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モモ
サナ
モモ
モモ
けたたましいアラームで始まる朝。 私は重い体を起き上がらせて アラームを止める。 夢の世界を邪魔させるのは なんともいい気分ではない。 だがそれは 醒めてもいい夢だったような気がする。 いや、醒めた方がいい夢だった。 そういう時もある。
時にこの世界は残酷で。 今あったように、夢のようだと錯覚して しまうのもそう少なくはない。 つまりは、いっそ夢ならばいいのに。 そう思うこともしばしばあるわけだ。 一言で言ってしまえば、怖い ということだ。
そこで 第二世というものがそれを産む。 食べられる側のケーキと 食べる側のフォーク。 私は後者だ。 でもそんな世界にだって もちろん愛という感情は存在している。 そんな中 愛すべき人ができた。
付き合い初めて一年近く経つけれども まだきちんと愛せている。 連絡もしつこくない程度で、 ちょうどいい頻度で会って 愛し合って 抱きあったまま寝たり。 次の日になって 帰り際なら 「またね。」 って声をかけて 次はいつ会えるのかを 考えながら帰る。 そんな幸せな生活。 ケーキのように甘い。
でもそんなのは もう前の話だ。 今はどうか? よく聞くね。 それが泡のように消えてしまった。 幸福というのは永遠に続くわけじゃない。 突如として変化してもおかしくないのだ。 当たり前? ……あぁ…当たり前か
だからこそ いつまでもずっと 夢から覚めないように 続いてほしいと 願ってしまうこともある。
モモ
待ち合わせ場所。 まだ待ち合わせの時間まで余裕があるのに どちらも早く着いちゃったみたい。 それはきっと 同じ感情を持ち合わせているから。 彼女は私を見つけるなり こちらへと駆け寄ってきた。
サナ
モモ
サナ
モモ
最後に会ったのはたしか 3週間前だろうか? そこまで遠距離でもない。 行こうと思えば30分で行ける。 まぁ、ちょっとした遠距離恋愛とでも 言うのだろうか。 でも心はいつだって遠距離じゃない。 だってどっちも浮気なんかしないから。 いや、しないからというより 出来ない、といった方が過言ではない。 なんたって、私はフォーク 彼女はケーキだからだ。 私もあの娘も互いに依存してしまうから。 私は彼女と付き合い始めてから フォークだったことが発覚した。 彼女といると彼女から甘い匂いがした。 誰にも渡したくない。 そんな感情だった。 最初はあまりなれなくて 嫌な感じがしたが 日に日に形を歪ませながら 少しずつ、少しずつ 私は本物のフォークへと 変化していったのだ。 彼女をどうにかしたい。 もっと味わいたい。 そして 食べたい。と 彼女は自分がケーキだってことに 気がついていない。 私が本人に伝えてないから。 伝えたところでどうなる? 彼女がどうかしてしまったら もう遅い。 怖い。
モモ
サナ
モモ
サナ
私は少しほっとする。 距離もできて、少しは落ち着けるかな 日に日に悩みは増えてって 恐怖やあらゆる欲が私を支配する。 それでも 彼女を手放せない。 だって あの味を知るのは 私だけでいいのだから。
モモ
彼女は平然とした顔で私の手を引く。 彼女は私がフォークということを 考えたりしないのだろうか。 そんなことを考えながら 彼女に手を引かれていった。
一通りの予定を済まし 最終的には彼女の部屋へと向かい 一夜を過ごすことになる。 となると 二人きりになればすることは1つ。 寝室に直行するなり お互いを貪るような口づけを交わして お互いを欲す。
モモ
相手も相当余裕がないようで 首に腕をまわし 猫撫で声で私を求める。 あぁ。私の理性は抗えない。
何もかもが甘く感じる。 まるで幻覚を見ているようだ。
サナ
モモ
身体の底から再度這い上がってくる何か。 もっと彼女を感じたくて 精一杯愛したくて 飽きることの無い彼女が愛おしくて。 また口づけから再開するということは まだ終われそうもないな。
サナ
モモ
駅のホームにて別れを告げる。 ぎゅって抱きしめれば 「人目気になるんやからやめてや」 なんて言うけど 抱きしめ返してくれるあたり 満更でもないよう。
電車に急いで乗り込むと丁度扉が締まる。 笑顔で手を振るものだから こっちも同じように振り返す。 可愛らしくて思わず頬が緩む。 幸せ。 こんなにも幸せなのに。 いや、だからこそ 前向きで考えなければ。 その一瞬 口内にあの娘の味が広がったような 気がした。
