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めあ☔️
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あさくら
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高橋が公民館で土地神の古い資料を用意して待っている約束の時間。
町夜は村の公民館に到着し、自動ドアをくぐった。
しかし、約束の受付窓口に、高橋の姿はなかった。 代わりに窓口に座っていたのは、見知らぬ中年の男性職員だった。
町夜が高橋と約束があると切り出すと、職員は町夜の顔を見上げて首を傾げた。
「高橋さんなら、今日は急な体調不良でお休みですよ」
昨日、商店でビールを片手にあれほど快活に笑い、明日の約束を交わした彼女が、突如として欠勤しているという。
町夜は違和感を覚えながらも続けて、高橋から土地神に関する古い資料を用意してもらう約束をしていたことを伝えた。
職員は愛想なく冷淡に首を横に振った。
「そのような資料は当館に保管しておりません」
取りつく島もなく拒絶され、町夜はこれ以上聞き出すことは不可能だと悟った。
踵を返して受付窓口から離れようとした――その刹那だった。
執務室の奥のほうから、職員たちが声を潜めて交わす囁き声が耳をかすめた。
「……サマ……」
🎲 茂武 町夜【聞き耳】➔ 成功
町夜の耳には、職員たちの囁き声がはっきりと届いた。
「――あれが、ハミカミサマを祀っている家の人よ」
「……関わらないほうがいい、祟られる……」
『ハミカミサマ』――
その名が、町夜の頭の中で鮮烈に響いた。
裏山の祠に刻まれていた風化の痕跡、高橋が思い出そうとしていた神の名。 その神の名こそが、ハミカミサマ。
夕暮れ時、重い疑問と確信を抱えて祖母の家へと戻った町夜を、夕餉の匂いが迎えた。
祖母は台所に立ち、夕飯の支度に追われている。トントンと響く包丁の音、鍋の煮え立つ気配。 今、祖母の意識は台所に向いている。
解錠の方法は高橋から聞き出した。 そして、神の名を知った。
仏間の薄暗がりの中で沈黙するあの古い金庫は、まるで町夜を呼び寄せるかのように、異様な気配を放っている。
🎲 茂武 町夜【忍び歩き】➔ ファンブル
町夜は逞しい身体を沈め、気配を殺して仏間へ踏み入ろうとする。
ギイィィッ!
古びた廊下の床板が激しい悲鳴を上げた。
町夜
不意の軋みに体勢を崩した町夜の足が、仏間の敷居を派手に蹴り飛ばした。
障子の枠がガタガタッと大きな音を立て、静かな空間に騒がしい音が響き渡った。
次の瞬間、祖母が濡れた手を前掛けで拭いながら血相を変えて仏間へと飛び込んできた。
祖母
町夜
金庫の前に立つ町夜の姿を視界に捉えた瞬間、祖母の表情は恐怖と怒りで蒼白に引き攣った。
祖母
祖母
鬼気迫る祖母のただならぬ剣幕に圧倒され、町夜はもはやこの場での対話は完全に不可能だと悟る。
町夜は祖母によって仏間から押し出され、自室へと戻った。
やがて、深夜。
家中が暗闇に沈んでシンと静まり返り、祖母は眠りに就いている。
今度こそ、町夜を阻むものは何もない。
町夜は布団を静かに抜け出し、一切の物音を立てずに仏間へと足を踏み入れた。
年代物の金庫に向かってスマートフォンのライトをかざした。 正面には「イロハニホヘト……」と彫り込まれた旧式のカタカナダイヤル錠。
昼間に耳にした神の名、そして、高橋から教わった左右交互に回す解錠の方法。
すべての手掛かりは揃った。
町夜
「ハ」――「ミ」――「カ」――「ミ」。
高橋から教わった通り、右へ、左へと慎重に文字を刻み、最後に金属の重厚な取っ手へと力を込めた。
――ガチリ……。
暗闇の仏間に、重い閂が外れる鈍い金属音が響き渡った。
分厚い鉄の扉がゆっくりと手前に開き、内部の冷えた空気が流れ出てくる。
開かれた金庫の中には、古びた正絹の布に包まれた「ひとつの物体」が、安置されていた。
町夜はその包みを引き出し、包んでいた布を慎重にめくった。月明かりの下に現れたのは、巨大な獣の牙の化石にも似た、不気味に滑らかな白いかたまりだった。
これがあの祠にあったはずの御神体なのか。
そう直感し、町夜の指先がその白いかたまりに直接触れたその刹那。
