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泣きました😭 いいね沢山押しときました!
良い!byリア友
うわぁぁん😭😭
それを渡すのはとても勇気がいることだったのかもしれない。 ましてや男同士で。しかもそれは束縛を意味するようなものだったから。 それでも、愛していたから。その気持ちを形にしたかったのだろう。 「……まふまふ、俺と結婚してください」 突然言われた言葉。差し出された小さな箱にはキラキラと光る指輪があった。 そらるさんとは、恋人だった。ただその関係になるために時間はかかったけど。 想いが通じた、とわかったときどんなにうれしかったことか。 …だから。 「…っはい…っ!」 僕はそう返事してそらるさんを抱きしめた。 その日は人生で一番最高の日だった。 二人で結婚式やろう、って言われた。 本当の結婚式は法律上無理だから、部屋を綺麗に飾って、二人だけでやろうって。 その日のためだけに白いタキシードを用意して。 二人で誓いの言葉を言い合って。 二人でおそろいのリングをつけて。 二人でそっとキスをした。 はたから見たら馬鹿だと思うかもしれない。 でも僕は最高に幸せだった。
でもその一週間後 そらるさんが倒れた。 そらるさんが倒れたのは アルバム制作があったスタジオ。
僕は家で作業をしていた。 そらるさんがもうすぐ帰るから。 お風呂沸かしておこうかなと 立ち上がった時だった。 ♪〜と着信がなり、携帯を見ると 見慣れない番号だった。
なんだろ、と思い はいと電話を出ると病院の人からだった、 病院にいると 僕は急いで家を飛び出した。
病院に着くと お医者さんが僕を待っていた。
病名は 忘愛症候群 忘愛症候群とはその名の通り 愛を忘れる…つまり愛していた人を忘れるという病気 さらには愛していた人を拒絶してしまう。
治る方法はただ1つ。 愛していた人の死である。 つまり、僕が死ぬということだ。 僕はそのあとそらるさんの病室へ向かった。
ゆっくり扉を開けると 中ではすやすやと眠るそらるさんがいた。その手には指輪をはめていなかった。 まぁ、スタジオに行ってたから はめていないというのは当たり前なんだけど。
なぜだかそらるさんとの距離が遠くなってる気がした。
自分の指だけに指輪がはまっているのがなんだかとても悲しかった。 そらるさんはそれから入院することになった。 歌い手活動は一時期…休止となる。天月くんとかには連絡済みだ。 言った時、すごく心配していた。 そのくらい、そらるさんが皆から好かれていたのだと思うと、 嬉しかったし、ちょっと寂しいような気もした。 それから。 僕は毎日そらるさんの病室に通うことにした。 コンコン。 そらるさんの病室のドアをノックし、「入りますよ」と声をかける。 返事がないのはいつものことなので、 僕は力なく笑って「失礼します」と中に入った 中に入ると、外をぼー…と眺めるそらるさんがいた。 「…今日は天気がいいですね」 僕はそう声をかけて、近くの花瓶に持ってきた花を生ける。 すると、そらるさんが僕にブンッと枕を投げてきた。 ボスンッと頭に当たって、対して痛くなかったけど、 その拍子で花瓶が床に落ちてパリンッとわれた。 「っ、いい加減にしろよッ!!なんでなんでいつも来るんだよッ!? 俺はお前なんか見たくないッ出てけよ!!!」 一気に喋ったから、はぁはぁ、と肩で息をするそらるさん。 僕はそんなそらるさんを見て、力なく微笑むと枕をそらるさんのベッドに戻す。 「はい、駄目ですよ。物を人に投げちゃ。あと叫んだら身体に響きます」 僕がそういうと、 そらるさんは“お前のせいだよ”とでも言うように僕をギロッと睨んだ。 僕は あはは と意味もなく笑って、われた花瓶を片付け始めた。 せっかく生けた花も水と一緒に床に散らかっている。 「今日はね、スイートピーを持ってきたんですよ。綺麗でしょう?」 ほら、とそらるさんに見せるけど、 そらるさんは怒ってるのかこちらを見向きもしない。 それでも御構い無しに僕は喋り続ける。 「青いスイートピー。そらるさんの色。僕、青大好きなんですよね」 そう、この色を見ると安心するのだ。 でも家に帰ったら“そらるさん”がいないのがすごく寂しい。 だからだろうか、最近部屋がだんだん青に染まっていってる気がする。 青いカーペット、青いカーテン、青いシーツ。 ちょっと自分でもやばいな、と感じているこの頃。 でもやめる気はないのがまた怖い。 花瓶を簡単に片付けると、ナースコールで看護師さんを呼ぶ。 流石に細かいところは掃除してもらわないと。 でも…この花はどうしようか、ずっと持ってるわけにはいかないし… 「そらるさん」 僕はさっきからずっと外を見てるそらるさんにもう一度声をかけた。 でもやはり無視される。 「僕、もう帰るので。 看護師さんが新しい花瓶を持ってくる間、この花持っててくれますか?」 はい、と問答無用でそらるさんの手に持たせる。 そらるさんは急に持たせられた花にポカン…としていたが、 流石の彼も花を投げる、なんてことはしなかった。 僕は また来ます、とそらるさんに挨拶してドアを開ける。 僕と入れ違いに入ってきた看護師さんにペコリと会釈をして、 僕はその場を後にした。
Srr視点
