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ガタンゴトン…
電車の車輪の音が心地よく耳に入ってきて目が覚めた。
涼架
思い出そうとしても頭の中が霧で覆われたように何も思い出せない。 でも、何故か怖くない。
むしろこのままこの電車に乗っていれば大丈夫な気がした。
窓の外を見ると一面に田んぼと青空。 まるで地元の長野に居るみたいでとても安心する。
涼架
しばらく見ているだけで癒される景色を眺めていると、だんだん電車の速度が緩やかになって車窓さんのアナウンスが響いた。
〜次は永天町前。永天町前です。この電車はこの駅で終点となります。お忘れ物のないようお気を付けてください。〜
涼架
電車を降りると、爽やかな暑さと夏の香りに体が包まれた…気がした。
涼架
周りを見ると何人か降りてる人がいて、その人たちも体をぐっと伸ばして夏の香りを楽しんでいる。
ここはどうやら無人駅のようで駅員さんは居なかった。 ここがどこか聞きたかったけど、初めて来た土地を何も知らないまま楽しむ事にした。
涼架
しばらくぼうっとしてしまっていたのか、周りには誰も居なくなっていて慌てて駅を出た。
涼架
改札機に切符を入れて駅から飛び出すと、目の前に絵に描いたような日本の夏が広がっていた。
涼架
元貴や若井ほどじゃないけど最近は忙しくさせてもらっていたから存分にこの景色と空気を堪能しよう。 そんなふうに思いながら田んぼ道を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
おばあさん
おばあさん
振り返った先にいたのは不思議な生き物と森で出会う物語の中にいたお婆さんがそのまま現れたかのような人だった。
そんな驚きと、女性に間違えられたことに動揺して少し返事が遅くなってしまった。
涼架
するとおばあさんは申し訳なさそうに謝った。
おばあさん
じんわりと汗をかく程度には暑かったから魅力的なお誘いだけど、女性に間違えられる事は少なくないし突然おじゃまするのは申し訳ないから断る事にした。
涼架
おばあさん
おばあさん
手を握りながらそう言うおばあさんに俺は正直押されていた。
涼架
おばあさん
涼架
涼架
おばあさん
おばあさん
長野から出て俺も東京に染まったみたい。久しぶりにこういう場所の人特有の暖かさに素直に甘えたくなった。
涼架
おばあさん
おばあさんは優しく、豪快に笑いながら俺の背中を叩いた。
涼架
おばあさん
重たそうな風呂敷を持ちながら歩き出すおばあさんの後ろに駆け寄り、荷物を持とうとする。 こんなに暑いのにそんなおもそうなものを持つなんて心配すぎる。
涼架
おばあさん
おばあさん
手を振りながら笑うおばあさんに俺はこの人なら大丈夫という謎の確信を持ち、言われた通りのんびり着いて行くことにした。
・ ・ ・ ・
セミの鳴き声、透き通った川の水の流れの音、どこからか聞こえる風鈴の音を楽しみながらのんびり歩いていると、おばあさんが大きな家の前で立ち止まった。
おばあさん
涼架
その家は日本人なら誰しも1回は住んでみたいと思うような日本家屋だった。
まさか、そんな素敵な家に泊めさせてもらえる事になるなんて思ってもいなかった俺は驚いて声が出なかった。
おばあさん
驚いてる俺に謝るおばあさんに慌てて弁明した
涼架
語彙力が無くなった俺が何とか伝えようとわたわたしてるとおばあさんがまた豪快に笑った。
おばあさん
確かに俺も東京に来るまではでっかいタワーマンションの最上階に住んでみたいと思っていた。 でも東京で過ごしてからは、まさにこのような家に住んで長閑な場所でゆっくり過ごしたいと思うようになったし、周りの人もよくそう言っていたのを覚えている。
涼架
おばあさん
涼架
おばあさん
この先どうするか決めていなかったからこのおばあさんのお言葉に甘えてしまおう。なんだか最近はすごく疲れて、休めた気がしなかったんだ。ここで沢山癒されよう。
涼架
何故かどこからか呼ばれている気がしたけど気にしない事にした。
ここに来て1週間。 ご近所さんや少し離れた人たちとも仲良くなれてきた。
最近の日課になってる朝の散歩に行くためにストレッチをしていると、軽い足音が近づいてきた。
彼方
涼架
彼方くんは俺が住まわせてもらってるこの家から少し離れた場所に住んでる男の子で、朝のお散歩中に出会って仲良くなった。
今日も元気に虫取り網と虫かごを肩にかけて、汗を光らせながら手を振り走ってくる。
涼架
彼方
涼架
彼方
涼架
彼方
ここから見えるあの山は、まだ一度も行ったことがないけど近所の人からあそこはとても綺麗なんだと教えて貰っていたのですごく気になっていた場所だった。
