まだ寒い春先の日。 私の村は、大きな炎の海に覆われていた。
村の人達が焦った様子で村を出ようとする。
…だけど、次に目を開けると 周りは血の海に覆われていた。
私は殺されていく村の人を、ただ呆然と見ることしかできなかった。
男の野太い叫び声ではっ、とする。
あの声は父の声だ。
私は震える足にムチを打って走り出した。
父さま、と言おうとする前に息をのむ。
誰かが父さまを捕らえている。
思わず後ずさると、音が鳴ってしまった。
すると、父さまを捕らえていた男は
男
確かに、そう言った。
だが、華乃という女性は知らない。
誰だ、と考えていると
男
そう、男に聞かれた。
私は小刻みに震えながら首を縦に振った。
すると、その男は言った。
男
華乃とは一体誰だろう。
あぁ、そういえば…4年前に行方不明になった母さまがそんな名前だったかもしれない。
詳しく教えてもらってないから 何もわからないけれど。
それで、何故この男は母さまの名と 私の存在を知っているのだろう?
何も答えない私を横目に、男が父さまを 刺そうと剣を強く握り直す。
私は咄嗟にそう叫び、着物の中に隠しておいた苦無を持って構える。
男
…厳密にいえば、私はくノ一ではない。
少しだけ、母に教わった事があるだけだ。
それでも母は素質があると褒めてくれたが。
男
そう言って、男は私の方に剣を向ける。
男
全身に悪寒が走る。
こいつは私を本気で捕らえようとしている。
私は少しだけ考えて、男の方に体を向けた。
男
男もまた少し考え、すぐにこちらを向いた。
男
男
男
男は笑いながら、門番に声をかけに行った。
その笑い声は、ずっと耳に残る感じがして とても、とても不快だった。
何もなしにこの村を出るわけにはいかないと思い、自分の髪を触る。 私は覚悟を決めて、髪に苦無をかける。 これは私の覚悟だ。 ただ、自慢の髪だったのだが。
私は少しだけの荷物を持ち、村の入り口へ向かった。
道中、悲惨に切り刻まれた村の人達の死体が目に入る。
助けられなくてごめんなさい。
ちゃんと埋葬できなくてごめんなさい。
せめてこれだけでも、という思いで手を合わせる。
たしか母は、ここから北東にある『ニンジュツガクエン』という所でくノ一になった。
厳しい道のりなのは重々承知の上。
それでもでも、私に進む以外に道は 残されていない。
私は、生きる。絶対に。
そう思いながら、門に足をかけた。
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