遮断されていた過去の記憶が、濁流となって脳内に一気に流れこんできた。
――何年も前の夏の日。
裏山の祠で退屈そうにしていた幼い町夜の前に、「無数の巨大な歯列を持つ異形の存在」が現れる。
町夜は幼心に恐怖すら抱かず、その怪異と夏の間、無邪気に駆け回り、笑い合って遊んだ。
祠に安置されていた立派な白い牙を見て「カッコいい!」と目を輝かせた町夜に、異形の神は慈しむように囁いた。 「お前が欲しいなら持っていけ」と。
それは、神からの一方的で絶対的な約束だった。
やがて、町夜はこの村で、同年代の少女――佐藤セナと出会う。 新しい友人との遊びに夢中になり、祠へ通う足は途絶えていった。
そしてある日、町夜は無邪気にも、セナの手を引いて祠へと向かった。 「友人に、友人を紹介する」という純粋な思いを抱いて。
町夜とセナの前に姿を現したハミカミサマの巨大なあぎとが、音もなく上下に裂けた。
次の瞬間、真白い巨大な歯列が、セナの小さな身体を頭からバクリと挟み込んだ。
耳を聾する甲高い絶叫が響き渡ったのは、最初のほんの数秒だけだった。
少女はあっけなく動かなくなり、あとには、骨と肉を容赦なく擂り潰し、執拗に噛み砕く、ゴリゴリッ、ボリボリッという耳障りな咀嚼音だけが延々と続いた――。
すべてを思い出した。
自分が記憶の底に封じ込めていた惨劇。 神隠しの正体。
あの子は、自分のお気に入りを奪われ嫉妬した神によって、無残に喰い殺されたのだ。 自分の無邪気で無知な軽率さが、彼女の命を咀嚼させたのだ。
🎲 茂武 町夜【SAN値チェック】➔ 失敗( -2 )
町夜
町夜の喉から、絞り出すような慟哭が漏れ出た。
己が軽率に神と結んだ約束。 己が忘却の彼方に置き去りにしていた少女の末路。
毎夜毎夜、己の神経を苛み続けていた悪夢は、無惨に擂り潰された友人の怨嗟と、己の犯した罪の証だったのだ。
抉るような罪悪感と自責の念が町夜の胸に押し寄せた。
物音を聞きつけて寝室から駆け込んできた祖母が、仏間の敷居に立ち尽くした。
祖母は開け放たれた金庫と、町夜が握りしめる白い御神体を目にしてすべてを悟り、町夜に縋り付いた。
祖母
祖母
祖母
祖母の悲痛な叫び。
しかし、自責の念に押し潰されそうな町夜には、最早その懇願は届かなかった。
祖母
祖母
必死に引き止めようとする祖母の腕を振り解き、町夜は家を飛び出した。
掌中に握り締めた白いかたまりに突き動かされるように、裏山へと足を踏み入れる。 生い茂る木々の枝が肌を叩くのも厭わず、獣道のような急斜面を一気に駆け上がった。
辿り着いた山頂の平地。 明かりひとつないはずの森の中で、あの古びた小さな祠だけが、まるで燐光を放つかのように仄白く闇に浮かび上がっていた。
町夜は惹きつけられるようにその前に立った。
ギチ……ギチギチギチッ……。
空間そのものが歪むような耳障りな不協和音が響き渡る。
祠の小さな観音開きの扉が、何者かの意志によって内側からゆっくりと押し開かれる。
その深淵の闇からぬらりと這り出してきたのは、町夜が悪夢の中で何度も対峙したもの―― 無数の巨大な白い歯列が円形に連なり、何層にも、何重にも重なり合った異形の神格。
町夜の家系が代々、畏れ祀り続けてきた土着の怪異――
ハミカミサマが、現世へと顕現した。
🎲 茂武 町夜【SAN値チェック】➔ 失敗( -6 )
カチカチカチッ、カチカチカチッ。
闇を切り裂いて顕現した無数の巨大な白い歯列が、歓喜に震えるように一斉に打ち鳴らされた。
人知を絶した土着神のおぞましい全貌を間近に見た瞬間、町夜の正気は強烈に揺さ振られた。
この異形が放つ超越的な恐怖の正体を、町夜の脳が完全に理解してしまうか否かの瀬戸際だった。
🎲 茂武 町夜【アイデア】➔ 失敗
あまりのショックに、町夜の脳内は一瞬にして真っ白になった。 彼の防衛本能は、恐怖の全容を受け止めることを拒絶した。
カチカチッ、カチカチカチッ。
眼前に迫る無数の巨大な歯列が、嬉しそうに打ち鳴らされる。
逃げ出さなければならないはずの怪異。 しかし、町夜の身体は金縛りに遭ったようにその場から動かなかった。
かつて夏休みの間、無邪気に笑い合って遊んだ「親しい友」なのだという冒涜的な親愛が、厭が応にも肉体と魂に刻み込まれていた。