涼架
彼方
お散歩の行き先を考えていたし、ちょうどいい話を聞けてラッキーだ。
涼架
涼架
彼方
涼架
おばあさん
涼架
ばいばーいと手を振りながら田んぼ道の方へと走っていく彼方くんを見送りながら、のんびりと山へと向かった。
彼方くんと別れてから多分30分、木の影で涼しい山道を歩いていると山の頂上に続く階段にたどり着いた。
涼架
正直こんなに階段登るの辛いかもなんて思ってたけど、セミの鳴き声や木漏れ日に癒されながら歩いていると気がつけば鳥居の手前まで登ってきていた。
涼架
鳥居をくぐって参道へ足を踏み入れると、外の暑さがふわりと和らぎ、蝉の声も遠くなった。 代わりに風が梢を揺らす音と、どこからか流れる水の音が聞こえてきた。
そしてひんやりとした空気が肌に触れた瞬間、なぜだか胸の奥が軽くなったような気がした。 ここに来れば、何か良いことが起きそう。
涼架
鈴を鳴らし、深く二回礼をして、柏手を二回。 柏手の音が境内に響き、空気が少しだけ澄んだように感じた。
元貴と若井とまた会えますように。
自然とそんな願い事が浮かんだ。
涼架
もしかしてこんな素敵な場所に1人でいるのが勿体なく思って出てきたのかもしれない。 次は2人も一緒にここに来たい。
涼架
涼架
落ち込んだ自分に言い聞かせるようにしながら参道から外れた。
風鈴の音とお線香の香りがする方向に歩くと、木の札に「おみくじ」と書かれた小さな小屋が見えてきた。
涼架
小さな賽銭箱に100円玉を落とすと、澄んだ金属音が静かな境内に響いた。 そっと手を伸ばし、おみくじを一枚引き抜く。
涼架
大吉じゃなかったのがちょっとだけ悔しいけど、解説を見てみることにした。
『今は道まだひらけり。 されど急ぎて帰るべし。 心通ふ縁むすべば、 その日より戻る道、永く閉ざされん。』
…なるほど、深い。 仕事運とかは書いてないけど一番下に気になる事が書いてあった。
涼架
待ち人ってどういう意味だ?でもとりあえずお参りもおみくじも引けて満足。
懐かしい雰囲気もして帰るのが名残惜しいけど、もう帰ろう。
涼架
それにしてもなんだかんだ今までは持っていた食べ物を食べてたから、ここに来て初めての現地の食べ物だなぁ。 これからご飯とかどこで買ってるのかとかも聞かないと。
階段をゆっくり降りながらそんな事を考えていると、
?
涼架
その声が響いた瞬間、蝉の声がぴたりと止まって境内を包んでいた夏の熱気が一瞬だけ引いたように感じた。
涼架
振り返った先には撮影の時のような華やかな衣装ではなく、普段着の大森、若井が手を振っていた。
元貴
滉斗
暑さのせいか確かにそこに居るはずなのに、なぜか二人の輪郭が夏の陽炎のように揺らいで見えた。
でもそんな事より嬉しさと驚きの方が大きい。
涼架
階段をかけ登ると2人に抱きつかれた。
2人は木陰に居たせいか少し冷えていて、日向に当たってて少し暑かった俺にはひんやりして気持ちよかった。
涼架
元貴
滉斗
涼架
滉斗
元貴
涼架
元貴
滉斗
元貴は笑いながら腕を肩にかけてくるけど、若井は一瞬、俺を頭のてっぺんからつま先まで眺めた。 まるでどこかに傷や欠けがないか確かめるように。 でもすぐに、いつもの明るい笑顔に戻った。
涼架
涼架
滉斗
若井が俺のほっぺを突きながら笑った。
元貴
涼架
涼架
冷蔵庫に入れて冷え冷えのスイカがあるのを思い出すとなんだかお腹がすいてきた。
滉斗
涼架
元貴
楽しそうに前を歩き出した2人の背中を見ながら、汗を拭った。
道の端に咲く向日葵や遠くで響くセミの声に耳を傾けていると、ふと疑問が浮かんだ。
2人は今までどこに居たんだろう。
涼架
滉斗
涼架
元貴
元貴が指さすのは俺があのおばあさんから借りてた家とは真逆の方向にある古民家だった。
涼架
元貴
涼架
元貴
涼架
元貴
涼架
俺も最近ここになれてきて散歩とかするようになったから、元貴達もそうなのかもしれない。 それに場所も真逆だしそりゃ気づかないよね。
そのままたわいない話をしながら歩いて、俺が住まわせてもらってる家に着いた。
涼架
滉斗
涼架
滉斗
元貴
滉斗
涼架
涼架
そんなやりとりをしながら縁側に座ってスイカを切って食べた。 甘くて冷たい果汁が喉を通るたびに、なんだか理想の夏休み!って感じで楽しかった。
スイカを食べて、それからずっと話し倒して夜ご飯にそうめんを食べた俺たちは3人で川の字になって眠った。
コメント
2件
すごい好きです!でもなんでここにいるのか、若井が涼ちゃんに傷がないかを確かめてるような視線が気になる……
誤字があったらすみません🙏