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夜の街は、酒と煙の匂いで満ちていた。
エドリック・ライサンダーはいつものように酔っていた。
足元もおぼつかないまま屋敷へと戻り、鍵を回す指が震える。
気づけば、頭から紅い液が垂れていた。
――ああ、今日も誰かに殴られたのか。
いや、もうどうでもいい。
いつからだろう。
何もかも、どうでもよくなったのは。
偽物の名で呼ばれ、気付かないふりをして、でも屋敷の誰より愛された。
“本物”が隅で埃をかぶっているのを知っていても、目を背けてきた。
エドリック
寝間着姿の青年が、廊下の先に立っていた。
あどけない顔立ちの奥に、どこか闇を含んだ瞳。
それは、かつて純粋な愛を求めて伸ばしていた子どもの目と、同じ色をしていた。
だが今、そこにあるのは――刃。
胸に広がる熱が、なぜか懐かしく感じた。
エドリック
エドリック
――やっと罰が、来たのだ。
血に濡れた手が頬を撫でた。
ラオンの瞳には涙があった。怒りも憎しみも全部籠った色が灯っていた。
ラオン
その声を最後に、闇が落ちた。
全てが遠のき、静寂が訪れる。
――そして。
――頭に鋭い痛みが走る。
ズキッ
エドリック
昨夜の血も、痛みも、何もない。
毎日つけていた日記に目をやると、日付は――“ラオンが養子として来る一日前” に戻っていた。
エドリック
エドリック
次に同じ結末を迎えないために。
あの純粋で、残酷な弟に殺されないために。
エドリックはゆっくりと立ち上がり、鏡越しに己を見た。
――さあ、やり直そう。
エドリック
なぜラオンが俺を刺したのか。
なんて、赤子の手をひねるよりも簡単なことだ。
俺は恨まれてる。
何故なら、俺のこの立場は元々全部ラオンの物
の"はず"だったから。
俺は"ライサンダー"として扱われていた。
しかし俺にライサンダーの血など流れていない。
俺は偽物だった。
じゃあ本物は誰かって?それがラオンだよ。
ラオンは幸か不幸か、親父が遠征先で拾ってきて養子になったんだ。
でも、ずっと冷遇されていた。
俺は彼に興味なんて無かったから、何をされていたか詳しくは知らない。
だが、人間として扱われていなかったのは確か。
おかしい話だよな。
本物はゴミみたいな扱いを受けてんのに、偽物はデロデロに甘やかされて。
そんな狂った空間で、俺はなんの疑問も抱かなかったけれど。
しかし、ラオンは覚醒した。
ラオンはライサンダー家しか使えない能力を開花してみせたんだ。
それからというと、たくさんの貴族たちが媚びを売り始めた。
俺には罵詈雑言を浴びせながら......
なのに.....屋敷内では何も変わらなかった。
親父を前にして、ラオンの能力はなんの意味もなかったらしい。
ラオンは力はあれど、政治については疎いし 使用人たちのいびりのせいで教育も上手くいってなかったから。
エドリック
エドリック
今回はライサンダー家の次期当主の座をプレゼントしてやるか。
そうすれば、刺されずに済むだろう。
俺はその後一晩中、生き残るためのプランを考えた。
まず、ラオンに恨まれないために優しくして
当主にしてやる為にちゃんと教育を受けさせて
親父が俺を不要だと思っている頃に
ラオンの能力を見せて、俺を捨てさせる。
あの親父冷血だから不要ならすぐ切り捨ててくるはずだ。
エドリック
エドリック
メイド
<まだお若いのに <情けない <あんな方が次期当主になろうとは...
エドリック
マーサ
マーサ
エドリック
そういえば彼女は誰に対しても平等だったな。
ラオンに対してもしっかり尽くしていたはず...
