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第1話 - あ

2023年05月11日

#恋愛

結城真矢

ユウ

ねえ、レイ。今日も帰りは遅くなるの？

レイ

ああ。仕事が立て込んでるから、１２時を過ぎると思う。

ユウ

そうか…あのね、この間の話だけど。

レイ

なんだよ。手短に話せよ。これから会議なんだよ。

ユウ

先月行った不妊治療の病院、次回は一緒に来て欲しいの。

ユウ

ご主人も連れて来て下さいって、また主治医に言われたのよ。

レイ

またその話？お前がどうしてもって言うから、検査も受けてやっただろう？

レイ

俺が通う必要なんてないし、お前だけ行けば問題ないだろうが。

ユウ

私だけ治療しても意味が無いのよ。医者にもそう言われてる。

ユウ

なんでそんなに他人事なの。

レイ

俺は何も問題ない。子供が出来ないのはお前が原因だ。

ユウ

そんな、決めつけないでよ。あなた、検査の結果も未だ聞いてないのに。

レイ

時間のムダだよ。いい加減にしろ。

ユウ

酷い。そんな言い方しなくても…。

レイ

で？話はそれだけ？もう時間だから。今日はもう余計な連絡してくるなよ。

ユウ

もう…。

～姑とのLINE～

エイリ

ユウさん、お元気そうねぇ。相変わらず毎日お仕事？

エイリ

お隣のお嫁さんはね、まだ２５歳なのに、もう３人目が出来たんですって！

ユウ

はぁ…それが何か？

エイリ

それが何か？じゃないわよ！あなたもう３０歳じゃないの。

エイリ

なのに子供の一人も出来ないってどういう事なの？

ユウ

申し訳ありません。色々頑張ってるんですけど。

エイリ

色々って何よ？仕事を頑張ったって子供はできないわよ？

ユウ

それはそうですが…。

エイリ

あなたねぇ、仕事ばかりで家庭をおろそかにしてるから、赤ちゃんが出来ないのよ。

ユウ

そうですかね。

エイリ

そうよ！女はね、結婚したら仕事をやめて夫を支えるものよ。

ユウ

はい。

エイリ

そして、家も自分も美しく整えていれば、旦那様も喜んで早く帰ってくるから、

エイリ

子供も自然に授かれるのよ。

ユウ

私に、仕事を辞めて欲しいという事でしょうか？

エイリ

だって、そうじゃなきゃレイが可哀そうよ。妻の方が立場が上なんて。

エイリ

管理職だか何だかしらないけど、女が出世したって、なんの役にも立たないわ！

ユウ

それは申し訳ありません。でもレイさんが仕事を続けてくれって言ってるんですよ？

エイリ

そんなの、あなたに気を使っているだけよ！そうに決まってる。

ユウ

そうでしょうか？収入が減るから働いてて欲しいって言われてるんですが。

エイリ

アナタが専業主婦になって、レイを支えてあげれば、あの子は出世するわ！

ユウ

ごめんなさい、おっしゃってる意味がわかりません。

ユウ

私が仕事を辞めると、どうやったらレイさんが出世するんでしょうか？

エイリ

だーかーらー！察しの悪い嫁ねぇ。

エイリ

レイをお仕事に集中させてあげれば、もっと稼げるようになるって事よ。

ユウ

あの～、今でもレイさん、毎日仕事が忙しいと言ってます。

ユウ

家に帰るのもいつも深夜過ぎですから、家の事は全部私がやってます。

エイリ

あら、それが何か？

ユウ

今でも十分、お仕事に専念出来てると思いますよ、レイさん。

エイリ

私は良い妻ですって言いたいの？

ユウ

いえ、別にそんなわけでは…。

エイリ

子供が出来ないんだから、嫁失格よ！

ユウ

えっ？

エイリ

あなたみたいな人の事を、世間で何て言うか知ってる？

エイリ

教えてあげるわ。「３年子無きは家を去れって言うのよ。」

ユウ

初めて知った言葉ですね。少なくとも学校では教わりません。

エイリ

学校で教わった事しか知らないの？これだからお勉強ちゃんはダメね。

エイリ

良い大学を出て、キャリアウーマンとか言っても、こんな嫁じゃレイが可哀そう。

