テラーノベル
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消毒液の匂いは、どこでも同じだ。 それが血の匂いを隠すためのものだということを、 膵(すい)はよく知っている。
簡素な医務室。 ここは病院じゃない。 それでも、必要最低限の器具だけは揃っていた。
ベッドの横で、膵は黙々と手袋を外す。
膵
淡々とした声。
ベッドに横たわる男は、礼も言わずに立ち上がった。 ここでは、それが普通だ。
ドア枠にもたれていた灰谷蘭が、軽く笑う。
蘭
蘭
膵は器具を片付けながら答える。
膵
視線すら向けない。
蘭は一瞬だけ黙ったあと、面白そうに口角を上げた。
蘭
今度は背後から低い声。
三途春千夜だった。 鋭い目で、膵を観察するように見ている。
春千夜
その質問に、膵の手が一瞬だけ止まる。
けれど、すぐに動かした。
膵
少し間を置いて、答える。
膵
三途の眉が、ぴくりと動いた。
春千夜
膵はようやく顔を上げる。
膵
まるで、 最初から線を引いているような言い方だった。
その声で、空気が変わる。
いつの間にか医務室の奥に立っていたのは、 佐野万次郎だった。
万次郎
万次郎は楽しそうに言う。
万次郎
膵は否定しなかった。
膵
万次郎
万次郎が促す。
膵は、ほんの一瞬だけ目を伏せてから言った。
膵
その言葉は、 あまりにも静かで、 あまりにもはっきりしていた。
蘭が笑うのをやめる。
三途は、膵をじっと見つめたまま動かない。
万次郎だけが、満足そうに言った。
万次郎
万次郎
万次郎
その時は、まだ誰も気づいていなかった。
この女医が言う 「救えないもの」の中に、
最初から 自分自身を含めていたことを。
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