「幾百日、幾千日振りだね、愛らしいお前。斯様に白い顔をして……可哀想に、可哀想に」
湿り気を帯びた慈悲深い声が、大気を震わせることなく町夜の脳へと直接響いた。
「愛らしいお前。可哀想なお前。そのつらいつらい記憶を消してやろうか」
友人を無惨にも噛み砕いたはずの神は、長年自分を忘れていた町夜を責め立てることもなかった。
「ただし、一万と五千日の間だ」
「それが過ぎ、今日この日の〝約束〟を思い出したその時は、この地に戻りきて、始まりの者と同じように、先祖代々と同じように、祖母と同じように、わたしを祀れ」
「その肉が潰えるまで。その肉が潰えても、その魂が残り火を燃やす限り」
一万五千日――およそ四十一年の猶予。
忌まわしい過去と友人を殺めた罪の意識を忘れ去り、平穏な生を謳歌する代償として、老いた未来にこの地に戻り、永劫のときを神に仕える契約を結ぶか。
それとも、神の慈悲を拒絶し、罪の記憶と毎夜の悪夢を抱えて生きていくか。
暗闇に浮かぶ巨大な歯列が、町夜の決断を待つように、カチリ、カチリ、カチリ、と鳴った。
町夜
町夜ははっきりと首を横に振った。
その決断を聞き届けた瞬間、ハミカミサマの無数の歯列が、カタカタカタカタと甲高く、震えるような音を立てて鳴り響いた。
異形の大顎が音もなく前方に滑り出し、町夜の眼前へと迫る。
町夜が声を発することもできず立ち尽くしていると、突如として巨大な白い歯列が彼の左手を挟み込んだ。
ガブリッ!
激痛が走った。
肉を裂く痛みではない。 神経を、骨を、いや、魂そのものを直接噛み砕かれたかのような強烈な衝撃が町夜を貫いた。
痛みは刹那のうちに消え去った。
しかし、解放された町夜の左手には、異変が生じていた。 どれほど神経を集中させ、力を込めようとも、五本の指はピクリとも動かない。
「お前が二度と、誰とも約束を結べぬように……小指をもらっておこう」
人ならざる神のやることゆえ、人間の理は通じず、往々にしてやり過ぎる。 小指どころか、町夜の左手の五指すべてが、死んだ肉のように麻痺していた。
巨大な歯の塊は満足したようにカチリと鳴り、祠の奥の闇へと静かに後退していく。
「可愛いお前。悪夢を終わらせたくなったら、指が恋しくなったら、いつでもここへ戻っておいで」
「その時また約そう。一万と五千日後の約束だ。わたしと約束すれば、すべて、すべて元通り……」
祠の扉がギィと音を立てて閉ざされた。
それきり、山中には冷え切った夜の静寂だけが残された。
町夜は動かない左手をぶら下げ、重い足取りで夜の山を下りた。
家に戻ると、祖母が暗い仏間にひとりで佇んでいた。 飛び出していった孫を、ずっとここで待ち続けていたのだろう。
祖母は町夜の垂れ下がった動かない左手を見つめ、すべてを悟ったのか、あるいは神を祀る家の者として粛々と受け容れたのか、何も問うことはしなかった。
翌朝、町夜は誰に見送られることもなく、ひとり祖母の家を後にした。
バスと電車を乗り継ぎ、いつもの日常へと帰還する。
その後、大病院で精密検査を重ねたが、動かない五本の指の神経や筋肉に医学的な異常は見当たらず、治療法は存在しないとの診断が下された。
この指を再び動かせる存在は、この世にただひとり、あの神だけなのだ。
公民館のあの職員――高橋がどうなったのか、町夜が知る由はない。
仏間の金庫に封じられていた白い御神体は、今は本来あるべき場所――裏山の祠の中に静かに鎮座している。
町夜はこれからも、生きている限り毎晩あの悪夢を見続けるだろう。
友人が巨大な歯に擂り潰される、血塗れの咀嚼音を。
目を覚ますたび、神の囁きが脳裏で疼く。
――「いつでもここへ戻っておいで。わたしと約束すれば、すべて元通り」
他者と二度と指切りを交わせぬよう奪われた五本の指。
自らあの山へ戻り、魂を差し出す約束を結べばいつでも救われるという、一生涯解けることのない甘美な罠。
それらは、茂武町夜の肉体と魂に永遠に刻み込まれた、決して消えることのない〝約束の歯形〟なのだ。
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KP
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