アイツが部屋を出てから。 片付けますね、と看護師さんがなんだか入れ違いにバタバタしていた。 その間ずっと花を持っているのだが。 …毎日お見舞いにくるアイツ。 三日に一回程度、花を持ってくる。 正直言って不快極まりない。 なんで来る?嫌だって言ってるのに。 早く入院生活から脱出したい。 きっと、そらなーの皆だって心配してる。 天月たちにも会いたい。 俺が入院してるのに、 お見舞いに来ないとか薄情な奴らだな、全く。 ……アイツの半分くらい、 天月たちだって見舞いに来てくれたっていいじゃんか。 一人で頬を膨らませていると、 看護師さんたちが終わったのか、新しい花瓶を持ってきた。 …白い花瓶。 この青いスイートピーがよく映えるな、と思った。 看護師さんが花を生けると、やはり綺麗な色合いになった。 「スイートピーですね。綺麗… 確か、花言葉は“私を忘れないで”だった気がします。 あ、でも、青いスイートピーには花言葉はありませんでしたね…」 看護師さんはそう言うと、 にこりと微笑んで、失礼しますと部屋を出て行った。 ……私を忘れないで、か。 ていうか俺、症状のこと、先生から話してもらってないんだよな。 自分の病気がどんな病気なのかわからない、というのは なんだかあまりいい気持ちではない。 いつも来てるアイツ…は、さすがに知ってるのか? …今度聞こうかな。 そこまで考えて俺はブンブンと首を横にふる。 俺はアイツと話さないって決めたんだ! あんな…奴とは
Mf視点
ガチャ…とドアを開け、誰もいない部屋に ただいま、と声をかける。 パチッと電気のをつけ、荷物をソファにボスンッと適当に置く。 少し分厚いコートを脱ぎ、床にこれもまた適当に置いてしまう。 そしてソファに座り、はぁ…とため息をつく。 「…俺はお前なんか見たくない、かぁ…」 僕は力なく、はは…と笑うと、ぎゅっと唇をかみしめる。 毎日、毎日…あの病室に通っているけど、そらるさんは一向に僕のことを思い出す気配はない。 ……やっぱり、僕が死なないと思い出せないのかな。 ……そらるさんに嫌われてるんなら、いっそ… そこまで考えて、僕はハッと我に帰って、ぶんぶんッと首を横に振る。 僕が死んだら、そのあと…そらるさん、悲しむに決まってる。 僕が死んだら、そらるさんは思い出す。……きっと泣いてしまう。 泣かせたくない。 …笑っててほしいんだ。 「………はぁ…」 どうすればいいんだよ…とため息をまたつく。 すると、ふとキッチンが目にとまった。 …そういえば…この頃、そらるさんのことで頭いっぱいで全然食べてない気がする。 “ほら、まふ!作ってやったから食べろ!” 作業中、そらるさんが部屋にやってきて、僕に卵焼きを差し出した。 不器用だからなのか、少し焦げてて、形も崩れてる卵焼き。 “えっそらるさんが作ったんですか!?” “お前が作業で全然食ってないから俺が作ってやったんだよ” “わ…っ…なんだか、気を使わせてしまってすみません…” “いいんだよ、……ほっとけばお前、また疲労で倒れるだろ。” そういうとそらるさんは半場無理やり、僕の口に卵焼きを突っ込んだ。 口の中に広がる甘いような少し焦げてるような…そんな味。 僕が 焦げてますね、と笑うと頭にそらるさん’sチョップをかまされた。 “いいか、これからは何があってもご飯だけは食べろよ” ビシッと指をさされて、僕はくすぐったいような、嬉しいような…そんな気持ちで はい、とほほ笑んだ。 「…そうだ…」 そらるさんとの思い出を思い出して、僕はゆっくり立ち上がった。 “何があってもご飯だけは食べろよ” こんな僕をそらるさんが心配しちゃう。それだけはダメだ。 「……たまごやき、作ろうかな」 僕はそういうと冷蔵庫の中から卵を数個とりだした。 ボウルに卵と少しの砂糖を入れてかき混ぜていく。 そしてそれをフライパンにながしいれて焼いていく。 ジュー…と卵が焼かれていく音を聞きながら僕はぼんやりとする。 …今のそらるさんは僕のことが嫌いだ。 僕のことを好きだと言ってくれたそらるさんはもういないんだ。 …なんで?どうしてどうして僕たちなの? 僕、なんかした…?ちゃんと笑顔作って、リスナーの皆にちゃんと接して。 頑張ってきたのに。 やっと、やっと…愛を知れたのに。 大切な人がやっとできたのに。 なんでなんでなんで… 僕たちでなければよかったのに、と最低なことを考えてしまう。 そんな僕でもそらるさんは“好き”と言ってくれた。 辺りを見渡すと一面に青。 もともとは白と青だったが、もう今では青が部屋の全体をしめていた。 そらるさんの色。…僕が一番好きな色。 青いものに囲まれているとそらるさんに抱きしめられているようで。 僕は無意識に青のものを集めてしまっていた。 ……そらるさん…。 ポタ…と涙が頬を伝い、焼いている卵焼きに落ちる。 やばい、と思って急いで袖で涙をぬぐうけど、目からあふれる雫は止まることを知らない。 早く終わらせよう、と急いで火を強めて、ササっと卵焼きを焼き上げる。 カタン、とテーブルに皿を置き、椅子に座るといただきます、と言って箸を持った。 卵焼きを口に運ぶと、甘いはずの卵焼きがなんだかしょっぱかった。 「……馬鹿だな、塩と砂糖を間違えたのかな」 そう言って自分の馬鹿な行動に ははっと笑おうとするけど 目に留まった写真立てをみて またもやボタッと目から大きな雫が落ちる。 ……そらるさんと僕のツーショット。 幸せそうな顔で笑っている僕らを天月くんがこっそり撮ったもの。 あとからニヤニヤした顔で どーぞ、と渡された時は流石の僕も恥ずかしかった。 ……あの頃に戻りたい 卵焼きにどんどん雫が落ちていく。 さっきやっと止めたはずの涙がボロボロと落ちていく。 “泣いていいんだよ、まふ。…これからは俺がいるんだから” いつだったか、そらるさんがかけてくれた言葉。 「…っ、そらるさ……う、わぁぁぁあああああっ」 僕はひとり、リビングで泣き叫んだ。 