青へ出る準備をする。
必要最低限のものを積み込み、声を上げて
青の中を、泳いで行く。
手に入らないものは世の中にどれほどあるだろう。と。
当たり前のように存在する空が、欲しかった。
何処かで見た本の主人公かと、自他共に思った。
絵も写真も言葉も、その一瞬を捉えることはできない。
誰一人として、同じ景色を見ることはできない。
その0.13秒の景色を、覚えることもできない。
俺だけが見れる、自由な青が好きだった。
だからこそ、空軍へと配属が決まった時は思わず飛び跳ねた。
見えない一線を飛び出して、向かう先は地獄でも、
誰よりも空に。一番近くへと。
何にでも染まり、平等に存在する空。
トランシーバーからガサガサと音質の悪い音が
まだ耳に張り付いて離れない。
粗方、もう戻って来いってことやろうなあ。
怒りながらも嬉しそうに笑う笑顔が脳裏に浮かぶ。
隊長も、副隊長も、先輩も、同期も、後輩も。
みんなが俺が飛ぶことを嬉しがっていた。
先輩
先輩
先輩
先輩の声が頭に、風のように何処からともなく現れる。
でこぼこに盛り上がった雲が白く輝き、
濃さの違う青が一面に広がって遠くまで見えない。
そんな景色の中、輝く車体を傾けて戻って行く。
そんな、そんな空が好きだった。
練習の合間、自由に飛び回った時の景色が。
交戦中、敵とすれ違った際の顔が、
どこか、空が、この行動を肯定してくれる気でいた。
そんな毎日から舞台はガラリと変わり、
隊長に呼び出され、何かと思えば。
隊長
何故、俺よりも悲しそうなのだと、
一周回って心は水に静まる。
俺よりもみんなが泣いてたり、悔しそうだったりで
自然と曇ってしまう心で、海軍へと向かった。
あの瞬間を、景色を、残せるはずがないのに
みんなの顔が鮮明に思い出せる。
それからまた数日経って、慣れたかと聞かれればそうではなかった。
空と違ってゆらゆらと忙しなく動き、
空よりも頻繁に、コロコロと色が変わる様は、
何処か威厳がないように見えた。
魚臭さでいっぱいの港。
自然と黒く焦げる手足体。
思いの外、ドンドン進級して行って、
いつの間にか海軍中佐にまでなっていた。
上がっていく地位に、沈んでいく空へと伸ばした手。
ため息をつく。今更何処に手を伸ばそうと
変わったものを、取り返すことができないと分かっているから。
警備のためのやや小さめの船はかなりの距離を泳いできた。
部下に操作を任せ、甲板へと向かう。
水天一碧。
空と海の色が同化して境目が消える。
これを見て仕舞えば、海も空も同じやな。
掠れた笑いが波に消える。
船の外に足を出して、ギリギリで座る。
いつまでも、手を伸ばしてしまう。
あの空を泳ぎたくて。
誰よりも悲しんでいたのは自分自身だと言うのに。
少尉
中尉
少尉
中尉
忙しなくこちらに欠けてくる部下が、
夕陽に照らされて赤く、青く染まる。
まぁ、これはこれで。
ええかな、って。
タイトルから思いついてしまい 中々書き出せませんでしたが、 なんとかいい感じに。終わり良ければ全てよし。 因みにgrが動いていることは知っているものの、 knから話しかけるのはまた今度の話。
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