ユウ

そんな言い方やめて下さい。すごく嫌な気分です。

エイリ

だって、レイは優しいからはっきりと言わないでしょう？

エイリ

あの子はね、あなたに愛想を尽かしているのよ。

ユウ

それ、本人が言ったんですか？

エイリ

私は母親だからあの子の気持ちがよーく分かるのよ。

エイリ

子供が出来ないのはね、あなたに魅力が無いからよ！

ユウ

え…。

エイリ

でも、面と向かってそんな事あなたに言えないじゃない。

エイリ

だから私が言ってあげないと。

ユウ

ご用件はそれだけでしょうか？私、仕事中なので、失礼します。

エイリ

ちょっと、失礼ね！まったくダメな嫁ねぇ～。

～部下・アンとのLINE～

アン

ユウさぁん、ちょっと相談があるんですけど。

ユウ

どうしましたか、アンさん。

アン

実は私、今度結婚するんです！授かり婚なんですよ～。

ユウ

それはおめでとう！ご出産はいつの予定？

アン

今、１６週目なんで、１２月に生まれます～。

アン

でもちょっと問題がありまして！彼がね、一緒に住むのはまだ無理なんだって。

ユウ

あら、どうして？妊娠しているのなら、すぐ入籍して一緒に住んだほうがいいんじゃない？

アン

ユウさんもそう思いますよね！実は相談ってその事なんです。

ユウ

その事って？

アン

ユウさん、今住んでるマンションを私に譲ってくれません？

ユウ

は？急に何を言うの？譲るわけがないでしょう。

アン

いいえ、譲ってもらいますよ。だって、お腹の赤ちゃんのパパはね。

アン

レイさんだもん！

ユウ

え…冗談でしょう。

アン

冗談でこんな事言いませんよ。レイさん、約束してくれたもん。

アン

嫁を追い出して、今のマンションに一緒に住もうって。

ユウ

本気で言ってるの？離婚なんて一言も聞いていないけど？

アン

だって、ユウさん、ちっとも妊娠しないでしょう？

アン

だからずっと前から離婚したかったらしいんだけど、

アン

レイさん優しいから言い出せなかったんだって。

ユウ

いや…レイは全然優しくないけど。それを言うなら優柔不断、だよね。

ユウ

それに、いきなりそんな話をされて、ハイそうですかなんて言うと思った？

アン

でも、別れてくれないと私たち結婚出来ませんし。

アン

お腹の子には罪は無いでしょう？赤ちゃんからパパを奪うつもりですか？

ユウ

そりゃ、そうだろうけど…自分たちが何をしたか分かってる？

ユウ

不倫よ？しかも住んでる家を追い出すとか、鬼畜としか思えない。

アン

鬼畜なんて酷い。ユウさんこそ、レイさんとお義母さまを散々苦しめたくせに！

ユウ

何を言ってるの？お義母さまって、まさか…。

アン

そのまさかです。実は、もうお義母さまにもご挨拶済です。

アン

私の妊娠の事をお話したら、すごく喜んでくれましたよ！

ユウ

呆れた。

アン

ユウさん、義実家にも相当嫌われてたんですねぇ。

アン

お義母さまも、「はやく今の嫁を追い出せってレイさんに言ってましたよ。」

ユウ

それで、レイは何て言ってた？

アン

母さん分かったよって。親孝行がやっと出来てうれしいって泣いてました。

ユウ

そんな…。

アン

わかったら、１日も早くマンションから出て行ってくださいね。

アン

レイさん、しばらく帰らないそうです。

アン

私ね～、ユウさんがいきなりショックを受けたら可哀そうって思って、

アン

先にお話ししてあげたんですよ。優しいでしょう？

ユウ

いろいろ言いたい事はあるけど…。

ユウ

マタハラなんて言いがかりをつけられたら困るから、今は黙っておくわ。

アン

そうですかぁ。良いお返事をお待ちしてますね～。

～一週間後、家族LINEにて～

レイ

ユウ、話があるんだけど。

ユウ

話？その前に、何日も帰らないで、一体どこにいるの。

レイ

実家だよ。親にも聞いてもらいたい話なんだ。

ユウ

そう。お義母さまが味方についてるという事ね。

レイ