僕の左手の薬指だけにはめている指輪が悲しそうに光った。 声をかけてくれたそらるさんはもういない 「……ん」 リビングの窓からの光で僕はゆっくり目を開けた。 昨日、そのまま泣き疲れて寝てしまったらしく、机の上には卵焼きがまだ残っていた。 ……すごく久しぶりによく寝た。 ちらりと時計を見ると、針は6時を指していた。 シャワー浴びなきゃ、と立ち上がると、浴室へ向かった。 浴室を開けると鏡の中の僕と目があい、ガタッと思わず一歩引いてしまい、後ろにあった椅子にぶつかる。 ……だってそこにいたのは。 ……昔、いじめられていた時の僕の顔とそっくりだったから。 泣き腫らして目が赤くなって、まだとれていない隈。 何より、“無関心”な僕の目。……光が灯っていない目。 鋭く鏡の中の“僕”が僕をとらえる。 “お前にはもう誰もいない” そう言われてるみたいで。 僕は逃げるように急いで浴室のドアを開け、部屋を出た。 ……ちがう、ちがう。 何か食べようと冷蔵庫のドアを開けるものの、何も作る気になれなくて。 …今日もそらるさんの病室に行くつもりだったから、 クローゼット開けて適当に服を取り出し着替える。 もう一度リビングに戻り、水をコップ一杯分飲む。 カタンっとコップをテーブルに置くと、 今日は何持って行こうか、と考える。 ……何を持っていっても、そらるさんの瞳は…心はこちらを向いてくれないのに。 「失礼します」 部屋の向こうに声をかけて、ゆっくりドアを開ける。 するとそこには珍しく、天月くん、さかたん、うらたさんが揃っていた。 そらるさんは入ってきた僕を見て、思いっきり顔をしかめた。 そんなそらるさんを見て天月くんは心配そうに僕を見る。 僕は“大丈夫”というように今日もニコッと微笑んだ。 「天月くんたちも来てたんだ。何気に来るのは初めてじゃない?」 僕はそう言いながら、今日持ってきた花をあの新しい白い花瓶に生ける。 すると、さかたんが 綺麗やね と僕が生けた花を覗き込む。 「今日はね、白いスイセンを持ってきたんだ。綺麗でしょう」 えっへん!と僕は自分の腰に手を当ててドヤ顔をした。 そんな僕を見てうらたさんは その顔ムカつく!とポカポカ叩いてきた。 痛いですよー とうらたさんにお返しでポカポカ叩いていると、 そらるさん近くにある机の上の指輪に目が留まる。 ……指輪、まだあったんだ。 その事実にホッと胸を撫で下ろしていると、そらるさんが僕の視線に気づいた。 そしてその視線の先にある指輪を手に取る。 「……これ」 何これ とでも言いたげなそらるさんの問いに、天月くんは微笑みながら答える。 「それは、そらるさんの大切な人とおそろいの指輪ですよ」 「…たいせつなひと」 天月くんの言葉にそらるさんはボソリ…と繰り返す。 そして花を良い感じに生けられないか、といじっていた僕の指にそらるさんの目は留まった。 「…それ…」 「……ぇ、あッ」 そらるさんの目指輪に留まったことに気づき、僕は急いで手を後ろに隠す。 別に隠さなきゃいけない理由なんてないけど、今は見せちゃいけない気がしたから。 …だって僕とそらるさんが結婚していること、今の“そらるさん”は知らないのだから。 さかたんが気まずそうに僕とそらるさんを交互に見る。 「……天月、窓開けてくれる?」 「え?…あ、はい」 そらるさんがそう頼むと、天月くんは言われるままに窓を開ける。 真冬だから、外の冷たい空気が下から中へ入ってきて思わず身震いする。 するとそらるさんは何を思ったのか、指輪をとり、腕をあげた。 「……ッ!!やめてッ!!」 そらるさんが何をするのか、悟った僕は止めようとそらるさんの腕をつかもうとする。 でも掴む前にブンッとそらるさんは窓の外へ指輪を投げた。 そしてポチャンッと水音がした。 「……っ!?」 そらるさんの行動にその場にいた全員が固まった。まさか、投げるとは思わなかったのだ。 僕が急いで窓の外に身を乗り出して指輪の行方を探す。 すると下の方に池が見えた。 ……さっき、水音がしたから池の方に落ちたのか…!? 僕はそれがわかると急いで部屋を飛び出した。 「…まふ君ッ!?」 天月くんの声が後ろから聞こえるけど、僕は関係なしに走った。 タッタッタ…と急いで走って、窓の外から見えた池の前についた。 …どこに落ちたんだろう…っ 池の中をのぞいたが、指輪なんて小さいからどこに落ちたか見当もつかない。 …こうなったら。 「まふ君ッ!!」 後ろから天月君がかけよってきたのがわかったけど僕はためらいなく池に入った。 ザプザプっと水音がする。真冬だから水がすごく冷たく身体がぶるっと身震いするのがわかる。 でも僕はそんなの関係なしに池に手を突っ込んで指輪らしきものがないか手探りで探す。 「まふ君ッ!やめなよ、風邪ひくよ!!」 天月君が必死に僕の肩を掴みとめようとするけど、僕はそれをグイっと押しのけて叫んだ。 「嫌だ!絶対見つける…ッ!これは僕と“そらるさん”をつなぐ唯一のモノなんだから…ッ!!」 そう言って懸命に手を動かす。 そう、これだけは。他の何よりも大切なこれだけは。 そらるさんが投げようが、捨てようが、絶対失ってはいけない。 これだけは譲れない。 ……わかってる、わかってるんだ。 今のそらるさんにとって“これ”がどれくらい嫌だったのか。 そりゃそうだろう、嫌いな相手とおそろいの指輪、結婚してたなんてわかったら。 でも、これだけは…ッ 「…まふくん」 はぁ…と後ろから天月君の大きなため息が聞こえたと思ったら、 ザプッと水音がして天月君も池に入ってきた。 え、と僕が固まってると、天月君が しょうがない、というように言った。 「二人で探したほうが早いでしょ」 「っ!」 天月君の言葉に僕の目頭がぐっと熱くなる。 じわ…と涙が滲んてきそうで急いでゴシゴシと目をこすると、 天月君がクスッと笑った。 「もーなんで泣いてんの」 「…べつに泣いてないし」 「あ、俺のセリフに感動しちゃったの?」 「……やっぱ探さなくていい」 僕がぷくっと膨れてそっぽむくと、天月君は ごめん~と心にも思ってないことを言った。 僕がそれ本当に謝ってるの?と言うと、天月君は 大真面目ですぅ~と言う。 そして二人で顔を見合わせてアハハッと笑った。 ありがとう、天月君。
