はじめに違和感を持ったのは出会ってから三ヶ月くらいが経った頃かな。 あれ、なんか違くねって なんだろう、監督生の纏ってる雰囲気っていうの?それがちょっと違く感じたんだよね。 そこから違和感を見つけるたびに一つの仮説が立ったし、それは確信に変わった。 多分監督生、オレのこと好きだわ デュースはバカだから気づかないし、気づく素振りもない。 喋る時、無意識か意識してかは分からないけどオレの方ばっか見てるのも、オレとデュースで監督生に"お礼"として昼メシ奢ってもらう時もちょっとイイもの買ってくれるのも。 嬉しいけど、それはマブだから出る行動じゃなくて男として好きだから出る行動じゃん。 オレ、そういうのはいらないわ。
その日はクル先に呼び出されてなくて、2日ぶりにみんなで食べれるって時だった。 オレと監督生が昼メシ選び終わって、先に席取りするかーって時に質問してきた。
監督生
ウブな質問
エース
そもそも今のマブって関係が一番楽しくて心地いいから手放したくない。 だから悪いな、監督生。
監督生
ショックですみたいな顔しちゃってさ。 オレはお前が望むような関係にはならないよ、絶対に。
多分、エースとは付き合えないんだと思う。 エースはマブの関係を求めてて、私は恋人の関係を求めてる。 だから、付き合えない。 そんな簡単なことがいつまで経っても飲み込めない。 私は、エースのどんなところも好き。 イジワルだけど本当に必要な時は優しさをくれるところも。 褒められるとすぐ失敗するところも。 寝相が悪いところも。 寝癖も、声も、ハートのスートも、かっこいいところも、ダサいところも。 全部全部好き。 全部、異性として好き、男として好き、恋愛として好き。 だから浅はかにもちょっとでいいから可能性がほしくて、聞いちゃった。 バカだって分かってる。 傷つくってわかってるのに。 多分、私は、絶対に、諦められない。 でもヘコむよ、そりゃあヘコむ。追われるより追う方が楽しいって言われて、ヘコむ。 この先に行けないし行かせてもらえない。 改めて痛感する。 私はエースと付き合えないんだって。 ちょっとだけブルーな気持ち。
監督生は異世界からから来たって言ってた。 最初は頭がブッとんでるやべえ奴かと思って距離置くか迷った。 でもその頃には口先だけじゃなくて本当のマブになってたから。なんだっけ、嘘から出た誠?だっけ。監督生に教えてもらった だから距離置くとかできなかった。 しかもアイツのこと見てたら本当にそうなんだなって納得した。 なにもかもに驚くし、なにもかもを知らない。 魔法があるんだから異世界からから来たって不思議じゃないでしょ! 若干キレながら言ってた。 まあ、そりゃあそう。 監督生はさ、異世界から来たから何も知らないの。 魔法なんかアニメとか漫画だけだって、ありえねー。 魔力がないから魔法なんて使えないし、マジカルペンとかただのボールペン。 勉強もやっと分かってきたかなって具合。オーバーブロットから助けてくれたお礼って言って寮長に勉強見てもらってるしな。 だからさ、勉強も魔法もそこそこできればいいって奴らのかっこうの的なんだよ。 何にもできない小せえ弱いやつで、しかも女。 今まではちょっとからかわれるぐらいですんでた。 後ろから紙投げてきたりすれ違うたびに絡んできたり。 でも奴らはそれで満足できなかったんだろうな。 監督生が水被ってびしょびしょだった 2階からかけたみたいで、もう姿は見えなかった。
エース
監督生にジャケットをかける。 ジャケットかけるとかそこまでしなくてよかったかも。 でも一応女で、しかも泣いてる奴が目の前にいてさあ。男としてこれはしなきゃだろ。 "普通"の優しさから出た行動だからオレが悩む必要はないだろ。
エース
監督生の手を引っ張ってその場を離れる。 そうでもしないとアイツらが戻ってくるから。 こうやって手引っ張ったりするから監督生も勘違いするのかも。 ふと考える 距離が近くってさ、仲も良くて。 そんなやつ周りにいたら普通好きになるもんな。 監督生はたまたまオレだったってだけで、デュースを好きになったかもしれないってことだよな。 あー、お似合いだな。 どっちもピュアッピュアで平和で楽しそうでさ。 でもどっちもダチ思いのいい奴だからオレのこともちゃんと輪の中入れてくれんの。 でもやっぱカップルだけの雰囲気ってあるじゃん。 あれだけはオレも入れない。 なんか胸チクチクするわ。 ダチ同士が、マブ同士が付き合ったら入れない仲ができちゃうんだよな。 ずっと一緒の、オレでも、入れない仲。ヤだなあ、ずっと胸がいてえわ。 今のオレは胸の痛みを理解するにはまだ早い
泣きそう。いや、もう泣いてるかも。 うつむいてその場に突っ立ってることしかできない。 お昼のブルーな気持ちのまま残りの授業も受けて、あとは帰るだけってところで先生から頼み事をされた。 植物園にある草と実を採ってきてほしいって。 植物園に向かおうと歩いてると、上から水が降ってきた。 相当な量が降ってきたみたいで、全身がびしょびしょ。 ブルーなまんまで、挙げ句の果てには今までになかったいじめ。 限界を越えてしまった。 なんで私だけ。もうやめてよ。早く植物園に行かなきゃ、先生を待たせてるのに。制服明日までに乾くかなあ。グリムにはなんて言おう。 誰か助けて
エース
自分の頭から何かを被せられた。 見慣れたスニーカー。 見慣れた赤のジャケット。 見慣れた手袋。 すぐにエースだと気づいた。
エース
優しく手を引かれる。 なんで、どうして、だって。 そんな言葉ばかりが頭で浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。 なんで、ここにいるの。 どうして、優しくするの。 だって、アナタはマブを望んでいるでしょう。 こんなの女の子扱いだよ、マブじゃないよ。 手を握る力が強くなった気がした。
監督生
口から出た言葉は随分と震えていたと思う。 涙が止まらなくて、ずるずる鼻水すすってる音なんて聞かせたくなくて、早く一人になりたくて、止まった。
監督生
エース
じゃ、と気まずい雰囲気で解散し、私は寮に戻った。 どうしよう、先生の頼み事すっぽかしちゃった。 なにやってもだめだなあ。 エースのジャケット返さなきゃ。 ぐるぐる考えているうちに頭がネガティブな方へ行ってしまって、また涙が出てきた。 そうして夜ご飯も作らないまま泣いて、泣き疲れて寝て。 起きたらもう登校の時間は過ぎていた。 今日くらいいいか。 と、休むことにした。 起きたら毛布がかかっていた。 きっとゴーストがやってくれた。 その毛布にくるまりながら一人ごちる。 あぁ、好きだなあ。
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