コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
はじめまして うなです
テラーノベル初心者です
初投稿です
『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話』
この作品は森田碧さんの作品を参考にしています
ふと顔をあげると、窓に雨粒が張り付いているのが見えた。
うり
一週間の検査入院もようやく終わりだ。
同時に春休みも今日で終わる。
うり
というよりも、とりあえずなれた、と言うべきかもしれない。
三年生になれる保証は僕にはない。
窓の外を眺めていると、扉がノックされた。
妹
顔を覗かせたのは僕の妹。
お母さん
お母さん
うり
うり
両手いっぱいに荷物を持ち、病室を出る。
お母さん
お母さん
うり
僕はむすっと答えた。
妹
そのときだった。
エレベーターに向かう途中の通路で、
ひとりの少女が前方から現れた。
パジャマを着ているのでおそらく入院患者なのだろう。
艷やかなピンク色の髪を揺らしながら、彼女は姿勢よく歩いている。
すれ違う瞬間、彼女と目が合った。
一瞬の出来事だったのだが、ゆっくりと時間が進んでいるような感覚に陥った。
瞬きをすると、再び時が動き出したかのように彼女は歩き去っていった。
僕は振り返り、目で追う。
すると、談話室の窓際で、スケッチブックを広げ、絵を描きはじめた。
妹
うり
曲がり角でもう一度振り返ると、彼女は眠たそうに小さく欠伸びをしていた。
彼女はどうして入院しているのだろう。
なんの絵を描いているのだろう。
帰りの車の中で、僕は名前も知らないあの少女のことを考えていた。
その日から僕は、絵を描くたびに彼女のことを思い出すようになった。
退院後、教室で、窓の外をぼんやり眺めることが増えた。
先生
先生
うり
窓の外から黒板へ視線を戻す。
そういえば、今は数学の授業だったことを思い出した。
教科担当の山崎先生が僕を睨んでいる。
でも、そんなことはどうだっていい。
僕には未来がない。
数学を勉強したところで、なんの役に立たないのだから。
もう一度外に視線を移す。
るな
うり
僕に小声で注意してきたのは、右隣に座る幼なじみの水本るなだ。
ニコッと愛らしい笑顔を見せ、彼女はポニーテールにした髪の毛を揺らして黒板の方に向き直る。
るなは一生懸命ノートを取っている。
ノートにはびっしりと数字が書かれていて、なにかの暗号のように見えた。
それに比べて、僕のノートは真っ白だ。
一ページを戻すと、そこには授業の暇つぶしに描いた、るなの横顔の絵がある。
六十七点、と点数をつけた出来の悪い絵だ。
僕の学習のノートは、今やスケッチブックになっていた。
先生
先生
先生がそう言うと、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、本日の授業は全て終了した。
静まり返っていた教室は一気に騒がしくなった。
るな
るなが心配そうな眼差しで僕に問いかける。
うり
るな
うり
鞄を肩にかけて教室を出ようとすると、
るな
と再びるなに声をかけられ足を止める。
るな
るな
うり
うり
るなはなにか言いたそうに口を開きかけたが、僕は構わず教室を出た。
ゆあん
ゆあん
教室を出たところで、今度は違うクラスの田中ゆあんに声をかけられ、再び足を止めた。
彼も幼なじみで、小、中、高と同じ学校だ。
赤いメッシュの爽やかなゆあんはなんの特徴もない僕とはちがい、女子からの人気が高い。
おまけにサッカー部のエースでもある。
うり
うり
ゆあん
ゆあん
うり
うり
ゆあんもなにか言いたそうにしていたけれど、僕ら彼に背を向けて歩き出した。
僕の悩みは重すぎる。
人に相談して解決できるものなら、とっくに相談している。
誰かに話したところでどうにかなる問題ではない。
たとえ親友だろうと誰だろうと話すつもりはなかった。
歩いてバス停まで向かい、バスを待つ。
バス停には続々と同じ学校の生徒たちが集まってきて騒がしくなる。