Srr視点
窓から外をのぞくと、アイツと天月が何故か池のなかに入っていた。 「そっちあったー?」 「…ううん、見つからない…」 「…そう。…大丈夫、もうちょっと探そうか」 …俺がさっき投げた指輪を探しているみたい。 …なんで? なんでそんなに必死に探すんだ? アイツは俺の何なんだよ ギリッと歯を食いしばる。 気持ち悪い、嫌いだ嫌い。 アイツを見ていると嫌悪感が背中を走る。 「そらるさん、ベッドに戻ろ?病人は大人しくしてなきゃ」 うらたがそう俺に声をかけて、ベッドのほうへ誘導する。 ごめん、と俺は返事して、大人しくベッドに寝た。 坂田は庭のほうをちらちら心配そうに見ながら、あたふたしていた。 そして決意をしたように、 タオル持ってくる!と部屋を飛び出していった。 俺はもういちど窓のほうをチラ…とみる。 アイツは俺の何なんだ…
Mf視点
「まふ君、よかったね。指輪みつかって」 びしょ濡れなまま、病院を出ると、天月君が微笑みながら僕に話しかけてくれた。 そう、あれからなんとか見つけ出せたのだ。 …まるで、神様が指輪と僕をひきあわせてくれたように。 うん、ありがとう と僕が天月君にお礼を言うと、天月君は いーえ、と笑って返してくれた。 「…そういえば、まふ、ちゃんと食べてる?なんか細くなってね?」 うらたさんが僕の顔色をうかがうようにひょっこりのぞき込む。 僕のほうが背が高いからうらたさんは自然と上目遣いになる…ってことは、言わないでおこう。 「あっ本当や!なんか細くなってへん!?」 さかたんがうらたさんの言葉に反応し、僕の頬を両手でぷにぷにいじる。 天月君は黙って心配そうにこちらの顔色をうかがっている。 僕はさかたんの両手を優しくどけると、にこりと微笑みながら答える。 「食べてますよ。僕、太りにくい体質なんで身体に出ないだけじゃないですかね」 あはは、と力なく笑うと、 さかたんが なんやお前ムカつく~とポカポカたたいてきた。 でも、すぐにさかたんが顔を変えて 嘘やろ、といつもより低いトーンで言った。 いつもふざけてるさかたんの顔とは打って変わって。 なんで言ってくれないの、とでも言いたげな顔で。 …でもそれはうらたさんも天月君も同じ顔だった。 え、なんで…と呟くと、なめるなよ、とうらたさんが言う。 「今まで一緒に活動してきた仲間のことぐらいわかる」 「そうだよ、まふ君のことぐらいわかるよ」 うらたさんの言葉に天月君も頷く。 さかたんは僕の瞳をじっと見つめてもう一度聞いた。 「…本当は、辛いんやろ。……あんまり食べてないんやろ」 さかたんはそう聞くと。僕をぎゅっと抱きしめた。…強く、優しく。 するとそれに続いてさかたんの上から天月君もうらたさんも僕を抱きしめた。 「もっと頼っていいんだよ、まふ君」 「お前が辛いって思ってる分は俺らが半分持つから」 「我慢せんでええよ」 ぎゅうっと苦しいくらい三人に抱きしめられて、僕は ぽろり…と涙が目から出ておちた。 …一人じゃなかった。……一人じゃなかったんだ。 目の前のことに目がとらわれすぎて、周りのことがよく見えてなかった。 一人じゃないってことを。 それを合図に、僕は今まで我慢していたものを吐き出すように、三人の腕の中で泣きわめいた。 大の大人が何してるんだ、と冷ややかな視線を感じたけど、 三人は僕を抱きしめることをやめなかった。 そんなの関係ない、というように。 「はい、どうぞ」 ようやく落ち着いたころ、ベンチに座った僕らは 天月君が買ってきてくれたコーヒーを飲んで、ほっと一息ついた。 ちょっと熱いコーヒーが口の中に広がり、僕はようやく現実味を取り戻した。 さっきは、本当…恥ずかしいくらい泣いたなぁ… 自分の行動を振り返ると、恥ずかしくてたまらない。 「これから…どうするんだ、まふ」 うらたさんがコーヒーを口にしながらそう僕に聞いてきた。 …どうするっていっても… 「僕はこのままふつうにそらるさんと接しますよ」 そう、そらるさんが僕を思い出してくれなくても。嫌いだって言われても。 ……僕があきらめてしまったら、僕とそらるさんの繋がりはきっとなくなってしまうから。 うらたさんは僕の答えを聞くと、ふーん…と相槌を打ち、無理はするなよ、と言ってくれた。 「あと、いつでも僕らを頼ってね、まふ君」 天月君に有無を言わせないような笑顔で言われて、僕は はーい、と笑い返した。 するとさかたんが ちゃんと返事せい!と僕にツッコミをかます。 そして四人でアハハッと笑いあった。 ……僕は恵まれたな、って思った。 大好きだ。みんな ……あぁ、ここに“そらるさん”がいたら、な…
Srr視点
