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初デートは水族館だった。
泳ぐ大きな魚を見て、
「綺麗だね」なんて言う赤が、
一番綺麗だったのを覚えている。
中学生なんてバイトもできない。
お金なんて持っているはずもなく、
交通費と入場料でカツカツだった。
水族館に併設されているレストランの料金は中学生の俺らにとってはとても高く、
二人で悩んだ末、赤が弁当を持ってきてくれることで落ち着いた。
料理の味を褒めてやると、 照れたように笑う赤が可愛くて。
自分の食事はそっちのけで、 褒める度に口が早くなっていく。
大きいのにしただとか、これは桃くん苦手だから、とか
俺の事を想いながら作ったのが 想像できるのが
中学生ながらに愛おしく思えた。
付き合う期間が長くなるほど、
何かに誘うのが恥ずかしくなった。
学校での班決めもそう、 デートもそう。
"付き合っている"という自覚が 生まれれば生まれるほど、
俺は赤が好きだと思えば思うほど、
気持ちが透けてしまうのが 恥ずかしく、同時に怖かった。
いつか愛想を尽かされた時、
好きの気持ちは赤にとって嫌悪になる。
どうしても、怖かった。
俺の思い違いかもしれない。
少し心配そうに尋ねる赤に、
罪悪感が、湧いた。
怖いという感覚が、 輪郭を成し始めた。
どこか、俺の気持ちを 否定された感じがして。
いや、そんな事ないと分かってる。
ただの疑問を言葉にしただけだと、 分かってる。
分かってる、
ワークを進める手を止めた赤が、 不安そうにこちらを見る。
左右非対称の色をした瞳が、 ユラユラと揺れていた。
やっぱりすきだ。
どんなに否定されようと、 どんなに嫌悪されようと。
やっぱり俺は、 赤が好きでたまらない。
この目が、そう言ってるから。
そう思いたい、 だけだろうが。
ほぼ無意識に、 赤に唇を押し付けていた。
寂れた、空き教室
そこに好きな人とふたりきり。
赤にフラれたけど、
もしかしたら、やっぱり両思いかも。
そう自覚してじっとしてられるほど女々しい男ではない。
…後先考えないのは、 俺の悪い癖か。
真っ赤に顔を染めながら、
俺の胸板をひ弱な手で押し返す。
赤の背後が壁なのをいい事に、 迫って再度、口を塞ぐ。
くちゅり、と音を立て
舌を赤の口内へと入れる。
口元を拭いながら 走って去っていく赤を見て、
ついこの間まで仕舞っていた 感情がふと零れる。
扉が、閉まる。
やっぱダメだ、俺。
どんだけヘタレなんだよ。
_閉めた扉の向こうで、 蚊の鳴くような声が聞こえた。
最後の蚊の鳴くような〜は赤くん視点です。なので桃くんの独り言(告白)は赤くんに聞こえてたってコト!