それからというもの 衝動は勢いを増していくばかりで 一向に収まる気配がない。 何をすればいいのか。 どうやったら抜け出せるのか。 色々考えたが どれも失敗に終わった。 あの忘れることの出来ない味。 いい感じに肉がある身体つき。 考えてはいけないのに そうじゃないのに 衝動に駆けられる と、同時に 携帯の着信音がなった タイミングがいいのかわるいのか。
「唐突にごめん。今日会える?」 __平井もも 画面に映し出された4文字を見た瞬間に 胸うつ鼓動が早くなるのを感じた。 あぁなんてことだ。 こんなにも愛しい人から 連絡がくるなんて。 「出来たらでいい。 時間が空いただけやから。」 その文に速攻でYESと送る。 彼女に会えるなら何処にだって ついて行こう。 そう心において 落ち着かせようと深呼吸をする。 …何故だろう。 少しは興奮が冷めた気がする。 彼女のおかげだろうか。 それにしても楽しみだなぁ。
サナ
モモ
そう言って頬を膨らませる彼女。 少し拗ねちゃったかな。
サナ
モモ
サナ
冗談冗談、なんて言いながら 笑うものだから さっきの機嫌はどっかいったみたい。 可愛い。 それはわかる。痛いほど充分に。 だというのに 彼女の顔をまともに見ることが出来ない。 見ようと顔を上げるも 気がつけば彼女の唇。 首。 腕。 胸。 腹部。 脚。 彼女の話が耳をすりぬける。 違う。こんなはずじゃなかったのに。 今、まさか 彼女の愛し方さえ忘れようとしてる。 食べたいということしか考えられてない。
モモ
サナ
平然を装うとしても それはやっぱり無理みたい。
モモ
それはちょっと食い違ってるかな。 私の考えていることと あなたの考えていること。 でもある意味私は変態なのかも。
サナ
モモ
サナ
モモ
どうやらその一言で満足したようで。 必死に彼女の背中を追う。 はぐれないように。
なんだろう。 ひっきりなしに喉が渇く。 やっぱり無理か。
熟れた果実は美味しい。 うん、美味しかった。 甘かったよ。 本当にケーキだった。 勿体ないからね。 残しちゃったらももりんもきっと悲しむ。 だからきちんと、 骨の髄までたいらげた。 これで彼女は私の中に取り込まれたのだ。 私といつでも一緒。 嬉しいな。 ね、ももりんもそう思うでしょ?
モモ
サナ
モモ
モモ
サナ
ヒュッ、と空気が喉を通る。 カランカラン、とテーブルから空虚な 音を立てて落ちていった ナイフとフォーク。 よく部屋に響いた。 まるで、目を覚ませ。 とでも言うかのように。
サナ
何から考えれば良いのかすら解らない。 骨の山は目の前に見えて。 大事な人は目の前に見えなくて。 大事な記憶が走馬灯みたいに 繰り広げられて。 息も出来ないほど 酸素が身体を巡ってなくて。 声が押し潰される。 どうして?どうしてこうなった? どこから間違えた? 最後の記憶は? それでもただ分かるのは この世界は残酷だということだけ。 それが答えだ。 …あれが彼女の終わりならば。 輝きの失われた"それ"を手に取って ゆっくりと喉へ持っていく。 そう、これでいい。 ゆっくりと目を閉じて。 息を深くすって。 これでようやく ずっと一緒だ。 やっと答えを見つけることが出来た。 …あぁ。喉が渇くなぁ…
いつかの淡い夢を見た。 長い、長い空間。
モモ
ソファーでテレビのニュースを 眺めながら体を丸ませて 座っていた貴方。 無意識に かわいいな、 なんて思ってもいた。
サナ
その頃はあんまり関心がなかったからかな 自分がフォークということも 分からなかったし。 周りで起こった出来事を 他人事のように思って 会話をしていた気がする。
モモ
サナ
その言葉に何も返さなかったのは 何故だろう。 同情なんて、 お人好しなことでも考えてたのかな。
モモ
サナ
この時は何も思っていなかった。 そう。普通の会話が、 こんなにも関係しているなんて 誰が考えるだろう。 まさか彼女は もう解っていたのだろうか。
モモ
サナ
純粋にそう聞き返すと ひと呼吸置いて 長い瞬きをして 彼女はこう言った。
モモ
サナ
モモ
モモ
サナ
モモ
サナ
モモ
サナ
サナ
モモ
モモ
モモ
モモ
いただきます。
最後まで笑っていた彼女は強い。 よくこんな私のために 我慢してくれたものだ。 あぁ……出会うならもっと違う 形であいたかった。 来世は普通の人で 普通の恋愛が また 彼女と出来ますように。