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第1話 - あ

2023年11月03日

#恋愛

結城　真矢

タカシ

なあ、ケント

タカシ

お前さ、まさか今年も受験駄目だったの？

ケント

まあ、うん

ケント

そういうことだ

タカシ

まじかよ？

タカシ

今日、駅前の大手予備校にケントが入っていくのが見えてさ

タカシ

いや～まさかとは思ったけど...もう次の準備してんのか

タカシ

切り替えはえーな（笑）

ケント

切り替え早いっていうか、やらないといけないことをやるだけだし

ケント

前に進むしかないだろ

ケント

予備校の授業料も、俺も少し出すことにしたから

タカシ

え？マジで？

タカシ

そんなんで、医学部受験とかだいぶチャレンジャーだな

ケント

いつまでも親に頼ってなんかいられねーだろ

ケント

だから、少しでも自分で資金稼いで、親の負担減らしたいんだ

タカシ

結構、頑張るんだな

タカシ

そこまでして、医学部受験するなんて

タカシ

でも、もう2浪もしたんだったら諦めたら？

ケント

は？

ケント

諦めねーよ

ケント

これから授業料払うために、深夜バイトも探し始めるんだから

タカシ

え、マジなんだ

タカシ

深夜バイトって...すげーな

タカシ

ほんと、よくやるよ

タカシ

でもさ、マジで受験って才能とカセンスもある、って聞くぜ？

タカシ

2浪もする、ってことは、ケントにはセンスがないってことなんじゃねーの？

ケント

センス、才能とか...ないなら磨けば良い話だろ

タカシ

でも、2年たっても落ちてる、ってことはもう諦めろ、ってメッセージなんじゃね？

タカシ

そういう運命だ、ってことだよ

ケント

そんな運命があるとしたら、俺はそんなの信じねーから

ケント

絶対に、頑張って今年で合格してみせるんだ

タカシ

随分、やる気なんだな

タカシ

まあ、合格することを祈るよ

タカシ

どこまでいけるか、もう勝負はほぼきまったも同然だとは思うけどね

ケント

まだ分かんねーだろ

ケント

勝手に決めつけるんじゃねーよ

タカシ

お前さ、自分でバイトするにしても、周りに迷惑かけてることは自覚してんのかよ？

ケント

それは、自覚してるよ

ケント

授業料なんてめちゃくちゃ高いし、親に2浪も許してもらって、

ケント

本当に、申し訳ないとは思ってる

ケント

でも、俺には本当にこの道しか考えられないんだよ

タカシ

熱心で、折れにくいって言えば聞こえがいいのかもしれないけど

タカシ

ただのわがままだろ？それ

ケント

え？

タカシ

自分が人生かけてることに、多額のお金と一緒に親を巻き込んで...

タカシ

不安でしょうがないと思うけど

タカシ

お前が1人息子だから、そこまで手をかけてあげれるんだと思うけどさ

タカシ

でも、かなり迷惑してるんじゃねーの？

タカシ

親御さんも

ケント

何十年後かになったら、絶対に恩返しできるようになる、って思うから

ケント

だから、それまでは自分の受験に専念して、力を出し切る、って決めたんだよ

タカシ

その熱意は、どこまで続くのかね

タカシ

夏ごろ、いや夏になる前に燃え尽きて、受験は諦めるんじゃねーの？（笑）

タカシ

そうなったら、同級生の間に噂が広まるだけじゃなくて、

タカシ

近所にも人待って、親御さんもすげー恥ずかしい思うするんじゃね？

ケント

俺、絶対にあきらめねーから

～2か月後～

タカシ

ケント

タカシ

お前、今日大手予備校の模試だったんだって？

ケント

うん、そうだけど？

タカシ

やっぱりね

タカシ

俺の通ってる大学が受験会場になっててさ、看板が立ってたから

タカシ

もしかしたら、ケントに会えるかもな～と思ってみてたけど

タカシ

まあ、会わなかったな

ケント

俺はもう2駅先のキャンパスで受験だったから

タカシ

そういうことか

タカシ

もし、俺の大学...っていうか、ケントが受かってたらケントの大学にもなってなのか

タカシ

将来、自分が行くかもしれないキャンパスで受けるテストはどうだったよ？

ケント

まあ、緊張感はあるよな

ケント

周りは、ほとんどが現役高校生だし、少し焦りもあったけど...

