絵に描いたような田舎に引っ越した
トラクターが通った跡がここにとっての道で
作物を実らせた畑や田んぼ、森と小山が混じり合いながら淡々と広がる風景
家なんて数える程しかないし
上を向けば少し大きな積乱雲が
澄み渡る青空の真ん中に立っていた
旅行ならそれはそれは楽しいだろう
旅行なら
だけど
守
武
武
守
守
守
守
守
武
武
守
武
武
守
守
守
武
守
守
守
武
武
武
守
守
守
武
守
それから3時間くらい
一応〝村〟とされている範囲内を探索してみた
これから通う中学校はまさかの木造だし
やっぱり田んぼと森だらけで他にめぼしいものはなかった
「本当に何もないなここ…」
「これからやっていける気がしないよ…」
そんな文句を頭の中でブツブツ呟いていると
自分から見て左側にある小山から
石畳から始まるかなり急な階段が見えた
夕日が山の向こうへ沈み始めていたけれど
やっと見つけためぼしいもの
向かうしかないよね
「はぁはぁ…!」
「やっと頂上だ…!」
「おお…」
やっとの事で登ったそこには
かなり古びた神社が建っていた
赤い鳥居の塗装は剥げ剥げで
社の木部はかなり腐食が進んでて
優しく触れるとボロっと小さな木片が崩れ落ちた
そんなことをしていると
ブブッっとスマホが短く振動した
「武かな?」
京香
京香
「え」
後ろに振り向くと
艶のある長い黒髪の
セーラー服を着た女の子がにこにこと微笑みながら立っていた
「う、うわぁ!!!!」
僕はなんて情けない声を出すのだろうか
しかも女の子の前で…
「ど、どちら様ですか…?」
ビクビクしながら一応尋ねてみる
でも女の子は少し申し訳なさそうな表情のまま、なにも話そうとしない
向き合ったままどれくらいの時間が流れたのだろうか
こんな長い時間人と見つめ合ったのは初めてかもしれない
スマホの時計は1分も進んでなかったけど
すると女の子が
手に持っていたその子の自分のスマホをちょいちょいと指差した
「え、これで話すの?」
うんうん、と軽く頷く
守
守
京香
守
守
京香
京香
守
京香
京香
守
京香
守
京香
京香
京香
守
京香
京香
守
何も無いけど…
京香
守
守
守
京香
守
京香
京香
京香
守
京香
京香
守
守
女の子はひらひらと手を胸元あたりで振ってくれた
僕も軽くその子に手を振るとそのまま振り返り
少し早歩きで階段を降りていく
「あ、名前をまだ聞いてな…」
バッと振り向くと
その子の姿はもうなかった
「帰ったのかな…?」
あの子との会話の中での
ほんの少しの違和感を感じながら
僕はまだ慣れない道を辿って
新しい家へと帰った
《翌日の朝8時12分》
「今日からよろしくお願いします。」
すっからかんの職員室で
校長先生でありこの中学校唯一の先生でもある、竹中先生に挨拶を済ませる
先生はニコッと歯を見せて笑うと
「おう!よろしくな!」と僕の肩をポンポンと少し強く叩いた
「あ、先生」
「僕の他にもう一人生徒がいると聞いていたんですけど…」
「その子は今どこに?」
辺りを見回しながら聞いてみる
「ああ…今色々事情があってな」
「そうですか…」
今日は生徒僕1人で授業が進み
現代文の時間は小説丸々1本を全て朗読させられた
朗読って普通クラス40人くらいが回して読むものじゃなかったっけ
慣れない1人授業が全て終わり
真夏の蒸し暑い空の下を走って帰った
部活がないから家で夏休みみたいに夕方頃までゴロゴロして
昨日あの子と約束をした神社へ向かった
京香
京香
守
守
守
京香
神社の階段がやっぱキツかった
守
京香
京香
守
守
京香
京香
京香
守
京香
京香
京香
京香
守
京香
京香
守
京香
京香
京香
守
京香
それから
村を全部見渡せる展望台みたいな所
小川の横のホタルのいっぱいいる草むら、とか
自分だけじゃ見つけられなかった景色の綺麗な場所をたくさん教えてくれた
そして
京香
京香
守
そこはほぼ崖みたいなところだった
75度くらいの急な斜面が崖下の大きな川まで続いている
高さも30メートルくらいある高い場所だ
ここでの明かりは月明かりくらいで
崖下の川の音がゴォォォォと少し不気味だった
守
守
京香
急に京香の表情が暗くなる
京香
守
守
京香
守
京香
守
京香
京香
京香
守
守
守
守
京香
京香
守
京香
守
京香
京香
京香
守
京香
守
京香
京香
守
京香
京香
京香
守
京香
京香
守
京香
京香
京香
守
四つん這いになりながら恐る恐る覗くと
暗闇の中でも一際目立つ、小さい白い綺麗な花が一輪
ここから3メートルほど下に咲いていた
京香
守
京香
京香
京香
守
守
京香
守
守
京香
京香
京香
守
守
京香
守
守
京香
守
京香
守
ここで僕がなんとかしてあげないと
京香がずっとずっと救われない気がする
女の子の前で情けない声を出すような奴だけど
「ふんっ…!!!」
やるときゃやってやる…!
でも運動不足の身体に崖下りはやっぱり堪えて
腕も足もぷるぷるしまくってる
時々崖上から京香の心配そうな顔がチラチラと見えて
むんっ…と顔の前でガッツポーズをして応援してくれた
「取った!!」
花を確かに左手で掴んだ
その瞬間
「あ」
身体が浮遊感に襲われる
落ちてる
最後の最後で
詰めが甘いなぁ…
「っっ!!」
浮遊感から一気に右手を引っ張られる感覚へと変わる
京香が
手を掴んでくれた
ふぬぬ…!と京香がそのまま引っ張りあげてくれる
やっぱ情けないや…笑
「あ、ありがとう!はぁはぁ…」
京香が怒った表情でぽちぽちとスマホを打ち始めた
京香
京香
守
京香
京香
守
京香
京香
守
守
守
京香
京香
2人で一緒に夜道を歩いて学校へ向かった
それまでの間
お互いのふざけた話とか
京香の幽霊あるあるみたいな話もした
教卓の上にあの白い花を挿した花瓶を置いて
置いて…
…そこから後の記憶がない
僕は机に突っ伏して寝ていて、外にはもう朝日が差し込んでいた
京香もいなくなっていた
京香からメールがいくつか送られてきていたけれど
無我夢中で京香を走り回って探していた僕がそれに気がついたのは
もう少し後の話
コメント
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OUSERさんの文章は素敵ですね(* ´ ▽ ` *) ミリーさんの企画「ビブリオテラー」で、OUSERさんの作品を紹介したいのですが。良いですか?