人をマザコンみたいに言うなよ！

ユウ

話って何かしら？

レイ

ユウ、離婚しよう。実は俺、子供が出来た。

ユウ

ふーん、そう。それで？

レイ

やけに冷静だな。離婚、してくれるのか？

ユウ

その前に、やらなきゃいけない事があるんじゃないの？

レイ

ああ、そうだな。お前、まずマンションをすぐ出ていけ。

ユウ

え？私が出ていくの？どうして？

エイリ

当たり前でしょう！あなたのせいでレイが苦しんでいたのよ。

ユウ

あら、お義母さま。急に出てくるから驚きました。

レイ

この為に俺の実家との家族LINEを作っていたんだよ。

レイ

きっと揉めるだろうから、親に協力してもらおうと思ってさ。

ユウ

呆れた。こんな大事な話も一人で出来ないなんて。正真正銘のマザコンね。

レイ

おい！マザコンって言うな。

ユウ

そんな事より、女を妊娠させたのは本当なのね？

ユウ

この間、その本人から連絡があったわよ。私の部下と不倫なんて…。

ユウ

いい度胸しているわね。ただで済むと思ってるの？

レイ

もう知っていたのか。なら話が早いな。そうだよ、俺の彼女はアンだ。

ユウ

彼女？不倫相手でしょ。日本語は正しく使ってね。

レイ

どうでもいいだろ！いいか、俺はお前の不妊症のせいで何年も苦労した。

レイ

そんな時に出会ったのがアンだよ。彼女はいつも笑顔で俺を癒してくれた…。

ユウ

はぁ。

レイ

俺にとってはかけがえのない女性だ。しかも俺の子を産んでくれる。

レイ

お前は、そんな彼女を泣かせる気か？そうはさせないぞ。

ユウ

え。私が加害者扱いなの？

レイ

そうだよ。俺は何年も我慢してきた。彼女とずっと一緒になりたくて。

ユウ

ふーん。

レイ

アンを幸せにしてやりたいんだ。

ユウ

そう。

レイ

だから、慰謝料はお前が払え！俺達を何年も苦しめた代償に、マンションもよこせ。

エイリ

レイの言う通りよ。慰謝料とマンション、あなたにはそれを差し出す義務があるわ。

ユウ

親子で何を言ってるんですか？慰謝料もマンションも、渡しませんよ。

レイ

へ？

ユウ

だって、当たり前でしょう？マンションは名義もローンも全部私よ？

エイリ

なんですって？マンションはレイの物じゃないの！

ユウ

ん？レイ、あなたお義母さまに本当の事を言ってなかったの？

レイ

あ、いや、その。

エイリ

レイ、どういう事なの？母さんには「マンションの名義は俺だって。」

ユウ

お義母さま、レイさんに騙されたんですねww。

エイリ

へ？どういう…。

ユウ

お義母さま、レイさんが４０歳近くになるのに、なんの役職にもついていない事、

ユウ

不思議に思いませんでしたか？

エイリ

それは、レイの足をあなたがひっぱるから。

ユウ

違いますよ。レイさんはね、会社の昇進試験に何度も失敗してるんです！

エイリ

なんですって。

ユウ

５年連続で落ちたから、もう再試験の受験資格すら無いんです。

エイリ

嘘でしょう？

ユウ

本当ですよ。つまりレイさんは、もう出世の見込みが無いという事です。

ユウ

年収も低いままだったから、レイさんの名義ではローンが組めなかったんです。

エイリ

レイ…それは本当なの？

レイ

ああ。母さんには黙っていたけど、その通りだよ。

ユウ

だから、私の名義でマンションを買って、ローンを組んだんです。

レイ

でも、それとこれとは話が別だろう？お前は稼いでるんだから。

レイ

稼いでいる方が慰謝料を払うべきだろう？なぁ、母さん。

エイリ

そうよ。なによ、自分が出世してるからって、嫁のクセに偉そうにして！

ユウ

私は、レイさんを大切にしてきたつもりですよ。

レイ

は？どこが？俺は優等生ぶったお前が憎かったんだよ！

ユウ

残念ね。私も、もうあなたの事なんていらないわ。

ユウ

あなたが家に帰らずフラフラしている間、何も手を打たなかったと思った？

レイ

へ？お前に何が出来るって言うんだよ。仕事しか能がないくせに！