ケント

模試にも慣れてきたよ

タカシ

さすがに、模試には慣れていかないとやべーだろ

タカシ

だって、浪人した分も数えたら、現役生の2倍は受けてる、ってことになるんだぞ？

タカシ

緊張感ゼロだったら、それはさすがに今までの2年何やってきたの？って感じだけど

ケント

緊張感ゼロなんて、そんなこと言ってねーだろ

ケント

ただ、現役生の方が勢いはある、っていうし

ケント

不安な気持ちも、少しはあるんだよ

タカシ

へーあるんだ

タカシ

お前が目指してる大学の先輩として言ってやるけど、

タカシ

ここにいる学生、結構優秀なヤツばっかりだぞ？

タカシ

お前、そんな中に入って4年間、やっていける自信あるの？

ケント

今は自信ないけど、でも、絶対に受かってみせるから

タカシ

あのさ、俺らが行ってた高校、県の中ではトップだったけど、

タカシ

全国で比べたらそこまでなんだよ

タカシ

なのに、この大学の医学部には賢い奴が全国のトップ高校から入学してくるんだ

タカシ

そんな環境の中で、勝ち残れる自信はあるのか？って聞いてるんだよ

ケント

自信が100％じゃなくても、これを最後に本当に、人生に区切りをつけるつもりだから

ケント

だから、これ以上俺の受験に口出しすんなよ

ケント

俺がどこを受けても自由だ

ケント

分かったな？

タカシ

せっかく俺が忠告してやってるのによ

タカシ

アドバイスは温かく受け取っておけばいいのに

ケント

いらねーよ

ケント

そんなアドバイス

タカシ

大人しく受け取っておけばいいのにさ

タカシ

そういうところ、昔から変わんねーよな

タカシ

頑固で、曲げないところある、っていうか

ケント

いちいち周りの目とか気にしてたら、何も進まないだろ

ケント

お前の言うアドバイス、とかいうやつも俺のことけなしてるようにしか思えないんだけど

タカシ

お前、絶対にうちの大学受験すること、後悔するぞ

ケント

今は先のこと考えるよりも、目の前のことに集中したいんだ

ケント

だから、今は受験に専念するのみ

ケント

受験勉強で忙しいんだから、これからはもうあんまり連絡してくるなよ

ケント

迷惑なんだから

～その年の秋～

タカシ

おい！ケント！

タカシ

お前、医学部受験辞める、って本当かよ！？

ケント

あれ、なんで知ってんの？

ケント

まだ誰にも言ってないのに

タカシ

今日、予備校の前通ったら、先生たちが話してるの聞こえたんだよ

タカシ

「うちに2浪して今年通って2年目の予備校生が来月で退塾する、って

タカシ

すぐにお前のことかな、って思ったんだよ

タカシ

で？本当なの？

ケント

本当だよ

タカシ

なんでだよ？

ケント

何でって...

ケント

なんか、数カ月前に言ってることと、言ってること違くね？

ケント

あんなに、俺のことバカにしてきたくせに

タカシ

いや、別にお前のこと心配してたわけじゃなくて、

タカシ

やっぱり、自信がなくなって怖気づいたんじゃねーのかな、と思ってさ

タカシ

そうなんだろ？

ケント

だから、違うって

ケント

実は...俺、アメリカの大学も同時に受験するんだよ

タカシ

は！？なんだって！？

ケント

アメリカの、経済学部を受験しよう、って最近決めたんだ

タカシ

何でまた、経済学部なんだよ

ケント

俺、医療に関わるの、って他の形でもできるんじゃねーかな、って思ってさ

ケント

経済学部に入って、外資系の医療系の商社に入って、

ケント

日本にも海外の技術を取り入れたいと思ったんだ

ケント

そうすれば、違った形で日本の医療に貢献できるだろ？

タカシ

まあ、そうだな...

タカシ

じゃあ、これからは自分で対策していくのかよ？

ケント

これからは、自分で勉強していこうと思う

ケント

予備校の対策とは内容が全く違うし、それじゃ自分のためにならないから

タカシ

そうかよ

ケント

それで、今は経済学部の勉強の方に対策をシフトしてるところ

ケント

まあ、つい最近まで第一希望だった医学部も、この前の模試でA判定取れたんだけどね

タカシ

え？マジで？

タカシ

いや、それギリギリのA判定とかじゃないの？

ケント

いや、順位も出たけど、結構上の方に入れたよ

タカシ

マジかよ...

