ネロ
おいラム朝だぞ

ネロ
いつまだ寝てるんだ

ネロ
お前はアレか?

ネロ
王子様のキスがないと起きないお姫様か?

ラム
う〜ん…

ラム
おはようネロ

ラム
もう朝?

ネロ
ニャ

ラム
わっ!?

ラム
顔洗ってくる…

それがわたしの暮らす家だ
周囲に他の民家はなく 1番近くの村までは1時間以上かかる
最初は不便だったけど最近では暮らすにもすっかり慣れた
ラム
( 小屋に入り鏡を見る

ラム
( 今日は月に一度の物資を届けて貰う日だっけ

ラム
( ビクッ

ネロ
おっ客人か

ネロ
じゃあオレ様 猫のフリしてるな

ラム
う うん

ラム
はい…

ルイス

リィンズベルフィード( リン )

ラム
( ビクッ

ラム
ルイスさん…

ラム
お久しぶりです

ルイス
えぇ お久しぶりです

ルイス
七賢人が一人〈沈黙の魔女〉

ルイス
ラム・エヴァレット殿

その中でも詠唱によって魔術式を編み魔力を行使する術を魔術という
魔力を行使に長けた精霊などの種族であれば魔術式も詠唱も必要としないのだが
ところがその不可能を可能にしてしまった一人の天才少女がいた
リディル王国における魔術師の頂点 七賢人が一人〈沈黙の魔女〉である
ラムは現存する魔術式の八割を無詠唱で行使することができる
上級魔術師の中には短縮詠唱を使える者もいるが
無詠唱ができる者は世界でラム一人しかいない
そんな天才少女が無詠唱魔術を習得するに至った経緯は実に単純明快である
過去にトラウマがあり 人とまともに話すことができなかったのだ
だから面識がない相手など始めはなにも話すことができない
くわえて注目されることに恐怖心があり 言葉を発することができない
今から数年前 魔術師養成機関に通っていたラムは教師の前で
詠唱ができず不合格になり落第寸前の身にあった
普通ならトラウマを克服し注目されることに慣れるように努力するところだが
ラムの発走は斜め上をかっ飛んでいき そのまま才能を開花させてしまった
ラムは無詠唱魔術をマスターし トントン拍子に七賢人になってしまったのである
ルイス
相変わらず才能の無駄遣いですね 同期殿?

ルイス
はぁ 書類の片付けさえ無詠唱とは…

ラム
( ルイスさんなんの用だろう

ラム
( まさかまた 竜討伐に行けとか言うんじゃ…

ルイス
リン 防音結界を

リィンズベルフィード( リン )
かしこまりました

ラム
( 詠唱なしの結界

ラム
( さすが上位精霊

ルイス
今日は貴方に頼みがあって参りました

ラム
… 頼みですか

ルイス
えぇ 実は私

ルイス
先月から国王陛下の密命で第二王子の護衛をしております

ラム
えっ

この三人の誰が時期国王になるのかで国内貴族達の意見は割かれている
ラム
あの ルイスさんは… 第一王子派ですよね?

ルイス
えぇ それなのに何故陛下は私に第二王子の護衛を命じられたのか

ルイス
思うところはありますが憶測で陛下の御心を語るのは
不謹慎ですのでここではやめておきましょう

ルイス
重要なのは陛下が私に

ルイス
''第二王子にも気づかれぬよう護衛せよ''

ルイス
と命じたことです

ルイス
フェリクス殿下は今 全寮制の名門校

ルイス
ケレンディア学園に通っています

ルイス
しかし あの学園は第二王子派筆頭のクロックフォード公爵の息が
かかっているので潜入が難しいのです

ラム
学園に入れないなら… どうやって護衛するんですか?

ルイス
そこで私が用意したのがこの護身用の魔道具です

ラム
( ピクっ

ラム
… 危険察知 小範囲の物理魔術防壁…

ラム
追跡と伝令の複合結界ですか?

ルイス
一目見ただけで見抜くとはさすがですな

ルイス
これは私が丹精込めて作ったものです

ルイス
このぶろーちはさふぁいやとルビーで一対になっています

ルイス
サファイヤの持ち主が攻撃を受けたら防御結界が発動

ルイス
私が持っているこのルビーが輝くというものです

ラム
? あれ? え でもサファイヤ側の居場所が

ラム
ルビー側に常にわかるようになっていて

ラム
第二王子を監視するための魔道具のような気が

ルイス
護衛対象の動向を気にするのは当然のことでしょう?

