妖の世は今日も過ぎる

憂鬱、だけれど

人のために。誰かのためになるのならば

僕はいくらでも出動する。

正直、"能力がある人"は

割合が少なくて。

偶然、この世代が特に強かった

って話だから。

大人達を攻める訳にもいかない。

人の血の匂いがする

ぽつり、そう呟き

近くの外壁を借り、宙へ飛び立つ

くるりと回って着地すれば

敵のすぐ後ろ。

そう一言言うと

辺りの"影"が妖を覆い

喉に入り込んでは窒息させる。

妖の胃に入った人は、きっと

消化され、形も残らず亡くなる。

日本における行方不明者の大半が

"これ"が原因。

ホプエンさんの豆知識

希咲羅の能力は

『影を操る能力』

である。

背後から急に声を掛けられ

驚き肩を動かす隙もないほどに

明確な殺意。

そして、死が近寄ってきた気配

恐らく、美夏が対峙した人型3体分には

余裕で匹敵するだろう

聞こえるのは空気をかする音のみ。

精一杯の声で絞り出した

「誰だ」という問い

伝わったのか。

ゆっくりと目の前に姿を現した人型は

"かなり幼かった"

右側の黒子に

紅色の瞳と降ろされた桃色の髪。

そして、宙に浮いている

地面に足をつけていれば

恐らく僕よりも小さいであろう背丈

生きた年よりも、遥かに多くの人間を

殺している。

張り詰めた糸が、また緩んだように

彼女が消えた瞬間に

"空気"が明らかに変わった。