テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
57
頭が痛い。 喉が腫れて血が出そう。 関節も痛いし動くだけで頭の痛みが倍増しそう。 額と頬が熱い。 体も熱い。 でも寒いから布団は手放せない。 掛布団が少し厚くて重い。 息がしづらくて肺から隙間風みたいな音がする。 眠たくても眠れない。 眠ったら死んじゃいそうで怖いから。 そんなことを考えていたお昼の時間、一年生達のきゃっきゃっと楽しそうな声が障子越しに聴こえてくる。 何時もだったら可愛いと思える筈なのに今日は頭痛を悪化させる原因になりつつある。
サイトウ
なんて考えて目を瞑る。 目からは自然と涙が出た。 何時かの新野先生が身体が辛い時は自然と涙が出てくる。とか言ってたなぁ…と思いだした。走馬灯かな…………… 少し寝返りを打てば何も食べてない胃から何かが込み上げてくる。 何時もの体調不良の時は四年生の皆が看病してくれたなぁ……、五月蠅かったけど。 だけど今は実習中で四年生は俺以外皆いない。 俺の咳と肺の音と外からの賑やかな声しか聞こえない。 嗚呼、静寂がこんなにも怖いものだったなんて。 そして、こんなにも自分が脆かったなんて。 今度は寂しさと不安から自分の意思で涙が溢れてくる。
サイトウ
不意にそんな言葉が口から洩れた。 情けないな…なんて今度は自分の気持ちを全部吐き出すように涙が溢れてきた。 止まらない。 俺は嗚咽を漏らしながら泣いた。 その瞬間、カラカラカラ…と襖が開いた。 俺は吃驚してすぐさま起き上がろうとしたけどそれより先に声が飛んできた。
??
うん、とうとう幻聴まで聴こえてきた。俺はいそいそと布団へ戻った。 確実に熱は上がってきてるし幻聴まで聴こえてくるし俺本当に死んじゃう。 考えていれば次に誰かが部屋の中に入ってきて襖を閉める音がした。 誰?四年生は実習中だし、伊作君はそんな事言わないし…と思考を巡らせてれば巡らせる程頭痛が酷くなる。 こんな俺の事を気にせずその人は俺の布団の前に腰を下ろした。 俺は身体が痛くて振り向けないから痛みでボロボロになった喉からカスカスの声を絞り出す。
サイトウ
その声に驚いたのか言葉に驚いたのかは分からないけど俺の布団の前にいた人は呆気に取られていて
??
あ、この声、五年ろ組の変装名人、鉢屋三郎君だ。 今日は五年生は裏山で栗拾いするって久々知君言ってたのに。 まさか鉢屋くん、お昼寝してて置いてかれたんじゃ…。 不貞腐れているってわけではない。 置いてかれたなんて考えてもいなかった。 だって、四年生の皆が実習に出る前に………………、
タイラ
アヤベ
タムラ
ハマ
タムラ
タイラ
滝夜叉丸はショックを受けて、喜八郎は不貞腐れている。 三木ヱ門は心配してくれてるし、守一郎は俺のために泣いてくれている。 こうやっていっぱい元気づけようとしてくれる優しい子達、だから別に置いてかれた、とは違うと思っている。 そう伝えようと鉢屋くんに背を向けたまま首をふるふると振った。 それを見た鉢屋君はその意を受け取ってくれたのかそれ以上は言わなかった。 唯、俺の背中を見ているだけ。 気まずいっちゃ気まずいけどそんなことを考えられる程身体は楽じゃないし喉の痛みも悪化し始めた。 喉奥の違和感にけほ、こほ、と咳き込んでみても楽にはならない。 そんな俺を見かねたのか
ハチヤ
