剣持刀也
卵焼きをひっくり返しながら とやさんが言う。
気が散らないのだろうか。
くるくると器用に 柔らかな卵を整形していく。
朝起きると もうすでにとやさんは 朝ごはんを作っていた。
さすが高校生、元気である。
昨日あんな事があったから まともに顔が見られない。
でも、言わなきゃいけない…… と思う。
剣持刀也
剣持刀也
焦って声が裏返る。
伏見ガク
伏見ガク
剣持刀也
僕に会えないのに?
何をしに?
どういうつもりで?
……まただ。 また知らないガッくんが 顔を出す。
何なんだよ本当 僕ばかりまた 何も知らないの?
剣持刀也
剣持刀也
思わず口をついて出た言葉は あまりにも 刺々しいものだったけど ガッくんは
見たこともない穏やかな顔で
伏見ガク
と笑った。
僕はそれがとても こわかった。
いつか完全に 知らない人になって、 僕の前から 消えてしまうんじゃないか って
どこかに行って しまうんじゃないかって
僕を置いていって しまうんじゃないかって
ただ、こわかった。
目を合わせることが できなかった。
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
もくもくの
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