知らない。アイツなんて知らない。 天月もうらたも坂田もわかるのに、何故かアイツだけ知らない。 アイツを見てると嫌悪感が走る。 「…なんなんだよ…ッ!」 誰もいなくなった病室で一人ぼやく。 その近くには、きらりと光る指輪があった。 先ほど、びしょぬれになって帰ってきたアイツと天月が置いて言った物。 もう捨てないで、と悲しく縋り付くようにアイツに言われて、なんだかその表情に心が波打った。 さすがの俺もその指輪をもう一度投げる、なんてことはできなかった。 …この真冬、池の水は冷たいに決まってるし、 こんな小さな指輪、見つけるのにどれだけかかっただろう。 …しらない。おれは何もいらない。悲しそうに笑うアイツを拒めなかったことも。 天月たちがアイツと仲良く接していたことからアイツとは友人なのだろう。 …そしてきっと俺も。 …でも、俺とアイツが似たような指輪をいていたことからたぶん俺とアイツは… 「……ッ」 ぎり…と歯を食いしばる。 なんで?なんで俺だけ知らない? …結婚してたなら好きだったはずだ。愛していたはずだ。 それだったらわすれるはずがない。 こんなに憎いわけがない。 「…なんで」 さっきからずっと繰り返し呟いてる言葉。何度問いても答えなんてわからないのに。 アイツの目はいつもそうだ。不安そうで悲しそうで …それでいて優しくて。 思い出した?というような…そんな期待をこめたような目で俺を見る。 天月も、うらたも、坂田も。 やめてくれ、そんな目で見ないでくれ…ッ “そらるさん” 不意にアイツの声が頭の中をよぎった。 俺はおれをかき消すように近くにあった花瓶を倒した。 パリンッと音がして、アイツが生けていった青と白の花が床に散らばり水がこぼれる。 はぁ…っはぁ…っと息が乱れて肩で息をする。 「いやだ…いやだ…ッ」 何もかも知らない自分が。大切だったはずの人を忘れている自分が。 あきらめたような…でも 好きだ、と好意が伝わってくる優しいアイツの目が。 何もかも見たくなくて、ぎゅっと目をつむると。 知らない“俺”が俺をみて嘲笑っていた。 ズキンズキンッと頭に痛みが走る。 「いやあぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ああッ!!!」 俺は痛みを隠すように叫んだ。 痛い、苦しい、悲しい、怖い、助けて 背中が冷えるようなグレーな感情が俺の心を締め付けた。
Mf視点
「ありがとうございます。…じゃあそれでよろしくお願いします」 ペコリとお辞儀をすると僕は診察室を開け、部屋から静かに去った。 今日は、そらるさんを診てくださってる先生に外出許可をお願いしたのだ。 そらるさんの、忘愛症候群は今だ未知な奇病で、身体は特に異常はないのだが、 僕と接することで何か変化はあるのか、とか 感染するのか とか… 病院で様子を見るため、そらるさんは入院していた。 でも、ずっと病室にいてばかりだから外に出たいはずだ。 だから、今度の日曜、そらるさんを連れ出して、僕の家…ううん、僕たちの家に行く。 その前に部屋を片さなきゃな、と僕は困ったように笑う。 …そらるさんとあの家に帰れる。 そらるさんが部屋にいる。 まるでそらるさんが家に戻ってきてくれたみたいだ、なんて。 “まふまふ” …不意にそらるさんの声が頭をよぎって、僕はぎゅっと唇をかみしめた。 ……叶いもしないことを、僕はいまだに願っている。 そらるさんに僕を思い出してほしい、なんて。 奇病のことはよくわかっているはずなのに。 ……思い出すはずなんてない、ってわかってるはずなのに。 「大丈夫でしょうか、先生…」 「うーん……でも、外に出たら少しは気分転換になるはず…だ」 まふまふが出てから。診察室で、そらるの医師、看護師が話していた。 「…でも、先日いきなり暴れだしたのですよ」 「ストレス、だな。……それはそうだ、自分の愛していた人を忘れた、と知ったら。 しかも、嫌いなはずなのに…と、矛盾に気づいてしまったのだから。」 医師が目を伏せて、そらるの検査結果を見つめ、はぁ…とため息をつく。 看護師も唇をかみしめて、うつむいた。 …そらるの異変に気付いた看護師が病室をのぞくと、病室は荒れていて目を見張った。 そらるは頭を抱えながら、床にうずくまり、泣き叫んでいたのだ。 医師が駆けつけたころ、ようやくそらるはようやく落ち着いたが、 心ここにあらず、という感じで目に光が灯っていなかった。 「…何事もなく終わればいいのですが…」 看護師はそうつぶやくと、まふまふが出て行った扉を悲しそうに見つめていた。
___日曜日。 コンコン、と控えめに扉をノックする。 「そらるさん、まふまふです。……失礼します」 …が、いつもどおり、返事はない。 僕は自分の指でグッと頬を上げると、 ニコッと笑って見せてから、病室のドアを開けた。 すると身体を起こして、ぼー…と外を眺めているそらるさんがいた。 「…そらるさん」 僕がそう声をかけると、ゆっくりそらるさんがこちらを振り返った。 そして僕をみると、目を見開き、悲しそうな表情をして、うつむいた。 ……え、どうしたんだろ… 「そらるさん?」 僕が再度声をかけても、そらるさんはうつむいたままだ。 …おかしい、いつもなら、嫌そうに眉をひそめるか、無視するのに。 …でも、今日の無視はちがう。 なんだろう。 僕は不思議に思いながらも、紙袋からゴソゴソとそらるさんの私服を取り出す。 「そらるさん、今日は外に出れますから、服を着ましょう」 外、と聞いて驚いたのか、そらるさんがやっと顔を上げた。 そして出てきた自分の服を見て、え…、と固まる。 久しぶりに見る自分の服が出てきて驚いたのかもしれない。 青いカーディガン。僕がそらるさんにあげたもの。 …覚えてないだろうけど。 「そらるさんの服です。僕は、病室の外で待っているので、着替えてくれますか?」 