ユウ

ほんと、あなたって頭も残念ね…私、どこが良くてあなたと結婚したのかしら。

レイ

なんだと？

ユウ

あのね、そろそろ彼女のところにもお手紙が届いていると思うわよ。

レイ

手紙って、誰から？

ユウ

決まってるでしょ。弁護士よ。彼女に慰謝料請求の内容証明を送ったわ。

レイ

はぁ？

エイリ

弁護士？なんでそんなものを雇ったのよ。

ユウ

決まってるでしょう。これ以上あなたたちに好き勝手にさせない為よ。

レイ

お前、どうするつもりだ？

ユウ

あなたにも慰謝料を請求します。自分で不倫を認めているんだから、逃さないわよ。

レイ

そ、そんな…。

ユウ

あともう一つ。マンションは売却手続きしました。

レイ

なんだと！勝手な事をするな。俺の家でもあるんだぞ？

ユウ

はいはい。でも、あなたには何の権利もありませんから。

ユウ

カギも変えちゃったから、もう勝手に部屋にも入れませんよ。

レイ

ふざけるなよ、俺は、明日からどうすれば。

ユウ

あなたには彼女とお義母さまがいるじゃない♪

レイ

荷物はどうするんだ。俺の私物が色々残ってるだろう。

ユウ

それも追って、ご実家に送りますよ。ご心配なく。

レイ

待ってくれよ。まさか、会社にはこの事は言わないよな？

ユウ

うーん。私からは特にいうつもりはないけど。

レイ

けど、なんだよ？

ユウ

この間、アンさんのところに取引先の男性が訪ねてきたわよ。

レイ

それが何なんだ。

ユウ

さあね？彼女、モテるみたいだから…。何かもめてたわよ。心配なら本人に聞いたら？

レイ

まるで彼女が浮気したみたいな言い方だな？彼女はそんな子じゃないぞ。

ユウ

そうかしら？それからレイ、あなた。

ユウ

結局、不妊治療の病院は一度行ったきりだけど、本当にもう行かなくていいの？

レイ

俺には必要ないって言っただろう。現に、彼女が妊娠しているわけだし。

レイ

それにお前とは離婚するんだから。

ユウ

そうよね。じゃぁ、いいわね。

レイ

何が言いたいんだ？

ユウ

いいえ、別になにも。慰謝料はきっちり払ってもらうわよ。

レイ

いや、金がないから無理だって…。

ユウ

じゃ、借金して払ったら。アンさんと二人で頑張ってね。

レイ

そんな…。

～１年後～

ユウ

その後、弁護士の交渉のお蔭で、レイもアンも慰謝料の支払いに渋々合意した。

ユウ

アンは、派遣先の社員であるレイと不倫の末、略奪デキ婚した事が問題視され、

ユウ

ウチの会社との契約は打ち切りとなり、派遣元もクビになった。

ユウ

レイはというと、不倫の噂はアッという間に会社中に広がり、

ユウ

肩身が狭くなったのか、子供が生まれる前に自主退職した。

ユウ

現在は、自分の実家で、アンと赤ちゃんを連れて、あの義母と同居しているそうだ。

ユウ

お金も職も無く、あの意地の悪い義母との同居である。

ユウ

毎晩のように家族喧嘩の怒鳴り声が響き渡り、近所の噂の的となっているそうだ。

ユウ

義母にしてみれば、老後の人生設計が大きく狂ったと言える。

ユウ

それに、離婚直前に受けていた病院での検査結果だが…。

ユウ

私の方は問題が無かったが、レイの結果は「自然妊娠の可能性は極めて低い」

ユウ

という衝撃の結果であった。

ユウ

では、アンが産んだ子は一体誰の子だろう？

ユウ

異性関係が派手だったアンの本性に、レイも気づいた頃だろうか。

ユウ

敢えて、レイに本当の地獄を見させるために、私はその検査結果を伝えなかった。

ユウ

真実が明らかになった時、彼らがどう壊れるか、誰にも分からない。

ユウ

でも、そんな苦い思い出は胸にしまって、そろそろ新しい幸せを探そうと思うのだ。

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結城真矢

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