口に広がるほろ苦い珈琲を味わう。
程よく賑わう店内の音が心地良い。
珈琲割賦をテーブルに置いて、 読んでいた本に視線を移した。
太宰治
おねーさん
と、正面から声が聞こえる。
本から顔を上げると、 片目に包帯をした少年が立っていた。
目が合うと、ニコッと微笑む。
太宰治
お姉さん暇?
太宰治
好かったら僕とお茶しない?
そんなナンパの決まり文句と容姿は一致しない。
汐崎〇〇
( 言ってみたかったのかな?笑 )
汐崎〇〇
其処の席にどーぞ?
そんな風に心の中で微笑ましく思い乍ら、
私は正面の席に座るよう促した。
太宰治
わぁい、ナンパ成功だ
嬉しそうにるんるんと席に座る男の子。
汐崎〇〇
ひとり?
太宰治
うん、仕事終わりなんだ〜
仕事…。苦労している子なのだろうか。
そう思ったから、深くは聞かなかった。
太宰治
…僕について質問してこないの?
汐崎〇〇
え?まあ…
汐崎〇〇
余り深入りはしない主義だからね
太宰治
へえ、ふふふっ
と、男の子は私の言葉に目を丸くすると、
面白そうに笑った。
太宰治
僕お姉さんの事気に入っちゃった
太宰治
ねえ、また会いに来て良い?
汐崎〇〇
良いよ、もちろん
太宰治
じゃあ指切り
男の子が差し出した私と変わらない大きさの小指に、
私の其れを絡めて約束を。
太宰治
七日後にまた此処で
そう云うと何も頼まず名前をも名乗らずに、
男の子は席を立ってしまった。