琥珀

まさかの出来事に、僕はおどおどしながらも、黄谷に声をかけた

黄谷はよほど驚いたのか、 信じられないという目で僕を見つめた

すると、間もなくハッと我に返り、急いで目に溜まった涙を拭いその場をあとにしようと立ち上がる

乱れた道着姿のまま外に出ようとするので、思わず腕を掴んでしまった

あまりにも見当違いな応えが返ってくるもので、僕は頭に血が上った

僕はなんて気が短いんだろうと、自分でも思った

いきなりひっぱたかれたので 一瞬何が起こったのかわからなかった

鼓膜が破れそうだ…

我を忘れて、一心不乱に殴り返そうと手を振り上げた

しかし、次の瞬間その手は行き場を失った

黄谷は困惑しているようだったが、一番困惑したのは僕自身だった

今まで人に暴力を振るうことなんて、なんてことなかったのに

黄谷の怯えた顔を見た瞬間、拳を振り下ろすことをためらってしまった

急に冷静になる黄谷に困惑しながらも、ここは言うとおりにしようと思った

あのようなことがあった後だからか、 互いに口を開こうとはせず、ただただ気まずい空気が流れた

自分がしたことを思い出してしまったのか、彼は少し弱気な表情になった

いつもとはまるで感じが違うから、調子が狂わされる

黄谷は、口に手を当てながら唐突に笑い始めた

こんなふうに高笑いするんだ…なんて、こっちはこっちで意外に思いながら、自身の顔が熱くなっていくのを感じた

気がつけば、自分も笑顔になっていた

ひとしきり笑い終えた僕達には、また沈黙の時間が流れた

出会ったときとは打って変わって、ふんわりとした優しい声だった

まぁおそらく、こいつに対する妬みからいじめてるんだろうな

彼の顔面を一瞥してから、少し恨めしそうな声で囁いた