僕がそう聞くと、そらるさんは こくり、とゆっくり頷いた。 …よかった、大丈夫みたいだ。 僕はそらるさんが着替えられるように、急いで部屋を出た。 「…着替えられましたか?」 十分ほどたって、確認するように部屋の外から声をかける。 …返事がないので、肯定ということかな、と思い、再び中に入る。 すると、青のカーディガンとジーパンを着ているそらるさんが目に入った。 ……“そらるさん”だ… 懐かしい、求めていた僕の愛しい人を見て、 じわり…と涙がにじんできて、僕は急いで目をこすった。 あぁ、やっぱりこの人は青がよく似合う。 「…行きましょうか」 僕はそういって笑いかけると、最低限の荷物を持って、部屋のドアを開けた。 そらるさんはうつむいたまま、黙って部屋を出た。 そらるさんの瞳に僕が映ることはない。 ……大丈夫、大丈夫。 つきんつきん、と痛む胸を抑えながら。 「あ、そらるさん待ってください」 マンションへ向かう途中、僕がいつも寄ってる花屋を見つけ、そらるさんに声をかける。 目に留まったのは綺麗な白い花。 花…部屋の中に飾ったらそらるさんの気も少しは和らぐよね。 僕は早々に花屋に行くと、白い花を購入する。 花束にしてもらったから結構な量だ。 僕はそれを店の外で待っているそらるさんに はい、と渡す。 「…ぇ」 そらるさんはいきなり渡された花束に戸惑いながらも綺麗な白い花に見惚れていた。 「カランコエ。花言葉は“あなたを守る”ですって」 僕はそう言うと、ニコッと笑った。 …そう、そらるさんは僕が守る。 青いカーディガンに白い花。 青と白。そらるさんと僕みたいだ。 ……なんだかまるで僕がそらるさんを…。 …なんてことを考えてしまう僕は束縛気味なのかもしれない。 「行きましょうか」 僕は急いで思考停止すると、そらるさんと手を繋いでまた歩き始める。 そらるさんはいきなり繋がれた手に驚きながらも、抵抗するそぶりはなかった。 …手を繋ぐそぶりもなかった。 ただ、僕に手を引かれている、という形で僕たちは歩いた。 マンションの部屋の前に着くと、鍵を開けて中に入る。 暖房をつけてないから、外と変わらない冷気が僕の頰をくすぐった。 どうぞ、入ってください とそらるさんに声をかけると 僕は暖房をつけるべく、早々に中に入って暖房のボタンをポチッと押した。 かたん、と靴を脱ぐ音がして、 そらるさんは花束を持ちながら中に入ってきた。 僕は青い花瓶をもち、中に水をいれると、 そらるさんから花束を受け取り、その中に花を生けた。 そしてそれをソファの近くにある棚に飾った。 青い花瓶に白い花。 うん、よし。 僕は出来に満足げにうなづいた。 「そらるさん、疲れたでしょう?ソファに座ってください」 僕は部屋をぼー…と見つめてるそらるさんにそう声をかけて、キッチンへ向かう。 寒いからココアでもいれようかな。 カチャカチャと食器棚からカップを取り出すとココアを作り始める。 ちら…とそらるさんを見ると、 そらるさんは控えめにゆっくりソファに座り、また下を向いてうつむいた。 僕は出来上がったココアをもって、そらるさんに はいどうぞ、と渡す。 「温かいうちに飲んでくださいね」 僕がそういうと、そらるさんは渡されたココアを戸惑いながらも受け取り、 おずおずとコップの縁に口をつけた。 僕はその行動に安堵すると、僕もココアを飲み始めた。 甘いココアが口の中に広がり、身体の中からじわじわと温まった感じがする。 ふとそらるさんをみると、そらるさんは一度ココアを口付けただけらしく、 コップをテーブルの上に置いていた。 「…美味しくなかったですか?それともココアは嫌いでしたか?」 …おかしいな、そらるさんはココア好きだったのに。 そらるさんの顔色をうかがうように、顔を覗き込むと、 パチッとそらるさんと目が合い、そらるさんは急いでフイッと目を逸らした。 …つきん。 胸に針を刺されたような刺激。 僕はそれをごまかすようにヘラッと笑う。 「どこか行きたいところでもありますか? …そうだ、そらるさん音楽聞きたいですよね。 入院してる間はネット禁止でしたし」 僕は急いで立ち上がると、作業部屋からノートパソコンを取り出し、 そらるさんがよく聴いていた作業用BGMを流した。 「そらるさん、これ好きでしたよね。 Twitterとかはできませんけど…すみません。」 歌い手活動は休止したから、現在でもTwitterは荒れているのだ。 今、情緒不安定なそらるさんにそんなもの見せられない。 「…………。」 「…そらるさん?」 何故かずっと顔をしかめたまま黙っているそらるさんを不思議に思って、 僕はもう一度声をかける。 すると、我慢していたものがプツッと切れるように、そらるさんは立ち上がり叫んだ。 「…なんで。 なんで俺の好きな物とか全部わかんだよッ!! 俺はお前なんか知らない、知らない!!! なんでここに連れてきた!?俺の私物がいろんなところに置いてある!! 知らない、知らない事実なんて認めたくない!!!」 知らない事実……結婚の事だろうか。 そらるさんはそう叫ぶと、ガシャンッと机の上に置いてあったココアを倒す。 バシャッとココアが飛び散り、そらるさんの手にかかる。 …っ火傷しちゃう 僕は急いで近くにあったタオルでそらるさんの手を拭く…が、 その手はそらるさんによってパシッとはじかれてしまった。 「やめろやめろッ 俺に優しくすんな、近寄るなッ!! いやだいやだ、こんな俺嫌だッ!!」 そらるさんはそういうと、へなへな…と座り込んだ。 「…消えたい…ッ」 「…っ!!!」 ぼそっとつぶやいたその言葉に僕は衝撃を受け、 衝動のまま、ぎゅっとそらるさんを抱きしめた。 