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柊トワ
1
k
87
#復讐
すっこ
2,186
聖次
424
奏
奏の声は冷たかった。
栞
栞
私の知らないところで女の子と遊んでないか不安で、
休日にいきなり呼び出した。
風邪をひいて歩けない、助けてほしいと嘘をついた。
あのとき、薬や栄養ゼリーと山ほど買い込んで
奏は走ってきてくれた。
玄関先で、何も病気してない私を見て。
仮病のこと、やんわりと叱ってたけど。
それ以上に、奏は、目に見えて安心してた。
この人は私が大事と、実感できた。
いつもそんなことばっかりやってる。
奏
声はかけられなかった。
誰が見ても、悪いのは、私だから。
栞
奏
電話越しの奏の声は、眠そうだ。
時間は午前の四時。
いつもそう。
迷惑だと分かってる。
それでも、発信ボタンを押していた。
栞
奏
栞
言葉にした瞬間、涙があふれた。
栞
奏
栞
奏
奏
栞
奏
奏は声を高くして、楽しそうに話す。
あくびをかみ殺している気配はした。
眠いのだと思う。疲れているのだ。
でも、「疲れてる?」なんて聞かない。
空が白み始めるまで、奏は話に付き合ってくれた。
最近見た素敵な映画。
テストの愚痴。
文化祭で転んだ話。
どれも大した話じゃない。
でも、奏から電話を切ることはない。
彼はいつも、私を甘やかしてくれる。
栞
奏
もう朝なのに、奏が言った。
電話を切る。
この人が好きだ。
優しくて、どんなわがままにも付き合ってくれる。
失いたくない。
大切な人。
でも、わたしは知ってる。
奏は、わたしのこと『好き』と言わない。
花梨
栞
奏は毎日、学校帰りは病院に寄る。
初恋の幼馴染のお見舞いに、毎日欠かさず通っているのだ。
奏の前で、彼女の話題を出したことはない。
聞いてしまえば、この心地いい毎日が終わってしまうから。
曖昧なままがいい。
恋人未満のままがいい。
栞
栞
花梨
花梨
栞
花梨
栞
私はそっぽを向き、ストローでジュースをすする。
花梨が額に手を当てた。
少し芝居がかった仕草で指を鳴らし、人差し指を向けてくる。
花梨
花梨
花梨
花梨
花梨
花梨
栞
花梨は真っ当に、ちょっとキレてた。
いい友だち。私にはもったいない。
なんだか申し訳ないけど、言葉が見つからない。
栞
全部が全部、私が悪い。
ただぼうっと天井を見上げる。
優しくされて、心地よい毎日——。
心を削る毎日は、静かに積み重なる。
卒業式の日。
校舎には笑い声と泣き声が入り混じっていた。
栞
体育館の裏に、奏を呼び出す。
奏
栞
栞
栞
一瞬だけ、奏の目が揺れた。
奏
奏
学ランには、ボタンが一つも残っていなかった。
奏
栞
笑おうとした。
でもうまく笑えなかった。
これで終わりなんだ。
そう思った、その時だった。
奏
奏
手のひらに、小さなボタンが落ちた。
栞
そう言おうとして。
声が、止まった。
栞
知っている。
誰よりも、彼を見てきた。
奏は考えごとをするとき、いつも胸元に手をやる。
無意識に第二ボタンを指先回す癖がある。
本物の第二ボタンは、塗料が少し剥がれている。
それなのに、手の中のボタンは――
春の日差しを受けて新品みたいに光っていた。
栞
栞
栞
胸の奥で、何かが音もなく崩れた。
きっと、この人は最後まで優しい。
傷つけないために嘘をつく。
その優しさに、ずっとずっと甘えてきた。
今日で終わりだ。
顔を上げる。
精一杯の笑顔を作って。
栞
私の声、デフォルトでこんなに甘えてたっけ?
気持ち悪いなあ。
栞
奏
私はボタンを胸に抱くと、歩き出す。
もう決めていた。
連絡もしない。
待ち合わせもしない。
電話もしない。
少しずつ、静かに離れていく。
奏のいない毎日が始まる。
私は振り返って、もう二度と会わない奏に笑いかける。
栞
コメント
1件
ああ、もうこれ…胸がぎゅっとなったわ。栞の「私、続けたいよ?」がずしりと来た。優しさで縛られてるって分かってるのに、そこから抜け出せないジレンマ、痛いほど伝わってきた。第二ボタンの偽物に気づくラストの描写、静かで鮮やかで、思わず息を止めた。柊トワさんの心理描写、解像度が高すぎる。続きが気になるし、栞がこれからどうするのか、そっと見守りたい気持ちになったわ。