ラム
バレたら怒られちゃいますよ…

ルイス
同期殿はいささか生真面目が過ぎるようで…

ルイス
ニッコ )

ルイス
そんな貴方にこの名言を授けましょう

ルイス
バレなきゃ良いんですよ

ルイス
バレなきゃ

ラム
… そうなんですね( 笑

ルイス
私はこれを陛下経由でフィリクス殿下に渡してもらいました

ルイス
父親から息子へのプレゼントという体で

ルイス
ところが私が1週間ほぼ不眠不休で作ったこの魔道具は

ルイス
送った翌日に砕けたそうです

ルイス
あっはっは )

ラム
それって… 第二王子は無事だったんですか?

ルイス
私は寝不足の体に鞭打って大至急学園に駆け付けました

ルイス
そしたらなんと言われたと思います?

ルイス
殿下は何もなかったと言うのです

ルイス
「ブローチは不注意で割ってしまった」のだと

ルイス
私が作ったものがそう簡単に壊れるはずありません

ルイス
ましてやあのブローチには保護魔法を複数かけているのです

ルイス
それを上回るほどの衝撃を受けたことは明白

ルイス
ところが殿下はそれを隠している

ルイス
さて 私の言いたいことはわかりますかな?

ラム
… はい

ラム
ルイスさんは初めに''頼み''があると言っていましたよね?

ルイス
はい そうですね

ラム
話を聞く限り貴方の代わりに学園に潜入して殿下を護衛して

ラム
とか言うのでしょう?

ルイス
その通りです

ルイス
頼めますか?

ラム
… 正直嫌です

ラム
なぜ私なのですか?

ラム
貴方が行けばいいでしょう?

ルイス
だって 私は有名人ですから

ルイス
ほらこの美貌

ルイス
どんなに変装しても隠しきれるものではないでしょう?

ルイス
その点貴方は社交界には出ないし

ルイス
式典でもフードを被って俯いているから顔を知られていない

ルイス
何より

ルイス
貴方みたいな人が七賢人だなんて誰も思わないでしょう?

ネロ
ニャー!! ニャー!!

ラム
…なんですか?

ラム
私みたいな地味な小娘が七賢人なわけない

ラム
ということですか?

ルイス
そうではありません

ルイス
貴方は地味ではないでしょう?

ルイス
ただ人前で話せないので七賢人に思われないと判断したまでです

ラム
… そうですか…

ラム
… まぁ 人前で話せないのは本当ですしね..

ラム
でも…

ラム
わたし 誰かの護衛なんてやったことありません…

ルイス
素人だからいいのです

ルイス
殿下は非常に勘の良い方でして

ルイス
幼い頃から護衛に囲まれて育っていますから

ルイス
護衛を見抜くのが上手い

ルイス
だからこその貴方なのです

ルイス
さすがの殿下もド素人感丸出しの小娘が護衛だとは思いますまい

ルイス
何より貴方の無詠唱魔術は周囲に気付かれずに発動できるので

ルイス
内密の護衛に最適でしょう?

ラム
でも…

ラム
護衛なんてできません…

ルイス
貴方と私が七賢人に就任して二年

ルイス
貴方のした仕事といえば家に引きこもって書類と向き合うばかり

ラム
… 三ヶ月前に竜討伐もしましたよぉ

ルイス
私はこの三ヶ月で十回はしてますけど何か?

ラム
ゔっ( グサッ

ルイス
はーー

ルイス
良いですか?

ルイス
貴方は我がリディル王国の頂点に立つ魔術師

ルイス
七賢人なのですよ?

ルイス
貴方にしかできない仕事があると思いませんか?

ルイス
思いなさい?

ルイス
思え ( ニコ

ラム
でも…

ラム
わたしなんて七賢人になれたのも補欠合格みたいなもので…

ラム
( ビクッ

ルイス
第二王子護衛に関する人選を陛下は私に一任されています

ルイス
つまり貴方に拒否権はないのですよ

ルイス
同期殿

ラム
… わかりました

ルイス
わかればよろしい

ルイス
なおこの任務は国王陛下直々に命を下されたもの

ルイス
失敗したら処刑なんてこともありえるので心して聞くように

ラム
処刑!?

ルイス
それでは早速私の屋敷で具体的な作戦を説明いたしましょう

ラム
え?

ルイス
何をぐずぐずしているのですか?

ルイス
貴方にはこれから私の屋敷へ来ていただきます

ラム
( どうしよう… 無理っ…

ラム
( 貴族の学校なんて怖い…

ラム
( 護衛なんてできない

ネロ
ニャー 大丈夫か