エドリック
エドリック
エドリック
マーサ
エドリック
マーサ
エドリック
エドリック
エドリック
マーサ
マーサ
マーサ
エドリック
エドリックは眉をひそめ、ドアの方を見た。
確かに、影が一つ――ドアの縁に隠れている。
小さな影。息を殺しているのがわかる。
エドリック
エドリック
しばしの沈黙のあと、扉の影から“ひょこっ”と顔がのぞいた
漆黒の髪。 飲み込まれそうなくらい深い瞳。
まだ幼いのに、妙に整った顔立ちをしている。
ラオン
マーサがそっと背を押す
マーサ
ラオンはぎゅっと袖を握りしめながら、 恐る恐る顔を上げた。
ラオン
ラオン
エドリック
エドリック
エドリックは乾いた笑みを浮かべ、頭を軽く撫でた。
ラオン
ラオンは一瞬きょとんとしたあと、かすかに笑った。 その笑顔が、やけにまぶしく見えた。
エドリック
エドリックは気づかぬふりをして、視線を逸らす。
エドリック
エドリック
マーサ
メイドが微笑みながら頭を下げ、ラオンを連れて部屋を出ていく。
扉が閉まったあと、エドリックはグラスに葡萄酒を注ぎ、ひと息ついた。
エドリック
エドリック
エドリック
前の人生では、興味もなく、視線すら合わせなかったのに。
エドリック
その日から、エドリックの“贖罪劇”が始まった。
カチャリ――銀のスプーンが皿に触れる小さな音。
だが、対面からはその音すら聞こえなかった。
エドリックはワインを傾けながら、いつも通りの退屈な夕食をやり過ごそうとしていた。
けれど――視線の端に映るラオンの手が、ずっと止まっている。
スープの表面に映る蝋燭の火が、ゆらりと歪む。
ラオンは、ただ俯いていた。
エドリック
エドリック
低い声が、静かな部屋に落ちた。
ラオンはびくりと肩を揺らし、慌てて顔を上げる。
ラオン
ラオン
エドリック
エドリック
笑おうとしたその頬が、ひきつっている。
フォークを持つ手が、わずかに震えていた。
エドリック
エドリックは眉を寄せる。 なんとなく、皿の上に目を落とした。
――そこで、鼻に触れた。 微かに漂う、違和感。 焦げたような、鉄のような……どこか、腐臭に近い匂い。
エドリック
エドリック
使用人に呼びかけて、身を乗り出す。 ラオンの前の皿に目を落とすと、 肉の端が不自然に黒ずんでいるのが見えた。
エドリック
その声音に、部屋の空気が凍りつく。 使用人が小さく息を呑み、 慌てて手を合わせて頭を下げた。
使用人
エドリック
エドリックの声は低く、鋭かった。 ワインを置く音が、やけに乾いて響く。
エドリック
メイドは顔を青くして震えだす。 ラオンは慌てて立ち上がる。
ラオン
だが、エドリックは振り向かない。 ゆっくりと立ち上がり、テーブル越しにラオンの皿を取る。 鼻先に近づけて、ほんの一瞬で眉をひそめた。
エドリック
短く言い切ると、 そのまま皿を掴んで壁際に投げつけた。
ガシャン
鈍い音を立てて皿が割れ、 黒ずんだ肉が床に散らばる。
エドリック
怒鳴るわけでもなく、淡々とした声。 けれど、その冷たさにメイドたちは息を呑んだ。
エドリック
誰も返事ができなかった。
静寂の中、エドリックはラオンを見た。 震える肩、涙をこらえた目。
その小さな手が、皿の欠片を拾おうとしていた。
エドリック
そっとその手を掴む。 ラオンは驚いて、兄の顔を見上げた。
ラオン
エドリック
そう言いながら、 エドリックの手は微かに震えていた。
エドリック
冗談めかしてそう言い、ラオンの頭を軽く撫でる。 けれど、その仕草の裏には、確かに何かが変わり始めていた。
エドリックはその夜、 初めてラオンを「弟として」見た。
エドリック
エドリック
エドリック
エドリック
エドリック・ライサンダーは、ソファに体を沈め、 片手に持ったグラスを傾けながらぼんやりしていた。
コンコンッ
そんな中、控えめなノックの音が響く。
マーサ
聞き慣れたメイドの声に、エドリックは気だるげに顔を上げた。
エドリック
部屋の扉が静かに開き、メイドが一歩、二歩と入ってくる。 その腕には、白い布で覆われた銀の盆。
エドリック
半分冗談めかした声に、メイドはかすかに目を伏せた。
マーサ
エドリック
エドリックは目を瞬かせた。 忘れていた。誰も覚えていないと思っていた。
エドリック
メイドが布をそっとめくる。 そこには―― 小ぶりなホールケーキが一つ。 真っ白な生クリームの上に、淡い金粉と赤いベリーが散らされている。 飾り気のない、しかし品のある美しいケーキだった。
エドリック
マーサ
マーサ
エドリック
エドリックは視線を逸らす。 胸の奥がじんと痛む。 あの人は、いつも遠い。 けれど――ちゃんと見ている。
エドリック
エドリック
エドリック
マーサ
メイドが去ろうとしたその時、廊下の影で足音がした。 ラオンだ。
まるで様子をうかがっていたかのように、扉の向こうに立ち尽くしていた。
エドリック
エドリックが声をかけると、 ラオンは小さく笑いながら部屋の中を覗き込む。
ラオン
エドリック
ラオン