アホみたいに笑う彼らを見て、無性に腹が立ってきた。
モブ
その言葉に、僕は反応してしまう。
『死ね』なんて言葉を軽々しく口にするな、
と言ってやりたかったけど、ぐっと言葉を飲み込んだ。
かく言う僕も、昔はよく『死ね』という言葉を軽々しく使っていたのだ。
その言葉が巡り巡って僕に跳ね返ってきたのかもしれない。
バスが到着すると、静かな一番前の席に腰掛けた。
後ろの席は決まって三年生の先輩が座るので騒がしい。
なので、僕はいつも空いていたら運転手のすぐ後ろに座るようにしていた。
今日も無心でぼんやりと窓の外を眺める。
いつもと変わらない景色が流れている。
九つ目の停留所でバスを降り、そこから十分ほど歩くと、見慣れた自宅が見えてくる。
今日もあっという間に一日が過ぎていく。
僕に残された時間は、あとどのくらいあるのだろうか。
近々死が確定しているのにその日が分からない。
余命一年。
高校を卒業できるか分からない。
今から約二ヶ月前の高校一年生の冬、僕は医者にそう告げられた。
絶望
その二文字が僕の頭の中を駆け巡った。
思い起こせば、僕はなにかと運の悪い人間だった。
というより、不運な方の当たりをよく引いていた。
今まではべつに死ぬわけじゃないから、まあいいか、と軽く受け流してきた。
しかし、今回はそういうわけにはいかない。
僕はまたしても不運な当たりを引いてしまったのだ。
それはまだ寒さの厳しい二月のことだった。
学校の帰り道、自転車を漕いでいると突然激しい動悸に襲われ、呼吸困難に陥った。
自転車を降りてうずくまっているところに、犬の散歩をしていたおばさんが偶然通りかかった。
おばさん
おばさん
うり
と僕は手でそれらを制し、何とか起き上がって自転車を引き、その場を離れる。
近くの公園のベンチでしばらく休むと落ち着いたが、こんなことは初めての経験だったので、親に報告し、念のため病院に連れて行ってもらった。
検査の結果、心臓に腫瘍が見つかった。
非常に稀な病気で、進行具合や腫瘍の位置が悪いことから手術で取り除くことは難しく、
打てはないのだという。
悪性腫瘍の場合は移植手術をすることもできないらしく、
その話を聞いて僅かな希望さえも潰えた。
うり
それは約半年前、祖母が癌を患い、余命宣告をされたときに僕が両親に告げた言葉だった。
そのときは絶対にその方がいいだろうと思っていた。
しかし、今になって僕は後悔していた。
聞かなければよかった、
知らない方がよかった。
両親はなんの躊躇いもなく僕を検査室に呼び、
そして担当医の先生は静かな口調で余命宣告をした。
最初は意味がわからなかった。
余命一年だと告げられても、実感があるはずがない。
あと一年で自分が死んでしまうなんて、まったく想像がつかなかった。
お母さん
静かに家に入ると、僕に気づいた母さんが言った。
うり
僕の病気のことを知っているのは、父さんと母さんだけだ。
この春から中学生になった妹には言っていない。
妹
階段を上がり、二階にある自室に入って鞄を下ろすと、妹がノックをせずに部屋に入ってきて、数学の教科書を見せてきた。
うり
家ではなるべくいつもどおりを装う。
妹の勉強を見終わり、パソコンを開く。
楽に死ねる方法
ここ最近はそんなことばかり検索している。
迫り来る死の恐怖に怯えるよりも、自ら死を選ぶ方がいいのではないか。
しかし、僕には自ら死ぬ勇気がない。
今日こそは死のう。
いや、やっぱり明日にしよう。
そう思い続けて何日過ぎたことだろう。
きっと、僕が自殺を決行するよりも、心臓が止まる方が先だと思う。
パソコンを閉じてベッドに大の字で寝転ぶ。
僕はなぜ、こんなにも不幸な人間なのだろうか。
そう考え出すと止まらない。
勉強机に座り、スケッチブックを開く。
先日買ってもらったデッサン用の鉛筆を取り出し、描いていた絵の続きを描くことにした。
ふいにひとりの少女の顔が頭に浮かび、僕は手を止めた。
病院の通路で邂逅したあの少女だ。
彼女も今頃、ひとり寂しく絵を描いているのだろうか。
僕は鉛筆を置いて天井を仰ぎ、ふうっと息をついた。