なんて優しい声掛けをしてくれる。鉢屋君の事全然知らなかったけど、優しい子なんだ。 でも、薬はもう飲んじゃったからいらない。 そう伝えようと熱くて重い身体を起き上がらせる。 その瞬間、胃がぐるぐると回る様に感じた。 口を押えて前のめりになって吐き気を我慢する。 年下の前で吐いちゃうなんて…そんな考えが更に吐き気を呼び起こす。 鉢屋君は部屋の隅にあった桶をすぐさま取り俺の口の近くに持ってきてくれる。 それを受け取れば俺は極力声を漏らさないように吐いた。 はふはふ、と不規則な吐息を漏らしては再度吐いての繰り返し。 胃は空っぽだから胃液しか出ない。 酸っぱい匂いがこの部屋に充満して不快だった。 胃酸で焼かれた喉が痛い
サイトウ
俺は喉を掻き毟って呻いた。 喉を本気で引っ搔いていたから爪の跡が出来て、白く線が引かれている。 傷からはじわ、と血が溢れて俺の首を汚して鎖骨に溜まる。 背中を擦ってくれていた鉢屋君は俺に奇行に気づいて後ろから手を掴んでくれた。
ハチヤ
慌てた鉢屋君の顔は本気で怯えたような、けど心配している様な顔をして俺を見つめた。 爪から血が垂れ鉢屋君の指を濡らす。 胃酸の臭いは麻薬みたい。 俺たちを包み込んでは鉢屋君の怯えた吐息と俺の疲れ切った吐息で揺られて吹かれて消える。 俺はその麻薬に侵され意識を手放した。
サイトウ
布団が乱れている。 あ、身体がさっきより断然軽い。 俺は嬉しくて起き上がろうとした。 気持ち悪くならない! 喉も少ししか違和感がない! と自分の復活の速さに感動している。 しかし、起き上がれない。 何故だ、と横を見れば鉢屋君がぽてっ、と丸まって俺の腰を腕いっぱいに抱いて眠っていた。 か、可愛い~っ…、ついつい抱きしめたくなっちゃう衝動を抑えておれはゆっくり鉢屋君の腕を退かそうと掴んだ。
サイトウ
熱かった。さっきまでの俺みたいに。 俺はドッと心配になり首の裏の熱を確かめてみる。 あ、熱い…。 すると鉢屋君は目を覚ました
ハチヤ
あんなに身体が熱いのに起きれば飄々としていて。 俺は申し訳なさから苦笑いをする。
サイトウ
目が合わせられなかった。 そんな俺に疑問を抱いたのか鉢屋君は彼の同室である不破雷蔵君の顔を近づけてきた。 俺は何故だか鼓動が高ぶり始める。
サイトウ
俺の言葉にふふん、と鼻を鳴らした鉢屋君
ハチヤ
落ち着いた少し色気のある声音で言ってくれた。 俺はさっきの熱が忘れられずもう一度聞いた。
ハチヤ
なんて言って俺の部屋を出ていく。 俺は追いかけようと思ったがこれ以上深追いすると怒られそうな気がするからそのまま布団に入ってもう一度眠った。
翌朝、今日は休日だが委員会活動がある為、寝間着から制服に着替えている途中
タイラ
タムラ
ハマ
ドタドタと三人分の足音が廊下を騒がしくしている。 後に続いてトントン、と軽やかに素早く走る音が聞こえる。 襖がすぱーんっと開き歓喜する三人の姿と遅れてきた一人の姿が見えた。
タイラ
タムラ
ハマ
すぐに仲間たちが俺を囲んだ。 最後に俺の腰に後ろから甘えるようにして抱き着いてきた喜八郎
アヤベ
包みを渡された。 滝夜叉丸たちは喜八郎が羨ましかったのか一斉に抱き着いてくれた。 俺も力いっぱい抱き締め返した。
コメント
1件
うわあ、体調不良の描写が痛いほどリアルで胸が締め付けられた…。熱でぼんやりする感覚とか、胃液だけ吐くつらさ、涙が止まらない脆さ、全部伝わってきて読んでてこっちまで苦しくなったわ。鉢屋くんが優しくてびっくりしたよね。あの飄々としたキャラが看病してくれて、しかも寝ちゃってるのギャップで可愛すぎる。最後に四年生たちがわらわら帰ってきて抱きつくシーンはあったかくて報われた気持ちになった。続き気になる!