「…やだっいやだっ!!!」 そらるさんは必死に抵抗して僕から離れようとする。 でも僕は離さない。そんなこと言われたら離すものか。 「なんで、なんでなんで!!!構うなッ放っておいてくれよッ!!」 「嫌ですよ…っ」 僕の言葉にそらるさんは涙を必死にためた瞳で僕を見る。 何を言ってるのかわからない、という目だ。 僕がまっすぐそらるさんをみると、パチッと目が合った。 …でも、逸らさないそらるさん。 …今日、やっと目が合った… 「僕は貴方が大好きだから。愛してるから。 絶対にそらるさんを放さないし、離れないから。 …前はそらるさんが僕を守る、って言ってくれましたけど。 今回は僕がそらるさんを守るから」 僕はそういうと、ちゅ…とそらるさんに優しいキスをした。 今まではそらるさんが僕を守ってくれた。 一人じゃないよ、って言ってくれた。 好きだよ、って言ってくれた。 ……次は僕が守るから。 貴方が思い出してくれなくても、僕のことが嫌いでも。 そらるさんは僕が言ったことにぽた…と涙があふれ、 ふるふる、と頭を横に振った。 「やめろ!」 「…ぃっ!」 そらるさんが僕の身体をドンッと押して、テーブルにぶつかる。 そしてその瞬間。 そらるさんの腕が棚にぶつかり、 上に飾っていた花瓶がよろけてそらるさんの頭上へ落ちてくる。 ……そこからは何もかもがスローモーションだった。 「…っ! そらるさん…ッ!!」 僕は急いでそらるさんの上に覆いかぶさるようにそらるさんを倒した。 そしてパリンッという音と、頭に響いた鈍く鋭い痛みに 僕は目の前が真っ暗になったように 意識を手放した。 …最期に見たのは “赤”と、そらるさんの青。 …あぁ、そらるさんを守れた。 僕の大好きな人を。愛した人を。 ありがとう、最期まで好きでいさせてくれて。
Srr視点
パリンッという花瓶が割れた音。 目の前に広がる血、“赤” 白いカランコエの花が飛び散った。 そして俺の上に倒れて動かないアイツ。 「……ぁ…ッ」 その瞬間、ズキンッと頭に鋭い痛みが走った。 「い”…ッ!」 ズキンズキンと響く痛みに俺は頭を抑える。 痛い痛い痛い痛い痛い……っ ヤダヤダヤダッ また……俺は……ッ でもその瞬間、頭の中にたくさんの記憶が流れ込んできた。 “そらるさん!” “ちょっと、聴いてますー?” “僕が一人になったら…そらるさんがきてくれるんでしょう? じゃあ、怖くないですね” “大好きです” 「……ぁ……あ…ッ」 大好きな人。愛していた人。 白い髪で笑うと綺麗な人。 少し高い声でいつも元気な人。 …でも凛とした背中とは真逆で本当はすごく弱くて儚い。 そんな人を俺はずっと守ってきた。 〜♪ 作業用BGMの曲が変わって、聞き覚えのある歌が流れてきた。 〜桜花、君に恋したようだ 〜今日もそばにいていいですか ……ずっと一緒にいて。 そばにいてくれた人。 「……ぁ、…まふ、まふ…っ」 ボロッ…と流れた大粒の涙。 拭おうとも、まふまふの血で汚れた手を見て、 俺はまた涙を流す。 もう動かない彼の身体。 赤い血と白いカランコエの花がまふまふを綺麗に彩っていた。 「…ぁ、まふ…っ」 誓ったのに。 辞める時も健やかなる時も富めるときも貧しいときも 喜びのときも悲しみのときも ___死が二人を分かつまで。 俺はまふまふのことを愛するって。 「……っごめ、まふまふッ……うわぁぁぁぁああああああ!!!」 俺はまふまふの身体を抱きしめて声が枯れるまで泣き続けた。
ピーポーピーポー… 鳴り響く救急車のサイレン。 記憶が戻った後、ようやく冷静さを取り戻した俺は、急いで救急車を呼んだ。 車内のベッドで人工呼吸器をとりつけられ、横たわっているまふまふ。 俺はその隣でぎゅっと唇をかんでずっとまふまふの手を握っていた。 幸い、まふまふにはまだ息があった。 出血はひどいけど、もしかしたら…持ち直してくれるのかもしれない。 どうなるかは誰にもわからない。 おねがい、おねがいだから…死なないで、まふまふ。 また笑って… 俺はお前の笑顔が一番大好きなんだから。 まふまふの手術中、俺は別室で指輪を握りしめて待っていた。 たくさん、傷つけてしまった。 たくさん、泣かせてしまった。 たくさん、不安にさせてしまった。 …俺がずっとそばにいる、って誓ったのに。 どれだけ辛かっただろう… まふまふは心が強いほうではない。リスカしてしまうくらい心が弱い。 だから今まで俺はそんな不安定なまふまふを支えてきた。 そんな俺がまふまふを拒絶してしまった。 その事実をまふまふは受け入れることが出来ただろうか。 ギリッと歯を食いしばる。 どれだけ自分を責めても責め足りない。 「そらるさん!!」 ぱたぱた、と うらた君と坂田と天月が俺のほうへ走ってきた。 俺の前に着くと、三人ではぁはぁ、と息を乱していた。 俺から連絡が来た時、すぐ駆けつけてきてくれたんだろう。 三人の顔をみたら、なんだか緊張してずっと張りつめていた糸がプツッと切れる感じがして、俺はその場にストンッと力が抜けて、床に座り込んでしまった。 そしてゆっくりゆっくり…自分がしてしまった過ちを話し始めた。 自分がまふにしてしまったこと。 何度も不安にして、何度もなかしてしまったこと。 三人は黙って頷きながら聞いてくれた。 ようやく落ち着いたころ。 天月が俺に あのね、と声をかけた。 「まふ君ね、そらるさんに拒絶されても、“あきらめない”って言ってたんです。 僕がそらるさんのこと好きなのは変わらないからって… …大丈夫、まふ君はわかってます」 天月の言葉にうらた君も坂田も うん、と力強く頷く。 