バカの一つ覚え

夏津は聖哉が引っ越す前に

どこに引っ越すのかちゃんと 聞いていたのだ。

うるさい胸の音を抑え インターホンを鳴らす。

ピンポーン

ﾀﾞｯﾀﾞｯﾀﾞｯﾀﾞｯ

ﾀﾞｯﾀﾞｯﾀﾞｯﾀﾞｯ

ﾀﾞｯﾀﾞｯﾀﾞｯﾀﾞｯ

ガチャ

ガチャ

部屋のドアを開けると いきなり床が揺れ始めた。

この感覚を 彼の体は覚えていた。

少しもしない内に 本棚が揺れ始めた。

本棚の 本が勢いよく落ちてきた。

落ちてきた本を手に取り 見てみると

本の間に 日焼けした写真が挟まっていた。

そこには

聖哉の 両親が写っていた。

彼の両親は 彼が中学1年生の頃に交通事故で 亡くなった。

両親が亡くなった後、彼の 祖母がよく面倒を見に来ていた。

だが、元々祖母は足が悪く、 だんだん足に自由がきかなくなり

車椅子生活を 送る他無くなってしまった。

その為、彼はいつも1人で

近くに住む親戚に 差し入れを貰ったり、

祖母からの少しのお金で 生活をしてきた。

誰にも引き取って貰えず、 身寄りが居ないため いつばらされるか分からず 不安で仕方がなかった。

そんな不安を押し殺しながら 生活してきたが…

だが

涙が止まれと願っても

体は聞き入れてはくれなかった。

止まってくれと思っているが

頭のどこかで ずっと寂しかった日を思い出し

この涙は止まりそうになかった。

溜め込んだ分が一気に湧き出てきて

その内に 夏津が上がってきてしまった。

ガチャ

聖哉が言い終わる前に 夏津が入ってくる。

優しい言葉を聞くと、余計に 涙が溢れてくる。

涙ですっかり シワシワになってしまった。

全て、夏津に話すことにした。