若井滉斗side.
この町には
もう二度と会えない人に会える
奇跡の電車がある
午後八時八分八秒
その時間ぴったりに
普段は使われない古びた駅のホームに
真っ白な電車が止まる
その電車に乗れば
もう二度と会えない人に
会うことができるらしい
そんな噂が俺の住む町には流れていた
小さい頃から大人になるまで
その噂は形を変えず残っている
大人が子供にその噂を教え
聞いた子供がまた噂を広めていく
みんながその噂を何となく信じる中
俺は信じてはいなかった
普段使われないホームに電車がくる?
子供騙しのような、そんな噂、信じる暇もない
日々追われ続ける仕事に
上がっていく会社からのノルマ
最初こそ楽しいと思っていた仕事は
いつしか苦痛に変化した
毎日のように上司から浴びせられる罵詈雑言に
同僚からの些細な嫌がらせ
昔からみんなの輪に入っても
いつの間にか孤立してるんだよな
いつの間にかみんなからきらわれてる
昔からずっとそうだった
いつものように公園のベンチに座ってコーヒーを飲む
会社終わり、立ち寄る公園でのいつものルーティン
苦いコーヒーを飲みながら目を閉じる
目を閉じて思い出すのは
切れ散らかす上司の顔と
にやにや笑う同僚の顔
は、と短く息を吐く
生理的な涙が目に浮かび
段々と息が荒くなっていく
胸を掻きむしりながら
思い出すのは
学校で孤立していた日々
人気があって優等生だった元貴とは違う
みんなの輪から外れて机に向かう
明らかなはずれもの
だった自分
その頬はちょっとだけ濡れていて
唇は少し噛み締めて
この光景は過呼吸を起こすと必ず見る
ごめんね
もうちょっと俺が
みんなとうまくやれる子供だったら
あんな顔させずに済んだのかな
生理的な涙が目に浮かぶ
もう自分でも何がしたいのかわからない
ブラック企業で上司や同僚に嫌がらせをされ
それでも他の会社にいってやっていけないから
必死に食らいついて
生きていく上で最低限のお金をもらう
そんな日々に、意味なんてあるのか
過呼吸が治まり
いくら考えたって仕方ないと目を閉じる
すると、隣から声が聞こえてきた
fjsw.
目を開けると
暗い夜の闇の中
優雅に微笑む男の人がいた
fjsw.
『月下美人』 連載StaRt.
若井滉斗 ブラック企業で働く会社員。 夜の公園でコーヒーを飲むのが趣味。理由は落ち着くから。 幼馴染が一人いる。親しい友人は特にいない。 藤澤に惹かれ始める。
藤澤涼架 夜にだけ若井の前に現れる男の人 聞き上手で絶対に自分のことは話さない 大森元貴の知り合い
大森元貴 若井滉斗の幼馴染。 今は作曲家として活動している 藤澤の知り合い。 藤澤が夜にしか現れない理由を知っている。
コメント
5件
すごい、好き!大森さんは若井さんと同級生。藤澤さんは大森さんと関係がある…3人の絡みとか関係性が気になる、! 続きが楽しみ✨
こうゆう闇の中に少し光がある感じの作品大好き。続き楽しみ!
なんだなんだ、、、 夜のはなしはすきだから楽しみ…!!