あぁ…本当に 「…ごめん…っ…ありがとう…」 それしか言葉が見つからない 俺がそういうと、三人は 何をいまさら、って笑ってくれた。 ガチャ、と部屋のドアが開き、ふぅ…と息をついた医師が入ってきた。 俺たちが駆け寄ると、医師は 今、手術を終えました、と言った。 「…そ、れで…結果は…」 お願い、まふおねがい… 震える声で、そう聞くと医師は顔をあげて、 「成功です」 と俺に微笑みかけた。 その言葉で俺たちは はぁぁぁ…っと安堵する。 「…っよかった……」 俺に至っては安心しすぎて、涙が出てきた。 「今はベッドに寝かせています。もうすぐ麻酔がきれるところですが… 部屋は○○×号室で…」 「!? そらるさん!?」 医師の言葉を最後まで聞かずに俺は部屋を飛び出した。 後ろから坂田の慌てた声が聞こえたけど、そんなことより まふ だ…っ 「…っまふ…っ!!」 病院は走らないでくださいって言われたけど、悪いけど気にしてられない…っ!! ガラッと勢いよく病室のドアを開けると、まふがベッドで寝ていた。 「…まふ…っ」 色白のその頬に優しく触れる。 長いまつげが影をおとして、さらさらの黒髪がゆれた。 生きてる、まふがいる… 俺はその事実にやっと現実に戻れたような気がした。 ぽた、ぽた…と雫が頬を伝う。 「ごめん…ごめん、まふ…っ 誓ったのに…っ守れなくて…」 ぎゅ…っとまふまふの手を握る。 その上にぽたぽた、と雫が落ちる。 その瞬間、ピクッとまふまふの手が動いた気がした。 「…そらるさん」 幻聴だろうか、 ずっと聞きたかったその声が俺の耳に届いた。 涙でいっぱいの目をゆっくり開くと、嬉しそうに笑うまふまふが目に入った。 「…まふ…?」 俺が名前を呼ぶと、はい、と はにかむ まふ。 そっと、まふの頬を手で触ると、俺の手を愛おしそうに頬ですりすりしてきた。 俺はまた目頭が熱くなって、ボロボロと大粒の雫を流した。 そんな俺をみて、まふは 泣きすぎです、と笑った。 でもそんなまふも目に涙をためている。 「まふまふごめん…っ守れなくて…っ」 「…ちがうよ、そらるさん。あの時は僕が守りたかったの」 涙で濡れてる俺の頰をまふまふは優しく触れる。 そしてこれ以上にないくらい綺麗な笑顔で言った。 「…おかえりなさい、そらるさん」 「…ただいま、まふ」 ずっと言えなかった言葉を。 俺は棚の上に置いてあった、まふの指輪を手に取ると、 ゆっくり…愛を確かめるように唱えた。 「病める時も健やかなる時も富める時も貧しい時も喜びの時も悲しみの時も 死が二人をわかつまで… ううん、死んでも、来世でも 俺はまふまふのことを愛することを誓います」 そう言ってまふまふの薬指にそっと指輪をはめた。 まふまふは 僕もです、と泣きながら笑うと、 俺の指にも再度、指輪をはめてくれた。 久しぶりだ、お互いの指にお揃いのリングがはまっていることは。 そして 優しく…まふまふの頰を両手で包み、そっと唇を近づけてキスをした。 一旦身体を離してお互い見つめ合うと、 なんだかおかしくなって二人でまた笑いあった。 もう絶対、この手を放すものか。
3人視点
「……どういうことでしょうか、先生」 そらるが部屋を飛び出してから。 まふまふの病室に向かいながら、天月たちは医師から事情を聞いていた。 「忘愛症候群って…まふが死なないとそらるさんは記憶を取り戻せないんですよね?」 そう、普通ならあり得ないのだ。 医師は そうなんですよ、と坂田の言葉にうなづく。 「本来ならそうなんですけど…あくまで私の推測ですが、 きっとまふまふさんが倒れたとき、 そらるさんは“まふまふが死んだ”と勘違いしたのでしょう。 脳がそう勘違いを起こしたから、強制的にそらるさんの記憶が引き出された。 つまり、死んだ、と思わせることで、記憶が戻ったんでしょう」 「…そんなことがあるんですか?」 医師の言葉が信じられない、と言うようにうらたは言う。 そんなうらたの言葉に医師は困ったように笑った。 「そもそもこの奇病自体信じられないものですから。 今回のケースは本当に奇跡ではないでしょうか」 忘愛症候群は非科学的だ、と。 医師がそういうと、たしかに…と納得する3人。 「まぁ、でもいいんじゃない細かいことは。」 「そうだな、あの二人が幸せなら…」 ようやくついたまふまふの病室でドアを少し開けてこっそり覗く三人。 中には幸せそうに笑いあっている二人の姿があった。 天月はそっとポケットからスマホを出すと、 カシャッと二人をカメラに写して撮った。 そんな天月をみて、うらたと坂田はクスッと笑う。 「どうせ、あとで二人に見せるんだろ?それ」 「お。わかってますねー。当たり前じゃないですか、リア充爆ぜろ!って言ってからかってやりますよ!」 んふふふ、と笑い、明らかに悪巧みする天月。 坂田は 相変わらずやな!って言ってまた笑う。 「…で、俺らどのタイミングで入るんだ?」 うらたは困ったように笑って、中の二人をまた見る。 すると天月はカシャカシャカシャ!とカメラを連続で撮り、 「あの二人が気づいたら、ですよ!」 とニヤニヤしながら言ったのだ。 そんな天月を見て、坂田は 俺もやる!と言って ポケットから同じようにスマホを取り出して連写する。 「…アホか、お前ら」 うらたは二人を見てくすくすと笑ったのであった。 二人を止めないあたり、うらたも共犯者だ。 そのあと、やっと気づいたそらるとまふまふに 顔を真っ赤にしながら 早く入りなよ!って怒られたのはまた別の話。 ……おかえり、僕と貴方の一分一秒
一ノ瀬
一ノ瀬
一ノ瀬
一ノ瀬