

りうらはというと、、、

未だ糸が切れないので3個目に突入していた

ﾌﾞﾂｯ

楽しくて時間なんて忘れてたよ...

久しぶりだなぁ、

さっき帰ろうとしたところりうらが

...と、言ったので今出口で待ってるんだけど

そう言って足を動かした所だった

見つかっちゃった...！？

数秒後、

楽しいはずの夏祭りで悲鳴が聞こえた

そこには、アニキの足元に横たわるりうら

え、なんで...？

ピッピッピッ...

病室に響く不慣れな音

そして俺の目の前には顔色の悪いりうらが横たわるベッド

何が起きたのか自分でも分からない

ガラッ

ありもしない言葉が聞こえて、思考が停止する

ガラッ

りうらが渡してきたのは3つのヨーヨー

"ないくんが退院出来ますように"

"ないくんの病気が治りますように"

"ないくんが俺の最後を見届けてくれますように"

"りうらとずっと一緒にいられますように"

ガラッ

ガラガラ...

約束だよ...

テレビの音を横目に、手に持つ花束をしっかりと抱く

ガラッ

そう

あの後手術は無事成功し、りうらはこの通り生きている

チュッ...

来年も

再来年もこれから何十年経っても...