混雑した朝の電車内はむせかえるような不快な匂いが充満していた。
きつい香水の香り
ずっと晒されていると酔ってきそうで 眉間に思わず皺がよる。
隣に立つ先輩が、大丈夫かと目で聞いてきた。
それに首肯すると、笑って手元の資料に視線を落とした。
こんな状況でも律儀に仕事をこなす先輩には頭が下がる。
社内のチャットに返信していると、 まだ会社の最寄りでもないのにいきなり先輩が下車した。
if
(え?ここまだ…)
if
(なにかあったか?!)
急いで後を追う。
ホームを人気のない方へ足早に歩く、その足が不意に止まる。
if
先輩?!
その体がゆっくりとおられて沈んだ。
覗き込んだ顔は真っ青で、
if
酔いましたか?
悠佑
いや…っげほげほ、、
悠佑
けほ、、げぼっ、、げほげほ、、
重たい咳が止まらなくなった。
if
先輩!
if
喘息とか、持ってます?
先輩は黙って鞄を指し示した。
if
失礼します
断りを入れて鞄を漁ると、暫くして見つけたのは吸入器。
手渡すと、慣れた手つきで吸入を済ませた。
悠佑
ーごめんな、、
まだ肩で息をしているものの、大分落ち着いた先輩は、ベンチに腰掛け苦笑いした。
if
さっきの香水ですか?
悠佑
うん…思ったよりきつかったわ笑
if
笑ってる場合ですか!本当にびっくりしたんやから
悠佑
すまんすまん
そう言う先輩の顔は真っ青で。
悠佑
俺もうちょい休んでから行くから、まろ先行っててええよ
if
自分で言うのもなんだけど、そこまで薄情じゃないっす
悠佑
おん、まろは優しいな
if
…
面と向かって言われるとはずかしい。
if
(この人こういうとこあるよな…妖怪天然人たらしめ)
悠佑
なんか言ったか?
if
いえ、なんでも
悠佑
?
悠佑
ま、ええわ
悠佑
次の電車で行けば間に合うんよな?
if
そうですけど…
悠佑
ああ、大丈夫や。
やばそうやったらまた途中下車するから
あ、まろは降りんでええんよ?
優しすぎるから
if
(優しすぎるんはどっちや)
まだ、その顔色は良いとは言えない。
でも、俺に遠慮してか辛そうな素振りを見せない先輩が、不謹慎かもしれないけれどとてつもなく愛おしくて、
この人を守りたい、と。
この人が素顔でいられる場所になりたいと。
強く願った、、