その言葉には、少しだけ影があった。 エドリックは気づかずに肩をすくめる。
エドリック
エドリック
フォークを二本取り、ひとつをラオンに差し出した。
エドリック
ラオンは一瞬、目を見開いた。 そして、ぎこちなく微笑んだ。
ラオン
エドリック
エドリック
ラオンはフォークを受け取り、 ケーキを小さく切って口に運んだ。 ほんの一口、甘さが広がる。
ラオン
その声が、少し震えていた。 涙の味を誤魔化すように、笑う。
エドリックはそんなことも知らず、 軽く笑いながらワインを注ぎ足す。
エドリック
エドリック
ラオンの口元が、かすかに緩んだ。
ラオン
ラオンは頷いた。 その頬に宿った笑みは―― 甘いケーキの香りよりも、ずっと苦しかった。 “優しさ”が、こんなに痛いものだと。 ラオンはその夜、初めて知った。
エドリック
エドリック
使用人たちの陰湿な視線、嫌味、無視。
ラオンがそれらを受けるたびに、エドリックは見て見ぬふりをしてきた。
だが今度は違う。 殴る。怒鳴る。躊躇わない。
エドリック
その冷たい声に、屋敷中が静まり返った。 怯える使用人たちを前に、エドリックは笑う。
――ああ、気持ちがいい。 今まで放ってきた罪を、少しだけ清算できたような気がして。
だがラオンは、不思議そうに首を傾げていた。
ラオン
その問いに、エドリックは肩をすくめる。
エドリック
ラオンの頬が、かすかに赤く染まった。 その反応を見て、胸の奥に微かな違和感が生まれる。 弟として可愛い。 ……そう思いたかった。
日が経つにつれ、屋敷の空気が変わっていった。 エドリックは面倒を見、ラオンは笑うようになった。 それだけで屋敷の空気が柔らかくなったように感じた。
だが夜になると、ラオンの視線を感じる。 寝室の扉越しに、じっと見つめる影。
ラオン
エドリック
ラオン
柔らかな声の裏に、得体の知れない熱が潜んでいた。
その後は、ラオンに勉強を教えたり、街に出かけて領民たちに挨拶に回ったりした。
そしてラオンをいびる奴らは全員締め上げ
ラオンにピッタリの環境を完成させた。
そして俺が国外に行く準備も。
同行してくれる可愛い女の子もいる。
遂に終わるんだ。
この生活も。
やがて、月日は流れる。 少年だったラオンが青年の姿へと成長する。 整った顔立ちに、冷ややかな知性が宿り始めた。 笑うとき、目が笑っていないことに、エドリックは気づいていた。
そして――。
ある朝、書斎の扉を叩く音が響いた。
ラオン
エドリック
ラオン
その言葉に、エドリックの手が止まった。 インクの雫が書類に落ち、黒く滲む。
振り向くと、ラオンの掌の上に淡い光が宿っていた。 眩いほどの魔力――直系の証。
エドリック
エドリックの背に、かつての悪夢が蘇る。 だが今回は、微笑んだ。
エドリック
ラオンは微笑み返す。 その笑みの奥に、深く沈んだ渦のような感情があることを、 エドリックだけが、まだ気づいていなかった。
春の風が、開け放たれた窓から吹き込んだ。 遠くの庭園では白い花が咲き乱れ、 その光景を眺めながら、エドリックは机の上の羊皮紙に目を落としていた。
それは国外行きの通行証だった。 公爵の印章はまだ押されていないが、準備は整いつつある。
エドリック
そう呟く声は、どこか安堵に満ちていた。
――この家から離れれば、ラオンも自由になれる。
そう思っていた。
自分がいなくなれば、彼の心も静まるだろうと。
けれどその夜、ラオンは扉の影でその紙を見てしまう。
机の上に置かれた通行証。
そして、そこに記された一つの名前。
『セラ・アルヴェイン』
同行者の欄。
ラオンの指が震える。 胸の奥が、氷のように冷たくなった。
――兄上は、誰かと行く。 ――自分を置いて。
彼の中で、何かがきしりと音を立てた。
次の日の朝、ラオンは笑っていた。 いつもと変わらず、無邪気で、優しい笑顔を浮かべて。 けれどエドリックは、なぜだか息が詰まった。
ラオン
エドリック
ラオン
その名を出された瞬間、 エドリックの手がわずかに止まった。
エドリック
ラオンは微笑んだまま、テーブルの上のシャンパングラスを指でなぞる。 グラスに映るその笑みは、穏やかで――どこか、底が見えなかった。
ラオン
エドリック
ラオン
まるで、それが当然のように。
エドリックは、ラオンの瞳の奥に一瞬だけ影を見た。 それは懐かしさにも似て――だが確かに、異質な光。
エドリック
多分最後になるであろう酒の味を噛み締めながら、少し昔のことを思い出す。
前回は明らかに陰気臭い様子だったラオンも今では、 数多の女性から黄色い歓声を得る好青年になっていた。
栄養をしっかりとらせたお蔭か身長も前回より頭一個分高い。
エドリック
正直自分を褒めて褒めて褒め散らかしたい。
親父は前回より何故か早めに〇んだし、 出国命令も出されてるからそろそろ行かせてもらおう。
どうせ1年後には再入国できるけど
もう戻ることは無いだろうな
エドリック
その夜。 屋敷の外に出ようとしたエドリックを、 ラオンが呼び止めた。
ラオン