「ねぇ、知ってる?」
「何を?」
「雨の日にしか現れない本屋さんがあるんだって」
「でね、その本屋さんの不思議な所はそれだけじゃなくって」
「その本屋さんには『自分の知りたい事』について書かれた本があるの」
「『自分の知りたい事』…?、何それ?」
「面白そうでしょ?」
「だから、その本屋さんを一緒に探しましょ」
「嫌だ」
「...つれないなぁ笑」
「まぁ、良いよ。どうせ行くことになるんだから」
「はいはい、」
「気が向いたらね」
「...笑」
ピピピッ
目覚ましのアラーム音で私は目を覚ました
少し寝汗をかいていて下着が肌に張り付いて気持ち悪い…
時計を見ると朝の6時半
本当はもっと寝たいけど
学校があるから起きなければ
まだ眠たげな目を擦って私はベッドから出た
爽やかな朝からは程遠い溜息を吐き
顔を洗う為に洗面所に来た
蛇口を捻り、冷たい水を手に溜める
ひんやりとした感覚が手に広がり少し体が震える
寝癖の形がすごい事に驚いたものの、
そのまま顔を洗い簡単な身支度を済ませていくと
窓の外の景色が目に入った
土砂降りとは行かないが それなりの量は雨が降っている
寝癖が変なのはこの雨のせいか...
傘を持って行くのが面倒だと思うのと同時に
私は今朝の夢を思い出した
いつからだろう、雨の日は決まってあの夢を見る
いつ誰との会話か、そもそもあれは自分が経験した事なのかも覚えていない
まぁ、それだけどうでも良い事だから覚えていない筈だ
こんな性格だから友達が少ない。そう周りの大人達に言われていたが
仕方ないでしょ? 性格は簡単に変えられないのだから
そんなひねくれ者の名前は「美雨」
正直この名前は嫌い
美しい雨って何よ、憂鬱な雨の方が合ってるでしょ...
濡れた顔に引っ付いた髪を取り、私は部屋に戻った
女の子が言うべきでは無い掛け声を言い、制服に袖を通す
正直学校になんて行きなくない...
雨も相まって面倒臭すぎる
いっその事休もっかな...?
けどそしたら後々面倒〜...
母
母さんが呼ぶ声に応じ、私はリビングへと重たい足を運ぶ
焼きたての香ばしい香りのするトーストを一口齧り
目玉焼きの黄身を割ってパンに広げる。
それを牛乳で流し込んでいると母が声を掛けて来た
母
あぁ、雨なんて降ってなかったらどれだけ楽なのかと思い
気だるげな返事をして私は席を立った
ビニール傘を手に持ち私は靴を履いていた
玄関に立ってドアを開けずとも聞こえてくる雨音...
ほんっとにウンザリする
絞り出した声は
何となくどこか弱々しく雨音にかき消されそうだった
外には傘をさした人ばかり
全員が雨に濡れないように体をちぢこませて傘に収まっている
私もその中の例外でもなく学校へ行く為に足を動かす
その際、間違えて水溜まりを踏んでしまい水が飛んでしまった
幸い周りに人が居なかったから掛かっていないようだが
私の足はずぶ濡れになってしまった
そう吐き捨て私が傘を握り締めると スマホの通知が鳴った
スマホには休校のメール
学校が無くなってラッキーな反面、もっと早く伝えて欲しかったと思った
家に帰ろうと思い道を戻ろうとした時
私は思わず足を止めた
目の前には人通りの無い一本道
どうしてそんな所に目を引かれたのかは分からない
だけど...
そう、強く思い私は傘を閉じて狭い裏道へと歩いて行った
傘をささずに歩く為 制服も髪もずぶ濡れになり
体が重い…寒い…、
だけど今はそんなのどうでもいい
一歩一歩歩みを進めると目の前にある建物が見えた
さっきまでの道とは大きく変わり
少し古びた…いや、アンティーク調?
そんな言葉がぴったりな建物が目の前に現れていた
ドアには小さな看板が掛かって
【現在開店中】
と、黒色の看板に白色の文字で書かれていた
そう思ってまじまじと見ているとドアの向こうから足音が聞こえて来た
ガチャリ、と見た目とは裏腹に重厚な音を立ててドアがゆっくりと開いて
一人の人物がドアの目の前に立っていた
???
???
その人を見た瞬間
「目を見張る程の美形」「人間離れ」この二つの言葉が浮かんだ
鈴の様な、小川のせせらぎの様な心地よい滑らかな声
結んでも尚腰まである絹の様に真っ直ぐで艶のある白髪
しかし髪とは反対にこちらを覗く、闇の様に真っ黒な瞳
シンプルな色味でこの人だけモノクロ世界の様だが
薄い、不自然なまでに赤い唇だけは歪みもせずに美しい
服装がカーディガンの様な将又ローブの様な物を羽織り
下には黒色のシャツにロングスカートというシンプルな装い
それなのにこの人が着るとどれも最高級品…いや、 この世のなりよりも高貴で美しい物に見えてしまう程
この人は美しい
???
そう言われ私は腕を引っ張っられ 半ば強引にその建物の中に入ってしまった