ケント

なんか、ずっと医学部受験にこだわってたけど、

ケント

でも、他の視点から物事を見れるようになれて、視野が結構広がった感じはするよ

ケント

まあ、受験はこれからだし、まだ決まったわけじゃないからさ

ケント

気を引き締めて頑張らないとね

ケント

それで、タカシの方は？

タカシ

え？何が？

ケント

だから、タカシの方は大学の授業の方、どうなんだよ？

タカシ

あー俺は、まあ、楽しくやってるよ

ケント

なんで、そんな曖昧な返事なんだよ

ケント

まさか、あの噂本当なの？

タカシ

え？噂って、なんだよ

ケント

風邪の噂で聞いたんだけどさ

ケント

タカシ、この夏休みで遊びすぎで、1つ単位落としそうなんだろ？

タカシ

お前、なんでそれを知ってるんだよ

ケント

え、うそだろ

ケント

マジなんだ

タカシ

いや、マジ、って言うか...

ケント

本当は、追試も受ける予定だったんだ

ケント

でも、その追試も落ちて、留年、ってことになったってことか

タカシ

お前、そのことも知ってんのか！？

ケント

結構、知ってるやつ多いみたいだけど

ケント

俺ら、男子校でコミュニティー狭かったしな

ケント

高校の学年内では無駄に結束力固くて、今でも情報網張り巡らされてるし

ケント

もう、ほぼ全学年の奴らは知ってるんじゃないの？

タカシ

俺が、留年なんて知れ渡ったら、恥なんだよ

タカシ

頼むから、これ以上広めるのはやめてくれよ

ケント

広めるつもりはないけどさ

ケント

でも、もう親とか先生にも知られてるんじゃないの？

タカシ

マジかよ...

タカシ

俺、今1人暮らしで親にはこのこと、話してないんだよ

タカシ

知られたら、どうなるか...

タカシ

特に、親父からは何言われるか...本当に分からないんだ

ケント

そんなこと、俺に言われてもな

ケント

困るんだけど

ケント

まあでもさ、自業自得なんじゃね？

ケント

SNSでも、お前の投稿見てたけどさ

ケント

毎日、カラオケとか、祭りとか...

ケント

海でナンパもしてたんだろ？

ケント

そんなの、SNSに乗せて恥ずかしいと思わないのかよ

タカシ

そんなことまで、俺言ってたっけ！？

ケント

は？自分がしたこと、忘れてんの？

ケント

それはさすがにねーわ

ケント

自分が何してきたか、忘れて記憶にないほど遊んでたんだな

ケント

マジで呆れるわー

タカシ

お願いだから、俺の親にだけは言わないでくれ！

タカシ

ケントも、自分の親に俺のことで何か聞かれても、しらばっくれといてくれ

タカシ

親たちの噂は1日で広まるだろ...

ケント

いや、母さんも知ってたよ

タカシ

は！？お前、もう話したのかよ！？

ケント

違う、って

ケント

俺から話したんじゃなくて、母さんから電話してきたの

ケント

「タカシ君が留年するみたいねって」

タカシ

え！？

ケント

だから、たぶんタカシの親も、今頃どっかから聞かされてるんじゃない？

タカシ

そんな...やべーよ

タカシ

どうしよう...

ケント

まあ、自業自得だろ

ケント

トップの大学に受かって、浮かれて遊んでばっかりだったら単位も落とすし、

ケント

当然留年だってするだろ

ケント

それくらいの常識は、タカシでも分かってると思ってたけど

タカシ

イヤ...単位を落としたのは本当に惜しかったんだ...

ケント

え、でも2教科も落としたんだろ

ケント

それって、惜しいのか？

タカシ

教科数まで...お前誰から聞いたんだよ...

ケント

いや、だから掲示板とか噂だよ

ケント

まだ入学して1年目なのに、母校の恥になったな

ケント

また、1年頑張るしかねーな

タカシ

やべーよ...もう、俺生きていけない

ケント

まあ、周りと遅れてまた1年生、頑張れよな

～後日談～

ケント

俺は、無事にアメリカの大学に受かり、4月から入学することが決定しました

ケント

これから、受けた大学はアメリカの中でも名門なので、どんな授業を受けれるのか...

ケント

本当に楽しみで仕方がありません

ケント

ちなみに、医学部も一応受けてみたのですが、こちらも合格できました

ケント

もちろん、志望はアメリカの大学なので、気持ちよく入学は蹴らせてもらいました

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結城　真矢

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